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[読書メモ] コンテナ物語(コンテナはどのように世界の物流を変えてきたか)

はじめに

過去の歴史から物流の本質を探ることを試みている。前回は戦争における「補給」の位置づけを整理したが、今回は「コンテナ」がどのように世界の物流を変えてきたかをまとめる。

参考テキストは物流に詳しい同僚から教えてもらった「コンテナ物語」。

参考テキスト

普段目にするコンテナがいつ生まれ、どのような経緯を経て広がってきたかを物語にした本だが、コンテナの歴史はロマンにあふれ、企業におけるイノベーション創出に取り組む私にとって示唆に富む内容だった。

要点メモ(コンテナ導入前)

普段我々は、中国の工場で製作した服を買ったり、アメリカ産の牛肉でステーキを食べたりしているがコンテナが登場するまでは、考えられなかった。輸送費があまりに高くつくからである。実際、1960年にアメリカの中西部からヨーロッパ内陸部の都市に製品を輸出した際は約2,400ドルの運賃がかかっている。その内訳は、

工場から積出港までの陸上運賃  341ドル、14.3%
横持ち費用            85ドル、 4.0%
荷役その他(港)      1,163ドル、48.7%
海上運賃            581ドル、24.4%
欧州での陸上運賃        206ドル、 8.6%
=============================
合計            2,386ドル

港での費用に、半分のコストがかかっている。なぜそれだけのコストがかかるというと、
 ・港に1個ずつ届けられた貨物を1個ずつおろし検数表に記録
 ・船の準備が整うまで倉庫に保管する
 ・沖仲仕(おきなかし)が船に積み込む
 ・船で運んだあとの作業も、荷揚げ・倉庫保管・確認作業が発生する
という時間がかかり、危険で過酷な作業だった。
過酷な作業をする沖仲仕どおし、結束力がつよく、排他的な性格が強かったそうだ。倉庫での仕分け作業に高級品をくすねることも日常茶飯事で発生していたため、保険料も相応の金額だった。

要点メモ(コンテナのアイデアと初期の躓き)

荷役にかかる高いコストを解決する方法は、はっきりしていた。何千もの袋を積み込み、おろし、移動させ、また積み込むのではなく、大きな「箱」に貨物を詰めてその「箱」を運べばよい。
実際そのアイデアはあり、実際アメリカの輸送会社ペンシルベニア鉄道がコンテナ輸送に取り組んだが、当時の規則で品目ごとに固有の運賃を決めるという原則があり、「コンテナ内に収められた中で高価格品の運賃を基準にする」という規則にひっぱられ、それほどコスト削減が得られなかった。
また、コンテナをクレーンで持ち上げるためにフックをかけるためにコンテナによじ登ったり、船倉内の柱や梯子を避けて固定するために工夫が必要だったり、船の空きスペースが発生したりと、黎明期のコンテナは役にたつどころか邪魔な存在とみなされていた。

要点メモ(コンテナを実用化レベルまで引き上げたイノベーター)

埠頭の非効率の根本解決を持ち出したのは、船の関係者でない、トラック1台から身をたてたマルコム・マクレーンという男だった。

トラック運送で、マクレーンは様々な改革を行った。例えば、未熟なドライバーとベテランドライバーのペアを組ませ、1年間を無事故で過ごせば1カ月分のボーナスを出すというインセンティブ設計。それにより、保険料や修理代が劇的に減り、運送コストを下げることを実現した。

そのマクレーンがコンテナのアイデアを思い付いたきっかけが、車の渋滞。渋滞と無縁な船にトレーラーをのせて運び、荷揚港で別のトラックがピックアップして運べばスムーズに運べる。ただ、このアイデアもトラックと船がシームレスの連携できてこそ実現するのだが、トラック会社と船会社は別という当時の規制があった。それをマクレーンは船会社を買収することで規制の壁を乗り越えた。この買収は初のLBO(レバレッジバイアウト・借入金による企業買収)だった。

船のルートを確保したあと、コンテナの設計に乗り出す。
 ・タンカーのスペースにきっちりおさまる大きさにする
 ・甲板にコンテナを配置しやすくするフレームを配置
 ・コンテナの積み替えをしやすくできる金具の型を設計
 ・薄いアルミ製でも運送に耐えられる強度を確保
などの工夫をほどこし、当時トンあたり5.83ドルだった輸送コストをトンあたり15.8セントまで削減したのである。

要点メモ(コンテナ輸送拡大の障壁)

コンテナ輸送がイノベーションを生むことはマクレーンが証明した。このイノベーションを拡大するためには、
 ・コンテナ輸送専門の港をつくること
 ・(仕事が減る)港湾労働者と折り合いをつけること
 ・コンテナ規格を標準化すること
 ・行きと帰りの荷物に隔たりがないようにすること
 ・荷主もコンテナの仕組みを利用してサプライチェーンの在り方を見直すこと
といった取り組み・工夫が必要となる。その一つ一つにドラマがあり、本ではどのような障壁があり、どのように乗り越えたかが詳細に記されている。
その障壁を乗り越える努力があり、国をまたいだ運送コストが劇的に下がったからこそ、労働力の安い国で生産された製品が世界各地で使われるグローバルサプライチェーンまで発展したのである。

トヨタのジャストインタイムも、コンテナ輸送の配送網が発達したがゆえに生まれた生産方式であると述べられている。
「コンテナ」が世界経済にもたらした影響は計り知れないのである。

まとめ

イノベーションを実用化に引き上げるために必要なことは、
 ・イノベーションが活用されるシナリオを徹底的に考え抜くこと
 ・ある領域で結果を出すこと
 ・イノベーションにより不利益を被る人を説得すること
 ・効果が最大化されるために工夫を繰り返すこと
という当たり前だけど、地道な努力が必要であることをあらためて感じた。
コンサルタントを生業としているが、変化の創出のために、目の前の仕事に真摯に取り組んでいきたいという気持ちを新たにした。



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