![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/80054065/rectangle_large_type_2_b06dcaf1f056d9e9656fe7b5ce1222ce.jpg?width=1200)
関東で出会うキツネっ子たち①
今日訪れるのは, 珍しく初となるフィールドだ.
本当は昨年の秋に通ったところへ行く予定だったのだが, どうも予感がして, 突然行き先を変えてみたのである. “予感”というのはもちろん会える予感. 冬眠は明けているはずなのに, 僕の前に一向に姿を現さない, ツキノワグマに.
日の出と共に山へ入り, 暗くなってから出てくる.
彼らが起きてから
週末のたびにそれを繰り返しているが,
なかなか出会えない.
シカ, サル, アナグマ, タヌキなどの哺乳類,
オオルリ, キビタキ, クロツグミ, コサメビタキ, コルリなどの夏鳥にわんさか出会っても,
奴だけに出会えない.
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/80053633/picture_pc_b1ac3950dd4d343a53b7797d212566cb.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/80053922/picture_pc_d31bbe0a1b4be761103ddd40baa66517.jpg?width=1200)
さんざん歩いてきたフィールドの中に,
あの真っ黒な姿が在る妄想は,
脳内で何度も再生されている.
あるものは,
川の流れの音に溢れる沢の場面であり,
またあるものは,
霧の濃い早朝の山道の場面であり,
またあるものは,
雪積もる向かいの山の斜面を歩いているのを, 遠くから目撃する場面である.
僕に, 絵画としてそのイメージを放出する能力があれば, と, 時折考えることがある.
今日は, そんな妄想の一つを叶えにきた.
里山の斜面林を歩く姿の妄想である.
車中泊を済ませた場所から10分も車を走らせると, 斜面林に田畑が囲われた里山に着く.
朝日が, 草たちを濡らした夜露を煌めかせ,
新緑色に染まる葉はその光を透かし,
自らが発光しているかのように輝く.
キジの甲高い声が四方から聞こえ,
上空からは,
空高く舞い上がって囀るヒバリの声が降ってくる.
早朝ならではの, 里山の姿だ.
自然というのは, 本当に一瞬で姿を変えてしまう.
鳥たちの囀りはすぐに落ち着くし,
日光は角度を変えれば,
また異なった雰囲気を演出する.
朝日にしか為し得ない美しい光,
朝でしかあり得ない鳥たちの活発さ.
ああ, 早朝だ.
生き物が活発な, 貴重な一瞬だ.
僕がこの一瞬にときめきを覚えられるのも,
少しすればもう姿を変えてしまうことへの焦りみたいなものが, 僕の身体の中にあるからだろう.
都会には,
たくさんのコンテンツが溢れているけれど,
時間と共に,
そして季節と共に,
その姿を変えていく, 自然の造形を見ていると,
僕はなんだか,
もうそれだけで十分な気がしてしまうのだ.
生き物を探しにきたのに,
結局は景色を眺めているだけじゃないか.
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/80053742/picture_pc_f44b00b8a76a1f0c638e939c59e37d58.png?width=1200)
でも, それもまたいい.
早朝の匂いと, 夜露に湿った空気を吸いながら,
のんびりとその里山を眺めていた.
その時, 視界の奥で, 何かが動いたのが見えた.
遠くで, 何か小さいのが.
そして, それはコンマ数秒で確信へと変わった.
あの赤っぽい茶色.
そして, あの遠さでここから見える大きさ.
間違いない, ホンドギツネだろう.
200mは離れているだろうか.
カメラをむけて, シャッターを切ってみた.
再生された画面には,
真ん中に小さな赤毛の塊が写っている.
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/80053970/picture_pc_278782c84135d26a6551a3bafcddf352.png?width=1200)
そして拡大してみると,
それはやはり, 戯れる2匹の狐っ子だった。
おお!
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/80053999/picture_pc_0683c7e92913b2de8211b09b484f8afe.png?width=1200)
この時気付かされたのは,
ホンドギツネの体色のアイデンティティの強さだ.
そこに現れるかもしれない
トビやノスリ, フクロウなどの茶とも異なり,
畑に広がる土の色とも異なる.
赤でも橙でもないが,
それは相対的に見れば赤毛と呼ぶに相応しい.
ホンドギツネにしか反射し得ない色である.
その日は, 幾分が近づいて狐たちを撮ったが,
明日また出直すことにした.
彼らは三匹いて, 仲が良さそうに遊んでいた.
そして翌日, 車中泊から目覚めたのは3:30.
あの美しい朝日が注がれる前の里山は,
草, 地, そして空が,
どれも群青のヴェールで包まれているように
均質に感じる.
少しばかりヒヨドリが鳴いているが,
ヒバリたちはまだ息を潜めているようだ.
狐っ子たちのいたあの畑は,
隣の荒地より一段高いところにある.
荒地で身をかがめ,
ひょこっと頭だけ出して畑を覗けば,
狐っ子たちをよく観察できるはずだ.
荒地に入るには,
あの畑の前を堂々と通り過ぎないといけないから,
彼らがあの畑の中にいた昨日は, これができなかった. 農家の方にも挨拶をしていなかったし.
今日こそはもっと良く観察してやろうという気で, 彼らのいない昨日の畑の前を通り, 意気込んで荒地へと足を踏み入れた.
⧉
②に続きます🦊
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?