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オンラインでも豊かにアイデアを広げるための基本構造 「ナラティブな発散法」

非常事態宣言の解除も見えてきた状況ですが、ビデオ会議の風景も、日常に溶け込み始めてきたのではないでしょうか?

少しずつ慣れてきた中で、最初は感じていたストレスが薄れ始め、いずれ自粛解除になってもオンライン会議でも良いかも?というイメージを持っている方も増えているように思います。

一方で、こうした環境に慣れ始めてきた中で、ワークショップに関しては、まだまだ取り組みが広まり始めたばかり。実際に必要性に迫られて、頭を悩ませている方もいるのではないでしょうか? 

今回は、オンライン上でのワークショップを重ねる中で見えてきた、プログラムを実現させるための基本構造の1つについてご紹介したいと思います。

オンラインでのワークショップを難しくさせる要因

よく聞かれる要因として挙げられるものとして、以下の2つが挙げられます。

1. 長時間のプログラムが難しい

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オフラインでは半日や1日のワークショップを体験したことがある方も多いと思います。しかしながら、オンラインではなかなか長時間のワークは難しいのが現状です。

最も大きな原因は、パソコンの前に縛られてしまうごとなどによって、身体性が失われてしまうことです。オフラインでは席を移動したり、みんなで手を動かしたりと、体を動かすことが可能ですが、それが難しいオンライン環境では、自然と姿勢が固まることで身体が緊張し、疲労感がどんどん増していきます。

たとえどんなに休憩を意識しても、なかなか3時間以上やるというイメージは持ちにくいのではないでしょうか?1時間に1回は必ず休憩を入れる、などの工夫をしたとしても、休憩を15分以上というように空けすぎると、それはそれでワークが分断されてしまいます。
(映画1本分がやはり限界なのかもしれません)



2. アイデアの発散がうまくいかない、盛り上がりにくい

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もう1つの問題としてあげられるのが、ブレインストーミングのような発散のシーンで、なかなかこれまでのようにワークが盛り上がらないというものです。

オンライン環境では、複数の参加者の表情や些細な体の動き、息遣いや目の動きなどが掴みにくいため、空気を読むことが難しくなります。

そのため参加者間同士で様子を伺いあってしまったり、逆に誰かが一方的に話しすぎたりしてしまうことが起きやすく、結果としてアイデアの発散がなかなか盛り上がりにくくなってしまいます。


短くワークを分割して、複数日に分けて展開するというやり方で、プログラムを構成しようとしている方も増えてくると思われます。
しかしながら、短時間を複数回に分けてしまうと、毎回場を立ち上げるところにどうしても時間が割かれてしまい、盛り上がり始めた文脈を深めきれずに、また次の回に持ち越す、ということも容易に考えられます。

先行きが不透明な状況の中では、オンラインである程度長時間のプログラムを実施していく選択肢を持てるかどうかも、重要な視点になってくるでしょう。



深める、語る、膨らますの基本構造による
「ナラティブな発散法」

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そんな悩みを持っている人におすすめなアプローチが「ナラティブな発散法」と呼んでいるものです。

1. 個人で考えを深める 
2. 深めた考えをナラティブに語る 
3. グループでさらに考えを膨らます

という3つの構造でワークを構成していく考え方です。



深めるフェーズ
少し長めの個人ワークで、体を休め考えを深める

プログラムを進める場を、空間と時間の同期性の2軸で整理すると、以下のような4つの場が存在します。

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オンライン環境下でポイントになるのは、空間の同期性が低いことです。

デメリットについては既出の内容にも重なりますが、実は同期性が低くなったことによって生まれているメリットもあります。

その1つが、個人ワークに取り組みやすい、というものです。
通常の、オフラインでのワークショップだと、個人ワークの時間を取っても、微妙な緊張感が生まれてしまったり、ついつい話し込んでしまったりして、個人で視点を深める事が難しくなります。そのため、個人ワークの時間は、テーブル以外の好きな場所に移動してワークをしても良いというような指示を出したりもしますが、ワークショップを実施する場所の状況によっては難しいこともあります。

一方でオンラインでは、参加者はそれぞれ普段生活している、慣れた環境の中から接続しています。そのため、ビデオとマイクをミュートにすれば、他の参加者とは切り離した状態が簡単に作れます。

またパソコンから離れ立ち上がり、お茶を飲みながら考えを深めたりすることも可能になりますし、それによって身体性を取り戻すことで、体の緊張状態を解くことにも繋がります。この時間は休憩時間ではないため、ワークの繋がりが分断されることもありません



語るフェーズ
語りたい状態が、リズム豊かな対話を引き出す

語るフェーズでは、それぞれが深めた考えについて、時間を決めてグループ内で共有し合います。

例えワークの問いが適切になされていたとしても、深める時間を取らずに考えを共有し合うのが難しいのは、オフライン環境でも同様です。ただ、オンライン環境下では、空気を読んだりリアクションを取ったりする事が難しいため、よりその難易度は上がり、会話のリズムも弾んでいきません。

深めた自分の考えを1人ずつ共有しあうことから始めることで、それぞれの参加者がこの時間に「熱量」を持った状態で取り組む事ができるようになります。熱量のこもった発言には、自然とリアクションも生まれていきます。また時間を区切って共有し合うことで、発話量の極端な偏りも防ぐ事ができるようになります。



膨らますフェーズ
ナラティブにアイデアと想いを膨らませていく

さらに大切なのが、考えを共有しあった後の設計です。それぞれの考えの中にある、共通点や違いを探らせたり、ここに生まれていない視点を探したり、その方法は様々ですが、大切なのは深めた考えを尊重して膨らませようとすることです。単に考えをまとめさせては、せっかく深めた考えの魅力が薄れてしまいます。

またオフラインでのワークショップと比べれば、考えやアイデアの種類が多いというわけではありません。個人的には強制発想法のようなアプローチの重要性も大切だと考えていますが、数を増やすという考え方は、まだオンライン環境への慣れが少ない状態では難易度も高く、感じる負荷も増加してしまいます。

一方で、ノンバーバルなコミュニケーションに制約がかかる中でも、言葉や声で伝える想いはちゃんと伝わっていきます。無理やりアイデアを増やそうとするのではなく、深めた考えや想いをしっかりと紡いで、グループでの想いを膨らませていくことを重視することが大切になります。



基本構造を生かした、プログラムのデザイン

こうした基本の構造を生かしプログラムをデザインすると、オンライン上でも、長時間で濃い時間をデザインする事ができるようになります。

すでに4時間以上のオンラインワークショップを何度も実施していますが、ファシリテーターや参加者の慣れの問題はあれど、身体負荷を軽減しながら、しっかりと考えやアイデアを広げるプログラムを実際に実施することができています。

下記はあるプログラムのタイムライン構成です。基本構造を繰り返す形を取る事で、シンプルにプロセスを構成しています。
(企業案件のため、具体的な内容は隠して紹介しています)

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また個人ワークの時間と休憩時間を合わせて取る事で、自分の休みたいタイミングで休むことが可能なようにしています。この長い個人ワークの時間は、ファシリテーターにとっても、休息が取れたり運営チームで作戦会議をしたりすることが可能になるといったメリットがあります。
(この作戦会議は、各グループの状況をシェアしたり、プロセスを修正したりする上で非常に重要だったりします。)



さらに良いプログラムにするために

今回はオンライン上での長時間のプログラムを実現するための一つの切り口として、ナラティブな発散法という3つフェーズからなる基本構造をご紹介してきました。

この基本構造を踏まえてプログラムをデザインしていけば、まずワークショップそのものを成立させる事自体はできるようになると思います。
しかしながら良いワークショップを作るためには、テーマとなる問いのデザインを始め、様々な観点をさらに深めていく必要があります。

問いのデザインについては、6/4にミミクリデザイン代表の安斎と京都大学の塩瀬先生による共著「問いのデザイン: 創造的対話のファシリテーション」が出版されます!(すでに増刷となったとのこと、ぜひ予約してください!)

また、WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)では、こうした様々なナレッジについて、動画やテキストで配信しています。(動画は短いものも含めると180本以上あります)

5月は初月無料キャンペーンを行なっていますので、ご興味のある方はぜひ試しに申し込んでみてください!


実際にワークショップをファシリテートしたり、ワークショップのデザインにフィードバックをしたりすることも可能です。ぜひ弊社ウェブサイトからお気軽にご相談ください!


イベント情報

最後にイベントのお知らせです。
5/2に開催し、750名以上の方にご参加いただいた、安斎によるイベントが5/30に再び行われます。オンラインで気軽にご参加いただけますので、ぜひこちらもチェックしてみてください。



みなさんからいただいた支援は、本の購入や思考のための場の形成(コーヒー)の用意に生かさせていただき、新しいアウトプットに繋げさせていただきます!