見出し画像

かんたんビジュアル法律用語「契約と不法行為」 #3

今回は、民法 財産法の二大分野、「契約けいやく」と「不法行為ふほうこうい」についてみていきたいと思います。標準的な基本書、注釈書、法律辞典に基づき、かんたんに解説していきます。


契約と不法行為


1 基本的意味
(1)契約
契約とは、二者以上の法的人格による2個以上の相対立する意思表示の合致(合意)であって、その効力として債権を発生させるものです(我妻栄ほか『我妻・有泉コンメンタール民法―総則・物権・債権― 第7版』1062頁(日本評論社,2021)。

例えば、自動車を買うというような動産売買契約、一人暮らしをするのでマンションを借りるという建物賃貸借契約、あるいは、銀行から事業資金を借り入れるというような金銭消費貸借契約など、いろいろな契約があります。

契約は合意が必要ですから、例えば「このノートパソコンを代金10万円で売買する」という点について当事者同士の意思表示の合致が必要です。一方が「このノートパソコン」だと思っていたら、相手は「あのノートパソコン」だと思っていた、というのでは合意ではありません。

基本的に契約をするかどうかは当事者の自由です。誰を相手として契約するかも自由ですし、どのような内容(金額やオプションの有無)にするかなども自由に決められます(民法521条)。私たちは通常、市場の中にいますので選択の余地があり、契約するかどうか、どのような相手とどのような内容の契約をするか、その都度自分なりに判断して選んでいます。馴染みの八百屋さんに「今日は特別においしい苺が入ったから買ってよ」と元気に声を掛けられても、買うことを強制されたりなどはしません。閉店間際であれば、値引き交渉だってするかもしれません。値段という主たる契約内容も自由に交渉して変えて構いません。

契約が成立すると、債権が発生します。図のノートパソコンの例ですと、買主であるAさんには、売主である株式会社Bに対しノートパソコンという目的物を引き渡すよう求めることができる債権(目的物引渡請求権)が発生し、他方で、株式会社Bには、Aさんに対し代金10万円を支払うよう求めることができる債権(代金支払請求権)が発生します(民法555条)。


(2)不法行為
他方で、不法行為とは、故意または過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害し、これによって他人に損害を生じさせる行為です(民法709条)。これにより、被害者には、加害者に対する損害賠償請求権という債権が発生します。

例えば、Xさんがカフェのテラス席でコーヒーを飲んでいたところ、ちょっと目を離した隙に、足元に置いておいたバッグ2点をYに窃取されてしまったような場合です。Yは盗んだバッグは内容物を含めすぐに闇ルートで転売してしまったので、Yが逮捕されてもバッグは戻ってきません。そこで、Xさんは、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償請求をすることになります。内容物を含めバッグ2点の相当額が5万円であれば、Xさんは、Yに対し5万円を支払うよう求める損害賠償請求権を有することになります。

不法行為も契約も、相手に何らかの行為を請求することができる債権が発生する原因となるという意味では同じです。しかし、その原理が全く異なります。契約は合意をその本質としますが、不法行為は合意も何もありません。突然、加害行為が来るわけです。窃盗は加害者の故意による加害行為により、交通事故などは加害者の過失による加害行為により、当事者は問答無用に「不法行為」という法律関係に入ってしまいます。


2 コメント
契約は法の世界の最重要概念の一つであり、広義や狭義など定義もさまざまあって、難しい問題がありますが、まずは不法行為との対比で概念を掴んでおくのが良いのではないかと思います。



【参考文献】
・法令用語研究会編『法律用語辞典 第5版』(有斐閣、2020)
・高橋和之ほか編『法律学小辞典 第5版』(有斐閣、2016)
・我妻栄ほか『我妻・有泉コンメンタール民法―総則・物権・債権― 第7版』(日本評論社、2021)
・中田裕康『契約法 新版』(有斐閣、2021)






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?