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詩「幾つかのクロウ」👁️16

20240914

『生体認証を実行いたしました お帰りなさい クロウ』
遺跡の中から声が聞こえた
彼とジュンは辺りを見回してみたが
誰かが居る気配は無かった

洞窟の中にある小さな遺跡は 彼を確認すると動き始めた
民家ほどの遺跡が崩れ 中から鉄のパネルが四方八方に展開した
大きく開けた空洞を覆い尽くし 大きな鉄の部屋になった
その間 ずっと青白い光が放たれていた

「クロウが来たからこうなったんだね きっと」
驚きながら ジュンは呟いた
「ああ 歓迎されているようだな」
彼は煙草に火を付けて深く吸い込んだ

遺跡には様々な文字や絵が彫られていたが
鉄の部屋に変化すると それらはモニターに映し出された
「なんて書いてあるんだろうね?」ジュンはそれを見ながら言った
「これは ……俺のことについて書いてあるらしいな」

「わかるの?」ジュンは彼を見た
「わかる 見たことがない字だが 何でだろうな
 俺は 一つ目の種族 生き残り クローン……らしい
 宇宙人の侵略……これは人間のことか?」

「え? どういうことなの?」
「俺も 何が何だかわからんが
 おそらく教団が狙っているのは俺だ
 全員がそう思ってたわけじゃないが」

ジュンは考え込む彼を放っておくことにして 壁に触れてみた
青白い光が ジュンの触れた場所だけ赤くなった
「なんだろう 生きてるみたいだ」
地面に座ってみるとひんやりとした鉄のパネルだった

足をパタパタとして(心地が良いな)と考えていると
「ジュン! こっちに来てみろ」と彼が言った
彼はモニターを操作して画像を出した
彼とそっくりな一つ目が映し出された

「クロウだね これ」ジュンは呟いた
「ああ 俺は今まで 何でこんな姿に生まれちまったのか
 ずっと疑問だったが これも見てくれ」
彼は次の画像を出した

「一つ目は百年に一度 人間の母胎を借りて生まれるらしい
 目的は黒竜の復活 人間 いや ”地球人”との戦いに敗れた後
 一つ目の種族が考えた最後の復讐の手段なんだとさ」
彼と同じようで違う一つ目の画像が モニターに並んだ

「ドラゴンと人間の戦争の話をしただろう?
 あれは正確に言えば 今から二千三百二十五年前に起こった
 しかも それは一つ目の種族と侵略者である地球人との戦いだった
 一つ目は温厚な種族だから 戦いにはドラゴンを扱っていたんだと」

「それで クロウのお父さんが
 ”一つ目の種族とドラゴンは元からここに暮らしていた”
 って話していたんだね
 クロウ こんなこと知って よく冷静だね?」

クロウは笑った
「何だかよ 実感が湧かなすぎて 驚いてないな
 おそらくここに書かれていることは事実なんだろう」
そう言いながら 咥えた煙草の灰が服にかかっていた

「お前の真の能力は
 一つ目の残したテクノロジーを扱えるということだ
 おお これが此処の本当の姿か
 素晴らしい そして 美しい

 世界各地に隠された遺跡にある兵器を お前は扱える
 それは全てドラゴンの形をしているが
 実際には心を持たない 機械と同じようなものだ」
彼の父親が 縄を解いて遺跡の中へとやって来た

「あんた 此処に入って大丈夫なのか?」
「いいや 間も無く警告が鳴り響く
 そこの小僧は ドラゴンの血で許されるらしい」
そう言い終わると 鉄の部屋の中が赤く点滅し始めた

「おいおい なんだよこれ」
「お前たちは大丈夫だ 少し離れろ」
『”地球人”を発見しました 駆除します』
無数の弾丸が彼の父親を貫いた

「クソッ 何でここに来たんだよ!
 来なけりゃ撃たれなかったろ?」
「……ここに お前が辿り着いた 時点で
 もう私たちの 負けなんだ」

ジュンは彼と彼の父親を眺めていた
彼の父親は死んだ
彼はその身体を支えていた
本当は全く違う生物のはずなのに 本当の家族のように見えた

彼は父親の亡骸を部屋の隅に寝かせた
それからパネルを操作して調査を再開した
「ジュン 暇だったら眠ってても良いぞ」
「ううん 横で見てるよ 何もわからないけど」

彼は300年前に生まれたクロウの情報を見つけた
アンジェの死を知った後 ここに訪れたらしい
黒龍を復活させようと考えたが
人間を皆殺しにすることはしたくなかったと思われる

残された手記にはこう書いてあった
『俺は弱虫だ 情けない 何も出来ずに死んでゆく
 せめて アンジェが遺したドラゴンだけは守ろう
 バラクサにいた頃は知らなかったが 一つ目の居場所は少ない

 ここの近くにある村は特に一つ目への嫌悪が強い
 しかし あの家族は違った
 遺跡への興味も持っていた
 俺がここの鍵であることだけは知られないようにしよう

 遺跡の調査は資料をバラクサへ届けてからが本番だ
 彼らが遺跡の文字や絵を写すまでゆっくり出かければ良い
 村にいる あの家族は ここにしょっちゅう来るだろうが
 俺がここまで入らなければ “部屋”は展開されない

 もし 俺のような哀れな一つ目が此処に辿り着くなら
 俺のように何もしないことを勧めておこう
 人間は愚かで救いようがないかも知れないが
 もう死んでしまった種族のせいで絶滅する必要もないだろう

 ……追記するが あの家族に俺の正体がバレてしまった
 何もかも秘密にすると言われたが どうだろうか
 家族を守るためだ 下手なことはしないだろう
 だが 俺は殺されてしまうかも知れない』

「クロウ ここに書いてある”あの家族”って
 もしかしたらクロウのご先祖様ってことなのかな?」
「お前 頭が良いな そう考えると辻褄が合う
 何故俺の親が 俺を殺そうとしたのか とかな

 この遺跡を起動することが出来たり
 黒龍を復活させることが出来ると知っていれば
 その子孫は もし自分の子供が一つ目だった時
 さっさと始末出来るわけだからな」

「でも そうしなかった」
彼でもジュンでもない声が響いた
振り返ると 二人には見覚えがない男が立っていた
「初めまして クロウさん そして ジュンくん」

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