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目的と手段

戦闘でも勉強でも仕事でも目的と手段はよく混同されます。これを明確に認識する事により成功の可能性はぐんと上がります。

目的(戦略)と手段(戦術)

手段はすぐ目的のふりをします。南のある港を占領しろという命令が下りました。日本のある戦艦がその港を占領に向かいました。この場合目的は港を占領するということです。現場に行ったら当然その港を守っている敵の戦艦がいました。日本の戦艦が攻めてきたので敵の戦艦が迎撃し、戦艦同士の戦いになりました。たまたまその時日本戦艦の戦力のほうが優勢で、敵の戦艦が港から逃げ出しました。

『さて、この戦艦はどうしたらいいのでしょう ?』

元々、作戦本部からは港を占領しろという指示が出ていました。ところが敵の戦艦が迎撃に出てきたので現場の指揮官は撃沈しろという命令を出しました。すると敵戦艦が逃げ出したので、どうするかと言われて、追撃しろという指示を出してしまいました。追撃していったら、敵艦の逃げ足が予想より速くて敵の主力艦隊のほうまで逃げてしまいました。

気がついたら敵艦隊に囲まれていました。それは半分偶然で半分は敵の計略でした。気がついた時にはもう日本の戦艦は火だるまでした。当然、当初の目的である港の占領もできませんでした。

情報不足による戦術

現場にいない上層部の命令で、無茶な作戦をやらされると現場の隊長が青筋を立てて怒ります。『こんな馬鹿な作戦ができるか』というわけです。日本の作戦本部では等高線が無い地図が使われている事もあったようです。いわゆる机上の空論です。それでも御名御璽(天皇の署名と公印)すなわち全ては天皇の命令ということですから、どんなに無謀な作戦でも拒否できません。それを後の時代になって『あれは無謀な作戦であった』と非難したりしていますが、当時命令は絶対だったのです。

現場を知らずに、失敗する可能性の方が高い命令を出すのですから愚かの極みです。軍隊の指揮系統の大元、参謀本部には秀才といわれる人間が多数いますが、彼らが愚かなことが多かったみたいです。戦闘するのは連隊長以下第一線の指揮官と兵士です。彼らは実際に弾幕の下をかいくぐらなければなりませんから、考える事が理にかなっていました。

ですから上層部から無茶な命令が来ると彼らは腹を立てます。『とにかく前線に向かえ、武器以外は持たずに食料は現地で調達せよ』というような無謀な命令がよく出ました。軍の中枢部は軍官という官僚が支配する役人の巣窟で、戦闘経験のないような人が命令を出していました。これはビジネスの現場にも度々あります。

作戦が通用するのは緒戦だけ

これはドイツの鉄血宰相ビスマルクの参謀モルトケ将軍の言葉です。敵も利口になる。作戦を変えてくる。太平洋戦争で日本は同じパターンを繰り返しました。夜の奇襲作戦で成功した味が忘れられず何度も敢行しました。毎夜繰り返される奇襲などありえません。夜毎に奇襲をかければ奇襲でなくなってしまいます。

織田信長は破天荒な戦ばかりした印象がありますが、実は逆です。桶狭間の戦いはたった5千の軍勢で2万5千の今川軍に奇襲を行い撃破しています。しかしその後の信長は兵力・物力ともに相手を上回らない時は戦をしていません。『小よく大を制す』という奇襲の魅力的な罠にはまらなかったのです。

『勝とうと思えば、自分より強い相手とは戦わないことだ』と宮本武蔵も言っていますが、織田信長は桶狭間の成功体験をアンラーニングしました。相手が公家風の今川義元だから勝てた。武田信玄には通用しないことを知っていました。戦はこちらの作戦通りに運ぶとは限りません。

経営の場合も成功という甘い前例は多くの経営者がはまり易い心理の罠です。時代が変われば消費嗜好も技術も変わっています。過去の成功体験は過去のもの。過去に縛られて成功体験をアンラーニングできない企業はそのうち滅びます。

勉強の目的

元々勉強は実生活に活かせるものであり、それ自身が目的の時は楽しいと感じていました。その目的が試験でいい点を取る事と思わせられた時それが消えた。他人が決めた基準に従って、その他人が作った問題でいい点を取る事は本来の目的ではありません。そこに重点を置きすぎた日本の教育方針は問題ありです。

同様に仕事の目的がお金儲け(お金を貰うこと)になった時、楽しくなくなる事があります。仕事の結果、他人に喜んでもらったり、世の中が便利になったり、自分自身が満足したと感じるとき、仕事そのものを目的と感じ、楽しく仕事ができるのではないかと思います。

目的達成機構

人間の脳はひとたびその目的を入力すると、取り消さない限り必ずそれを実行するようにできていて、その人間を支配します。それを上手に使えるかどうかによって人生が決まっていきます。失敗する人の多くが教育を受けていない事を理由にするのは全くの勘違いで実は脳の機能をうまく使えるかどうかにかかっているのです。また目的達成機構自身が脳神経組織ですので心身ともに快適なときは脳の機能が順調に働きます。

人生の中で目的を持っている時は少し位辛いことがあっても体は快調に働きます。ところが目的がなくなると、みるみるうちに体もダメになるし、気迫もなくなっていきます。それはつまり、生体をコントロールしている自律神経がコンピュータとして働いているからです。

ここで大事なのは目的が全部視覚化され、映像にならないとダメだということです。一億円儲けようと思っても一億円という単位は目標にはなりません。金額そのものが目標にならないのはそれだけでは自分自身がなりたい状態を思い描けないからです。要するに、自分の脳に絵として想像できるものしか目標になりません。これは脳の目的達成機構のおもしろいところです。

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