憾み〜後編2

「さてと、ボクもボチボチ始めますか。」

 今は、目を開けて天を仰いでいる人形・・・・そんな彼女の前に僕は立つ。

「キミは、自分の行っていることの危うさが分かっているのかい?」

 鋭く、刺さるように言い放つ。彼女からの返答はない。まぁ、人形である以上何もないのは当たり前かもしれない。だが、無視とは心が痛くなる。

「はぁ~、さっきのように何かポルターガイストを起こしてくれると助かるんだが・・・・」

バン!

「お?」

 何処からか音がする。何かを力任せに叩いているかのような、そんな鈍い音・・・・へぇー、やれるんだ。

「その姿の状態でポルターガイストが出来るのにだんまりか。なかなか悪い性格をしてるんじゃないか?」

 なるほどね。ボクとやり合う気が有るのに隠してたとは、優しいのか、挑発してるのか。

「良いだろう。その挑発、乗ってあげるよ!」

ボクは、薬指で銃を作りハンマーを下ろす。薬指の効果は相手の呪いの解除や呪いの分離が行える。力的に相手は所詮人間!このまま解呪殺す!

カタッ!カタカタカタカタカタカタ

 人形が震えるバイブレーションのように小刻みに小さく。

「キミは、ボクに挑発したんだ。それなりの代償は払ってもらうよ!」

 人形の中から黒い霧が現れた。、そして、だんだん人の形になる。

「さて、そろそろ本体が出てくる!!」

 言葉を止めてしまった。と言うより、その光景に言葉を飲んでしまった。本来人の形となります、倒すことが可能だ。そうなれば楽に倒すことができる。だが、その体を紫の霧が人形から現れ、包み込む。これはやばい!この紫の霧はこの舞台に出たかった人や悔みの思い!怨みつらみか重なり、大きな怪物を生み出してる。

「こうなると、出てくるのは幽霊なんかの比にならない怪物!」

 霧が重なり合い、人の形から段々と別の何かへと変わっていく人の大きさからもっと、もっと大きくなり、4メートル以上へ代わり、それは手なのか?足なのか?まるで蜘蛛やカマキリのように足がいや、その姿は、白い手が虫のように体を支え、その体はだるま落としの体が落ちそうな状態で繋がり、だいたい10個程で、手が1個のパーツにつき4本生え、顔はあの人形の顔となり、目を見開く。

「kyyyyyyy」
 
 その言いしれない気味悪さとうるさい声を合図にするように景色が変わる・・・・・変わってる!?

「この舞台を!!ここを禁足地に変えてるのか!?」

 樹海にいたあの黒い生物はあそこを禁足地にするのに長い年月をかけた。それを、人形から出たばかりの彼女は一瞬で禁足地を作り上げた。その景色は夜桜の舞う森の中、いや、舞台と言うべきか。それは幻想的で舞台だけ残しカーテンが閉じていた。

 彼女はビー玉のような眼をこちらに向け綺麗な歯並びをしてる歯で笑顔を作り、小さいこちらを手で潰そうと、ゴキブリを潰すように押し付けてくる。

「そんなもの!」

 ボクは適当な所に飛んで一撃を躱す。相手からしたらさながらゴキブリだろうな。

「さて、どうしたことか。」

 ボクの攻撃は風を使うギロチンを作る技がある。だが、今は密室、泣きたいことに風が来ない。

「さて、ここからどうするべきか。」

 そう悩んでるときブーと音が鳴る。

「なんだ?」

 舞台を見てみるとそこには一人の少女が立っていた。

 ☆☆☆☆☆
 俺と朝比奈さんは事務所へ着く。

「こんばんは。」

 受付の人に挨拶をして社長室へ向かうエレベーターのボタンを押す。

「社長室は、これを取るのが良いんだよな?」

 「社長室の生き方を知ってるんですか?」

「あぁ。美緒さんと一緒に乗ったからな。」

「ふ〜ん。そうですか。」

 どこか拗ねたように朝比奈さんは口を尖らせそっぽを向く。やば、地雷踏んだか?

「ま、まぁ、とりあえず、今は真実を知ってこれからのことを考えよ?」

「え、えぇ。そうしましょう。」

 朝比奈さんは、俺とは反対を見てるけど・・・・大丈夫か?

 そんな心配をしてるとエレベーターが着く。

 扉が開く。そこにいたのは座っている社長とてっぺんの髪がないおじさんがいた。

「荒木先生!!」

「着きましたか・・・・・おや?織莉子君も一緒なのかい?」

「はい!私もあの子の真実を聞きたいんです。」

 その後、俺を一見する。俺は首を横に振る。まぁ,止めれたかもしれないが、止めた所で彼女は納得しないはず。だから連れてきたんだ。そのリアクションを見た荒木先生先生はもう一度彼女を今度はまじまじと見る。

「・・・・・キミがそんな瞳をするようになるとは。随分と成長したものだ。」

「社長!」

「さぁ。そこに真実を知る人がいる。もう、隠すつもりはないらしい。」

 おいおい、今まで黙ってた人が急にどうしたことやら。人形師はまず頭を下げる。

「すみません、今まで逃げるような真似をして!」

「どうして、隠れてたんですか?」

 それを言われたとき、バツが悪い顔をしだす。

「それは・・・・・覚えてないんですよ。」

「覚えてない?」

「はい。、どうして逃げたのか、何処にいたのか、なぜあれを勧めたのか、何も覚えてないんです。」

 おいおい、今まで何処にいたのか覚えてないって、相当やばい話じゃないか?

「じゃあ!あの子のことは何もわからないのですか!?」

 朝比奈さんは必死な顔をして人形師に問い詰める。彼女からすれば友達のことに関して聞きたいはずだし、真実を知りたいはずだ。だから今も凝視している。

「大丈夫です。人形のことは分かります・・・・・・あの子の名前は早川 みつき。そして、この人形を作らせたのは・・・・・・細井山之助という人物です。」

 「細井山之助・・・・・何処かで聞いたことあるような・・・・・・」

 何かを知ってるかもしれない荒木先生は考え込む。

「そうだ!確か、第二次世界大戦後のA級戦犯の名前だ!」

 A級戦犯・・・・・きな臭い名前が出てきたな。

「A級戦犯?」

 まぁ、一般教養だと聞かない名前だよな。少し解説するか。

「戦後、連合軍が『平和に対する罪』として旧日本帝国の殆どの政治家を悪人として罰した一件。まさか、ここでその名前を聞くなんて。」

「・・・・・・」

 驚いて声が出てないのか、無言の朝比奈さんを横目で見る。朝比奈さんは驚いた顔でこちらを見ていた。

「何?そんな顔で見て。」

「いえ。ひろきさん、物知りだなと思いまして。」

 まぁ、こんなネタ歴史が好きな人でないとでてこないよな。

「まぁ、歴史が好きな人だけだよ。多分、社長さんも好きなんじゃない?」

 A級戦犯の事をすぐ出してくる辺りマジもんだろ俺より知識がある人だよ。

「とりあえず、あの人形は昭和あたりに作られた人形ということですか?」

「はい。しかも、人形はみつきという少女を生贄にして作られたものです。」

「生贄?」

「詳しいことは分かりませんが・・・・・そう言われていました。私が幼い人形師の祖父から頃噂程度で保管されてることは聞いてました。私は作り話だろうと思ってましたが・・・・まさか、本当にいるとは。」

 分かっている所はだいたい分かったが・・・・本題である。供養の仕方はまだ分かってない。

「あの・・・・あの人形、お祓いしようかと思うのですが、良いですかね?」

 人形師はボソッと口を開く。

「燃やしてください。」

 その一言を言った人形師は頭を下げて先に行く。

「行っちゃいましたね。」

「まぁ、詳しいことは美緒さんに探させよう。」

 俺は美緒さんに電話をする

 ☆☆☆☆☆☆☆☆
 ー昔々、ある所に早川 みつきという少女がいましたー

 幕が上がると10歳ぐらいの少女がスカートの裾を上げ一礼していた。

ー少女には夢がありました。それは、皆が夢見たこの舞台に立つことですー

 少女は、舞台の俳優のように大げさな身振りで大きな声で語る。

ーそして彼女は、舞台に立つために血眼になりがんまりました。ある時は泣くこともあり、ある時は、傷つくこともありました。しかし、彼女は、夢の舞台に立つことを夢見て、月下の夜桜に誓い、必死に頑張りました!!ー

 彼女は空を見上げてた。その顔は夢を見て、目をキラキラ光らせる少女。そして、現実の怪物はボクを潰そうと逃げ回るボクへジタバタしながら手足をくねらせ、体をくねらせ追いかける。 

ーそんなとき、私を応援してくれる人が現れました。それが、山之助さんですー

 そこには髪の薄くて少し太ったスーツを着たおじさんが舞台に現れた。

ー山之助さんは私のことを応援してました。

『あぁ、なんて美しい手足!顔!これが老けることなく永遠ならば嬉しいのに。』

『山之助さん。そんなこと言わなくても私はもっと大きくなってもっと美しくなります!』

 山之助さんは少し悲しい顔をしながらも私に嬉しそうに頷いてくれました。ー

 舞台の二人は、とても微笑ましく、親子のように感じた。そして、舞台は一幕閉じる。

ーですが、私は流行り病だった結核に掛かりました。ー

 その言葉を合図にもう一度舞台は開く。

「きゃゃゃゃゃゃゃゃ!!」

 幕が上がると怪物も叫びだす。まるで、トラウマを呼び起こされたかのように。

『ゴホッ!ゴホッ!苦しい。』

ー私はベットで横たわることしか出来ませんでした。そんな私を支えてくれたのがお母さん、お父さんと山之助さんだったんですー

『大丈夫だよ!接待助かる!!』

『山之助さん』

 私にとって山之助はココロの支えになってました。けれど、私は治ることなく、もうすぐ命の火が消えそうでしたー

 幕が開くとベットに横たわる少女、手を握り心配する男

『山之助さん・・・・・もう』

 ー瞼が重くなってきたとき、山之助さんは今まで見たこと無い眩しい笑みを浮かべてました。それはまるで・・・・・。

     ー私の死を喜ぶようにー
『え?なんでそんなに嬉しそうなの?』

『みつきちゃん、ボクはね。キミが死ぬのをずっと望んでたんだ。』

 ー山之助さんは私の指をおしゃべりをしゃべるよう舐め始めました。ー

『これが、みつきちゃんの味か。もう最後だからじっくり味合わないと。』

 ーえっ!?何?怖い。私、これからどうなるの?ー

『安心して、キミはもう死ぬ。そして、死んでからのキミは僕のううん。僕の家庭のそして、この人の家庭で永遠に美しいその姿で飾ってあげるから』

 ーいやだ、怖い!嫌だ!死にたくない!!死にたくはない!!ー

 目を瞑る彼女に男は頭を撫で始める。そしてその横には髪のない老人が一人立っていた。そして、彼女が目を瞑ったとき、幕が下りる。

 「この過去が、キミの過去かい?」

 肯定の代わりか、地面を叩き風圧を起こす。

「くっ!!」

 その風圧は僕の動きを止める程の威力。

「目が!!開けられない!!」

 風の強さに目が染みる耳も風の音しか聞こえない。

バン!

 何かに叩かれる音と同時に口から血が出る。そして、背中に言い表せないほどの広がるような痛みが走る。

 その数秒後、僕の顔は地面に埋もれてた。ここまで説明したがどうしてこうなったかは理解が追いつかなかった。

「一撃で、この威力・・・・・」

 力を少し入れて立ち上がろうとしたとき、また幕が上がる。

ーあれ?私の体はどうして思うように動かないの?ー

『おぉ!出来たようだね。』

『えぇ。これがみつきです』

 ー山之助さんは、私の頭を撫でてる。だけど、何も感じないの。ー

『今日から僕の家族だよ。愛しのみつき』

 ーねぇ?私の声はどうしてでないの?私の体は何で動かないの?何で、お腹が減らないの?トイレに行きたいと思わないの?何で私の目は冷たいの?ー

『さぁ。新しいキミの姿を確認するんだ。』

ー鏡に映されて出てきたのはそう。ー

 明かりは消え、一瞬幕が閉まりまた開くそして、夜桜が舞う。

ー人形に変わってた私でしたー

そこに立っていたのは僕達の前に立ってた人形だった。







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