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カノンとレオン6【5分間小説】

【カノンとレオンの第6弾です】
ショートショートで投稿したカノンとレオンの第6弾を書いてみました。カノンが引っ越しをしないといけないことに!引っ越し先はどこに!? よろしければ最初からお読みいただけると嬉しいです。

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【本編】
「え!? それほんとに?」

カノンが驚いたので僕も驚いた。
何があったんだろう?その後も、しばらく電話は続いた。

「わかった…。うん、はーい。じゃあね」
カノンはようやく電話を終えた。15分は話していただろうか。普段あんまり電話しないカノンにしては珍しかったし長かった。

「ふぅー」テーブルに両肘をついて頬杖をつきながらカノンはため息をついた。何が起きたのかさっぱりわからなかったけど、心配だったからカノンの足元をグルグル回って、クーンと言ってみた。

「あ、レオンごめんね、今夕飯準備するね」
違う。お腹は減ってるけど、今は心配の方が大きい。
でもカノンがそう言ったらお腹がグーと鳴った。

「そうだよね、お腹減っちゃったよね」
だから、そうじゃないんだって。

カノンは僕のご飯と自分のご飯を作るのにキッチンに行った。僕もトコトコついて行って、カノンのそばで伏せた。チラチラとカノンを見るけど、何も話してくれない。時々、もうちょっとだからね、って言うだけだった。

「さ、できたわよ」そうカノンが言って、2人でリビングに戻った。僕は、いただきますのワン!を言って食べ始めた。

「レオン、おじさんが帰ってきちゃうんだって…。引っ越さないといけなくなっちゃった」
ご飯を食べている僕にカノンが話しかけてきた。僕は食べながら耳をそばだてた。
「海外赴任も、もう5年も経つからそろそろかなって思ってたんだけどねぇ…」

カノンの独り言はこう言うことみたいだった。
僕たちが住んでいるこの部屋は、カノンのおじさんの部屋、おじさんは5年前から海外に行ってて、その間カノンが住まわせてもらってた。で、その後、僕もやって来た。そのおじさんがこの夏に戻ってくるらしい。

僕はカノンと出会ってから、ずっとこの家で育って来たから他の家を知らない。

どんなところに行かなきゃいけないんだろう…。
そもそも僕は新しいところに連れて行ってもらえるのかな…。

急に不安がやってきた。

寝つきの悪い夜を過ごした。そっとカノンを見に行くと、部屋でパソコンとにらめっこしていた。新しい部屋を探していたみたいだ。

朝がやってきた。土曜日だったのと、二人とも寝不足だったのとがあって、だいぶ寝過ごしてしまった。

「レオン、急いで!散歩に行くわよ!」カノンが僕を急かす。こんな時でもユウヤさんと会う土曜日の朝は大事みたいだ。

公園に行ったら、ユウヤさんがヒマワリちゃんを膝の上に乗せていつものベンチに座っていた。僕たちに気づいてユウヤさんが手をヒラヒラ振った。カノンが少し早足になった。僕のリードは伸び切った。それでも追いつけなくて少し引きづられてベンチに着いた。

「昨日遅かったんですか?」ユウヤさんは優しく言った。
大人の男の人は、今日は遅かったですね、と言わないんだなって思った。ユウヤさんは勉強になる。

カノンは両手を合わせて言った。
「ごめんなさい!昨日ちょっと急にやることができちゃって…」
「あ、全然大丈夫ですよ。お仕事ですか?」
ユウヤさんがそう聞くと、カノンはベンチに座りながら答えた。
「いえ、全然仕事とかじゃないんですけど…」
カノンの声が少し落ちた。
「どうしました?何かありましたか?」
ユウヤさんが促すように聞くと、カノンが話し始めた。

「実は、叔父がアメリカから戻ってくることになって…」
カノンはそこからしばらく、昨日の出来事をユウヤさんに説明していた。ヒマワリちゃんはさっぱりわからないと言う顔をして、あくびをしていた。僕は僕で、起きがけに急に走らされたから、地面に伏せてハアハア息を整えながら聞いていた。

一通りカノンの話を聞いていたユウヤさんが言った。
「そうだったんですね。それは大変ですね。それで、いつまでに出ないとなんですか?」
「7月には戻ってくるらしいので、6月には出ないとなんです…」
「あと2ヶ月ですか。慌ただしいですね」
「そうなんです…。昨日の夜、いろいろ調べてみたんですけど、この近くで犬がOKなちょうどいい物件ってなくて…」

え? 
カノンの言葉に反応して、僕の耳がピンと立った。僕のことは連れて行ってくれるんだ、よかった! 昨日の夜の心配は一瞬で吹っ飛んだ。

「ちょうど4月ですからね。みんなちょうど落ち着いた時期ですから物件とかも少ないのかもですね」
ユウヤさんはなんでもちゃんと分析できる。こう言うところも見習いたい。

「そうなんですかね…。まあ、まだもうちょっと時間があるのでいろいろ探してみます。できればこの公園に散歩は来たいですし、近くの不動産屋も行ってみます」公園に来たいんじゃなくてユウヤさんに会いたいだけだってこと、僕は知っている。

「そうですか…。不動産屋行く時、一緒に行きましょうか?」
ユウヤさんがそう言うや否や、カノンがユウヤさんの方にバッと体を向けた。
ヒマワリちゃんがビクッとした。僕も思わず顔を上げた。

「ホントですか!? とっても心強いです…! でも、いいんですか?」
遠慮してる様子はない。

「はい、もちろんです。女性一人だと何かと心細いでしょうし、僕なんかでもついていると違うかもしれませんし」
ユウヤさんのこう言う言い方、僕もいつか自然に言えるようになりたい。
「そんな。ユウヤさんがいてくれたら、鬼に金棒です!」この言葉って、こう言う時に使う言葉だったっけ?

そんなことを思っていたら、ユウヤさんがとてつもなくとんでもないことを、とてつもなくサラッと言った。

「それに、もしいい物件なかったら、うち広いからしばらく住んでくれてもいいですし」

ヒャッ! 

カノンが発した音は、生まれて初めて聞いた音だった。見ると口をアワワとさせている。ヒマワリちゃんも僕と同じように不思議そうにカノンを見ていた。

ユウヤさんはカノンの動揺をよそに言った。

「あ、なんか僕失礼なこと言っちゃいましたか? ごめんなさい、うち古いんですけど、広さだけはあるので、いいところなかったら使っていただいて構いません、って意味で言っちゃいました…」

「え、え、え、ユウヤさんのところに私が…?」カノン、そこは私たちでしょ。
「ええ、カノンさんとレオンが住むくらいのところはありますよ」
ユウヤさんはさすがだ。

それにしてもカノンの動揺がおさまらない。なので僕は勝手にユウヤさんのうちを想像してみた。

想像してたら、あ!って声が出そうになった。ユウヤさんのところで僕たちが住むってことは、ヒマワリちゃんもそこにいるってことだ。

どうしよう、僕は犬と一緒に住んだことないから、大丈夫だろうか? しかも最初に一緒に住む相手がヒマワリちゃんだ。そんな想像をしながら、上の方をそっと覗いたらヒマワリちゃんと目があってしまった。ヒマワリちゃんも戸惑っているようだった。きっと僕と同じで、犬と住んだことがないんだ。

そんなことを思ってたら、ユウヤさんがカノンに話しかけていた。
「急に失礼しました。見たことないのにわかりませんよね。そうしたらこうしませんか?帰りにうち寄っていきません?ちょっと遠回りになりますけど」

…僕たちは帰りにユウヤさんちに行くことになった。
カノンは状況に心が追いついていないから、僕がカノンを引っ張る形になった。ヒマワリちゃんが先頭、僕がその横、ユウヤさんとカノンが後ろをついてくる隊列で、ユウヤさんちに向かうことになった。

時々後ろを見ると、ユウヤさんがいろいろと説明してるみたいだったけど、カノンはボゥーっと上の空で相槌を打っていた。

どんな家なんだろう。庭はあるのかな。カノンと僕の部屋はどんななんだろう。そんなことを考えながら、歩いていたらユウヤさんが後ろから言った。
「次の角を曲がると、うちが見えて来ますよ」

いよいよだ。僕はちょっと緊張しながらも、ワクワクしてきた。

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