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嘘つきの旅〜岩村と高山

 日が暮れる頃、一台の車が走る。

「もう日が暮れそうだな。そろそろ宿が見えてこないと大変なんだけど。」

 そう呟くと目的の場所が見えてくる。

「あった!」

 そこにあったのは一つの小さな村だ。

「ここが岩村町か。」

 その街は古い民家、商店街が並ぶ街。

 「よし、ここで止まるか。」

 そう言って、先にゲストハウスに顔を見せ、ご飯を食べることにした。

「と言っても、まだ時間は早いけどね。」

 と言うことで、様々な所を観光しようと考え、写真を撮る

「ここの飲み屋は・・・・ここにあるのか。」

 ゲストハウスのオーナーに勧められたお店に入ることにした。

「すみません、鳥肝とビールください。」

 そのお店は、小さなお家を改造したかのようなお店だ。周りには家族連れよりかも友達や一人の人が多かった。

「おまたせしました。鳥肝です。」

 別の席で座っている坊主の青年の前に鳥肝の定食が置かれる。甘そうなタレと新鮮そうな千切りキャベツが見える。

「ここの鳥肝はそんなに美味いのかな?」

 と、期待で胸を膨らませながら数分後、自分のところにも来る。

「いただきます!!」

 そう言って食べてるとあることに気付く。

「あっ!写真撮ってない!!」



撮ったときにはほとんどなかったです。とっても悲しい。

 と、お酒を飲んでもう少しで帰ろうとした時、隣に飲み屋さんを見つける。

「さっき、聞いてなかったけど、こんな所に会ったんだ。」

 そこではジビエの串があった。自分は鹿のジビエ肉を頼んだ。

「硬いけど、美味いな。」

 そう、鹿肉は歯ごたえがあり、少しお値段が高い事以外は美味しかった。

 そして、翌朝になって朝起きると昨日見かけた坊主の青年がいた。

「おはようございます。」

 彼は頭を下げてきた。青年はとても爽やかな印象だった。

「おはようございます。」

 彼と挨拶をしながらゲストハウスの支配人とお話をしていた。もちろん、近くにいた彼も巻き込んで。

「次はどこ行くの?」

「飛騨高山へ向かいますよ。」

 俺が支配人に答えると彼も便乗する。

「良かったら、一緒にお供してもよろしいですか?」

 お供してもよろしいですか。と言われた時、中々勇気ある青年だと思ったが、悪い印象はなかったので断る筋合いは無かった。

「良いですよ。少し道中でコンビニ寄りたいので、それで良ければ良いですよ。」

「大丈夫ですよ。」

 なんというか、即答できるのは中々肝が座ってる。自分だったら一日会った人と一緒に移動なんて怖いところがある。だが、彼はそれを考えず、即答してるのは彼の人なりのところにあるのかもしれない。

 彼と車に乗りながら3時間ほど乗ってる時も彼とは世間話をしたり、身の上話をしたりしてた。どうやら彼は21歳でボランティアをやっている大学生らしい。

「選挙どうなるんですかね?」

「まぁ、結果的に日本は変わらないかもしれませんね。」

 などと、世間話をしながらかつての自分が彼の言動にちらついた。

(彼の考えは自分と同じぐらいだ。だけど・・・)

 現実は自分の思い通りにいかないことばかりになる。大切なのはそことの折り合わせだ。

 彼と共に高山市に到着した。彼と分かれる前にお昼ごはんを食べた。

「こんなにしてもらって申し訳ございません。良かったらここ奢りますね!」

 と言われてしまった。流石に、最後の最後まで彼の想いに応えないのも良くないと思い、700円ほどだったがそばを食べて奢ってもらった。

「日本一周頑張ってください!!」

「頑張りますね!!」

 そう言って自分は今日の宿に足を進めた。

「何処か、浮かないようだね。」

  聞き覚えのある声が背中からしたため振り返る。

「ヤタガラス。そんな浮かない顔してる?」

「ああ。」

 彼女はそんな自分に対して嬉しそうに笑う。

「彼はとても良い子だった。」

「良いこと言うと?」

「意見もしっかりしてて、彼なりの考えがある。俺と近いものを感じたさ。だけど・・・・」

「一寸先は闇、彼の先の未来が気になるということだろ?」

 少し低い声で彼女は俺の答えを見透かしてくる。

「まぁ、結果がどうなるかは分からない。けれど、君の運命と彼の運命は違う。それだけは忘れないように。」

 そうだな、俺も彼も違うもんな。

「そうだな。」

 俺は、その言葉に心にあった杞憂を吹き飛ばされた。

「さて、目的のところに行きますか。」

 そう思い、足を進めるのだった。

 翌日、山岳を一台の車が登っていく。

「めちゃくちゃ急だなぁ〜」

 車の中はガコン!ガコン!と音を立てながらものが転がっている。割れ物入れてはいないが、中にはいっているデッキやカードがぶち撒けられないかは自分の内心ヒヤヒヤしてる所だ。

「こんだけ急だと下りの時ブレーキパッドがイカれそうだ。」

 車はオートマだが、二速、三速と変えられるので使っていきたい。と言うか、使わないとマジでブレーキパッドがイカれる。

「そうなるとブレーキが効かなくなるからな。」

 俺は、その事を心配しながらも目的地に着く。

「そう、ここだよ。ここ。」

 高山の山岳地を登ってきた理由、それはホテルに用事があったから。自分は2週間程度の住み込みでホテルのバイトを募集したら見事受かってしまったのでここに向かうことにした。

「いらっしゃいませ。」

「すみません、募集の木野というものですが。」

「木野様ですね。あちらにおかけしてお待ち下さい。」

 自分はフロントの奥にある広間の一席に腰を掛けて待つ。

(めちゃくちゃ広いホテルだな。)

 高級、というよりかは少し年季の入ったペンションに近いホテル、ペンションよりかは大きく、部屋も見えるほどだ。

「お待たせししました。」

 自分の前に現れたのは少し年の多そうな痩せたメガネの白髪の男性が来た。

「こんにちは、木野 ひろきです。よろしくお願いします。」

 こう言うときにどういった事を言うべきなのか、わからなかった為一言言って頭を下げた。

「支配人の安です。よろしくお願いします。」

 安さんは頭を下げる。

「では、今日について少し説明させてもらいます。」

 安さんは自分の前に座る。

「今日は、木野さんともう一人、新人の人がいます。ボクが洗い場の場所の説明をしますので17時からお願いします。」

 募集で言われてたのは洗い場のお仕事だったので知ってたが、まさか今日からいきなりなのは驚いてる。こう言うのは二日目とかからスタートではないのだろうか?

「わかりました。」

 仕事である以上文句は言えない。まぁ、幸い現在14時だから説明あっても1時間以内で終わるだろう。

「ありがとうございます。では、一通り寮の説明をしますので一緒に来てください。」

 自分は、説明を終えて大野さんの後を歩く。5分ほどだろうか、歩いた所には二階建ての一軒屋が現れた。

「ここの2階がお部屋になります。」

 ・・・・ほう、ボロい家の2階が。なんか、寮と言うか、やばい宗教的なのの出家先的なアレじゃない?普通に杜撰な感じするんだけど。

「わかりました。」

 二階を開けた途端、自分の考えは正しかった。よくアングラ漫画とかであるようなタコ部屋、安そうで、カビ臭い畳8畳ぐらいの部屋に安そうなベットと布団と枕、少し大きい机が一つ。

「この部屋、エアコンが無いけど、まぁ、朝と夜は寒いから気にしないで。」

 極めつけは安さんからのこの言葉だ。確かに、飛騨高山は愛知に比べたらめちゃくちゃ涼しい。しかし、エアコン無しというのは・・・・まぁ、愛知より涼しいから熱中症にはならないだろう。マジでタコ部屋生活だな。

「じゃあ、17時から、ホテルまで来てください。」

「わかりました。17時ですね。」

 そう言って、安さんは部屋を後にする。

「ふぅ〜」

 少しため息を吐いて布団に倒れ込む。

「随分、参ってるようじゃないか。」

 声の主は倒れ込んだ自分の顔を嘲笑するように覗き込む。
 
「昨日まであれだけ楽しそうにしてたのに、いきなりの豚箱生活で絶望かい?」

 ヤタガラス・・・・コイツは、マジで性格が悪い。自分の予想を裏切られたことに対してめちゃくちゃ楽しそうに話してくる。しかも、自分の顔を見てニヤニヤしてるし。マジでうさい。

「まだ、絶望してはいないよ。けれど、少し気は滅入ったかなぁ。」

 と、嫌悪的な感情を表に出し終えると、彼女は少し黙る。

「まぁ、2週間の辛抱さ。『住めば都』なんて言うだろ?生活してれば慣れるものじゃないかな?」

 少し、自分に同情したのだろうか?彼女はさっきのような嘲笑するよりかは宥めるような言い方に変わってた。

「何?同情してくれるの?」

 半身を起こして彼女に期待の眼差しを向ける。彼女が少しは俺に対して気を使ったかもしれないと俺は信じたかった。

「同情?」

 アイツは前髪を横に流し、青い目を歪ませる。

「ボクは、キミに同情するつもりないよ。」

返答はこの一言だ。

「そんなベットのような目をしたってボクは君が失意のどん底まで落ちて精神的に参った姿を見たいから今は少し希望をあげてるだけさ。」

 しかも、畳み掛けるようにこのクソガキから言われた言葉はこれだ。マジでこいつは性格が悪い。

「はいはい。期待した自分が悪かったよ。」

 本当に、馬鹿なことだ。こんなやつが人のことを助けるなんてあり得ない。俺は少しいじけながら言ってしまう。

「まぁ、そんないじけたって良いこと無いさ。」  

「・・・・また、そうやって甘い言葉を並べるだけだろ?」

 彼女は鼻で笑う。

「いいや、今回に関しては割と本気で言ってるよ。」

「え?」 

 アイツは何故か俺の頭を撫でてくる。

「君が選択したのは生きることだ。期待してるよ。」

 柔らかく、金色の髪をなびかせ、少し首を傾げて頭を触る。本当に、こいつが何を考えてるのか、理解できない。だけど、今、この時は玲奈さんに抱きしめられた時のように心が温かい。

「さぁ、そろそろ時間じゃないかな?」

時刻は16時50分を指す。

「あっ!やばっ!!」

 アイツは口に手を当て罵る。

「ほらほら、時間の管理もできないニートですか〜?早く出発しないと遅れますよ〜。」

「うるせぇ!もう行くって!!」

 俺は部屋を飛び出し、走ってホテルまで行く。


 この物語は、嘘と真実が混じった物語

「安さん、今日はお願いします。」

「よろしく。今日洗い場を一緒に行うのは彼女だから。」

「恵みです。よろしくお願いします。」

 どこまでホントで何処までが嘘なのか、それは、貴方が見つけてください。


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