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ある日の北海道で

「ああ・・・俺って生き遅れているよな・・・」

そう感じたのは20代も半ばを過ぎたころで

地元の同級生は皆結婚し、子供も生まれて

子育てに勤しんだり、マイホームを建てたりと

人生に散りばめられた数々のイベントを次々とこなしていく中で

相変わらず自分は独身で、毎日英語の勉強ばかり、たまにの長期連休は一人旅ばかりしていた

もう周りと比べる必要もないくらいの圧倒的な差を見せつけられて

まあ逆に焦る必要もないよなと

一種の開き直りにも似た思いで、一人じっくり自分の人生について考える日々だった

特に自転車旅は大好きで、ゆっくりと旅先の空気に触れながら走る道のりは

忙しいサラリーマンライフで凝り固まった自分の心を少しずつ開放してくれた

ゆっくりとじっくりと解きほぐされていく中でやっぱり心の中に宿るのは

「この先自分はどう生きたいのか?」ということ

サラリーマンも悪くない

英語もある程度喋れるようになったし

仕事も順調

でも何か物足りない・・・

もっとこう何というか、自分の情熱を燃やして生きるような日々が

料理業界に身を置いていたあの頃のような燃えるような毎日を過ごしたい

そんな渇望に心がきゅっとなるようだった

その日は北海道・函館で自転車旅の真っ最中

ゴールの函館駅近くのお土産店で地場の特産品たちを食べながら

「この漬物、もっと味付けが○○だったらいいのにな」とか

「○○を調味料に入れたらもっとおいしいと思うけどな」とか

知らず知らずのうちに色んなアイデアが出てくる自分がいた

別にもう料理人でもなんでもないし、そんな分際で偉そうなことを思っている自分が嫌になったけど

でもやっぱり「俺、料理好きなんだな・・・」って

なんというか「料理」が一番しっくりくるって

料理のことを考えているときが一番自分自身楽しんでるなと

そう認めざるを得なかった

でもね

パティシエとして一度失敗してるしね

孤独な厨房で、戦場のような忙しさの中で

自分が作ったケーキのその先にあるお客さんの顔・・・

それが見れなくなってしまった

そうなると、もうケーキ作りは単なる作業になってしまって

想いを込めて何かを作るとか

そんなことはもう全然考えられなかった

だから、またも料理をやるとしても

お客さんの顔がみたい

お客さんを前にして、料理をしたり、談笑したり

そんなイメージが自分の頭の中にうすぼんやりと浮かびあがる

でもそうなると、寿司屋とか、てんぷら屋とか、焼き鳥屋とか

そんな感じだよね

でもちょっと違う

イメージ的にちょっとしっくりこないし

また一からそういったお店で働くわけにもいかないし

だから何なんだろうなって

この頭の中にあるイメージって

何なんだろう

カウンター越しにお客さんと話ながら料理をしている自分は想像できるけど

自分が何を作っているのか

それが全く想像できない

でもせっかく浮かび上がってきた自分の将来像だから

かき消すことなく心の隅にしっかりと残しておこうと

そう思ったある日の北海道旅だった

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