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鍵を握るのは「余白」のデザイン? 組織と事業を耕し続ける任天堂のプロダクト

コロナ禍において、もっとも注目を集めた商品の1つとして、任天堂から発売された「リングフィット アドベンチャー」があげられます。

売上を伸ばした背景については他の記事でも言及されているので割愛しますが、「あつまれ どうぶつの森」のヒットも合わせて、Nintendo Switchは、Nintendo Wiiに続いて、非常に大きな成功を収めていると言えるでしょう。

以前、「Nintendo Labo」の開発秘話についてnoteで取り上げましたが、任天堂は次々に創造性を豊かに発揮し事業を展開している企業であるといえます。

ミミクリデザインでは、「イノベーションが起こり続ける、創造的な組織の状態」を図式化した "Creative Cultivation Model(CCM)”をベースに、創造的な事業と組織のあり方について考えていますが、次々に成功を収める任天堂は、一体どのようにして事業の展開や組織状態の向上を図っているのでしょうか?

今回は、任天堂のエンジニアの取り組みを紹介した記事を見ながら、どのように創造性の土壌を耕しつづけているのか、推察していこうと思います。



発売後に「進化」した、Wiiのコントローラ

今回新たに、Nintendo Wiiのコントローラに関する記事を発見しました。

https://www.nintendo.co.jp/wii/interview/wii_motion_plus/vol1/index.html

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覚えている方もいると思いますが、Wiiのコントローラは、「Wii スポーツ リゾート」とともに発売された「Wiiモーションプラス」という拡張デバイスによって進化を遂げています。

この記事では、Wiiモーションプラスの開発についての裏話が展開されているのですが、MEMSと呼ばれる技術によって小型化したジャイロセンサーの組み込むや、既存のコントローラとの接続、さらには圧力鍋を使ったプロトタイピングなど、非常に面白い内容が展開されています。
(インタビュワーが岩田さんというのもたまらないですね)

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Nintendo Laboの開発秘話でもそうだったのですが、エンジニアたちが非常に多くの壁を、創意工夫によって乗り越えている様子が見て取れますし、その様子は難しさもあれどどこか楽しさも感じます。


エンジニアやデザイナーに共通する「構想現出」の力

どこか楽しさを感じるのは、エンジニアたちが「妄想」を膨らませているからではないかと考えています。次々にぶつかる壁に対して豊かに妄想を膨らませることで、ロジカルに考えても導き出せなかった道筋を見出していく。これはデザイナーにも共通していると思います。

自ら妄想を広げそれを構造的に整理し(構想し)、創意工夫を持って現実世界に形にしていくこと(現出させる)。エンジニアやデザイナーは、総じてこうしたアプローチによって、創造性を発揮していると考えており、こうした力のことを「構想現出」と呼んでいます。

この構想現出こそ、創造性の源です。妄想はひとりひとりの内なるところに立ち上がるものであり、何かを生み出そうとする妄想は、創造的衝動のあり方であるといえます。また、こうした妄想を構造化し他のデザイナーやエンジニアと対話したり、形として現にすることで、そこに立ち上がる意味を捉えることができるようになります。これは創造的対話を通じた意味付けであると見ることができるでしょう。

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創造性を耕し続けるための「余白」の設計

任天堂の事例に特徴的なのは、こうした構想現出の力を発揮するシーンが、企画の段階だけに止まらず、発売後にも重ねているということでしょう。

Wiiのコントローラにしても、Nintendo Laboにしても、いずれも本体のハードが発売された後に開発が行われています。Wiiに至っては本体発売の4年後に発表されています。冒頭で紹介したリングフィットアドベンチャーも、追加のハードを用いることで、楽しめるようになっています。

記事を見ても分かる通り、任天堂のエンジニアたちはハード本体の発売後に、さらなる可能性を模索し、開発を続けています。つまり自分たちが作ったプロダクトで「妄想」しつづけているのです。

創造性というのは一度発揮されれば良いものではなく、持続的に発揮され続ける土壌を醸成することが重要です。自分たちが生み出したプロダクトで、さらに何ができないか妄想を働かせ、それを形にしていくことで、さらに新しい楽しみ方を実現していく。エンジニアにとってこんなにも楽しいことはないでしょうし、自然と使っているユーザーのことを観察したくなるはずです。(まず共感しましょうと一方的にアプローチを押し付けられて困っているエンジニアと比べると、どちらが創造的かは一目瞭然です。)


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Wiiのリモコンについて感心するのは、追加のハードの可能性も見越して、発売という書のプロダクトが設計されていることです。つまり最初からさらなる発展の余地、あるいは余白を残していると言えるでしょう。


プロダクトの余白としての拡張性が、組織をも耕し続ける

このように、プロダクトにさらなる発展の余地、つまり妄想の余白としての「拡張性(エクスパンダビリティ)」が設計されていることで、エンジニアやデザイナーは、持続的に妄想を働かせ、形にしてそれを確かめ続けていきます。

せっかくプロダクトを開発したのに、気がついたら次のプロダクト開発に終われ、結局作ったプロダクトを自ら使いこなしていない。あるいはユーザーの方がプロダクトについて詳しくなっている。特にハードのプロダクトについて、こういった話は思い当たる節がある方も多いのではないでしょうか?

ハードに比べてソフトのプロダクトは、拡張性に関する考え方が非常に進んでいます。オープンソースで、ユーザーでさえもカスタマイズが行えたりもしますし、そのためのプラットフォーム(例えばGithub)も整備されています。

継続して構想現出させて続けているからなのか、ソフトのエンジニアやデザイナーの方が、盛んに勉強会をしたり、社外と交流の機会をもったりと、様々な対話を広げている印象も強く感じます。そしてそうした対話は、自分たちは何を大切にするべきなのかといった、組織のあり方にも広がっていきます。

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ハードを扱うメーカーよりも、ソフトを扱うIT系の企業の方が勢いがあるという背景には、市場の動向はあれど、個人の創造的な衝動をベースとした、コラボレーティブな対話が広がっているというのも強く影響しているように思えます。


拡張性を取り入れるための3つのポイント

任天堂が創造的であることの背景に、余白としての拡張性があるのではないか?という筆者の仮説についてここまで紹介してきましたが、こうした拡張性をプロダクトに取り込んでいくためにはどうしたらよいのでしょうか?

この記事では最後に、3つのポイントについて紹介したいと思います。

1. ガイドラインで、妄想を押さえつけない

大規模なプロジェクトやプロダクトになればなるほど、ガイドラインは必要になってきます。体験価値をしっかりと実現したり、安全性を担保したりと、欠かすことはできないものです。

しかしながら、ガイドラインによって、妄想に制約がかかる状態になっていては、それは創り手の衝動に蓋をするものになりかねません。

ガイドラインではこうなっているから、これはダメだよね。というような話が、まだ形にもしていない段階で起きていたら要注意です。

2. 完璧なモノを追い求めすぎない

特にハード面では、技術的な制約が足枷となり、なかなか理想の機能が実現しないことも少なくありません。一方でだからと言って開発を止めてしまっては意味がありません。

完璧さを追い求めず、まず走り始めることの重要性は、スタートアップの世界ではよく言われることです。一方でこれは、完璧でなくても良いということではありません。常に完璧を目指せるように、拡張性を持ったプロダクトを開発しようというように捉えるのが良いのではないでしょうか?

3. 時間的な余白も担保する

ハードウェアは、どうしても開発に時間がかかります。短く見ても1年以上、長ければ5〜10年先を見越して開発する必要があります。そのため、1つ開発が終わると、すぐに新しい企画に取り掛かる必要がある、というケースが多いのではないでしょうか?これでは、拡張性を持ったプロダクトを開発していても、エンジニアが妄想する時間がありません。

全てとは言いませんが、自社のプロダクトのさらなる可能性を探る時間を、発売後にしっかりと担保することが重要になってきます。そうした時間を、遊び心を持った、楽しい活動としてデザインすると、組織と事業を豊かに耕すことにもつながります。



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今回の記事では、任天堂が創造性豊かな事業や組織を実現している背景に、余白としての拡張性という観点があるのではないか、という筆者の仮説を紹介してきました。

変化のスピードが日に日に増していく社会において、その変化に適応していくという観点から見ても、「拡張性」と「構想現出」の関係性は、ものづくりに関わる組織や事業において重要な切り口の1つになると考えています。

「あなたの手がけるプロダクトに、デザインしうる拡張性は何ですか?」という問いをぜひ投げかけていただき、新たなプロダクト開発の対話のきっかけとしていただければ嬉しいです。


著書
リサーチ・ドリブン・イノベーション
- 問いを起点にアイデアを探究する


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