般若心経で舟を漕ぐ






昨日 告別式の精進落としの席で、ある男性の耳に付けていたピアスの数がえらいことになっていたので弟に「あの人の耳ヤバくない?」とそっと耳打ちしたら「あぁ、クッキー?」と、弟が勝手にその男性をあだ名で呼び出したのでオレンジジュースを噴きかけた。


そしたら実は心の中でみんな『クッキーがいる』と思っていたらしく、それからはその男性をみんな陰でクッキーと呼ぶようになった。




クッキーは自由人で、お黒飯をおかわりする際 皿の縁に小豆をびっしりと避けながら「豆が少ないところよそって!」と係りの人にオーダーしたり


お寺まわりの時に正座が出来なくて脚を崩していたんだけど、お坊さんが「今日は皆様大変お疲れ様でした、ありがとうございました」と言って深々とお辞儀をした時に、みんなが厳かにお辞儀する中 1人だけワンテンポズレて「こちらこそ、ありがとうございましたー!」と大きな声で叫び、チラッとクッキーの方を見たら、そんなセリフとは裏腹に脚を放り投げ なんなら後ろに仰け反るような姿勢だったので『嘘でょ!?』とドン引きしながらすぐ様お坊さんの方に目を向けたら、何事もなかったかのように「スーッ…」と表情ひとつ変えず前を向きなおしたので『さすがプロや』と感心した。


もしかしたらある時を境に、お坊さんは視界からクッキーを消したのかもしれない、そう思った。お坊さんと言えば、雑念を消すプロだ。そのくらい、朝飯前なのかもしれない。




お寺まわりが終わり、駐車場でそれぞれに挨拶していると 背後から「ジョジョジョジョジョ…」と何か妙な音が聞こえてきたので、フッと振り返ろうとしたら 視界の端にクッキーが映り込み 嫌な予感がしたので前に向き直ったら、隣で弟が「クッキーがおしっ」と呟いたので「知ってる」と食い気味に遮った。


クッキーは遺骨係だったのだけれど、余りにも脚がフラフラで バスから降りる際も「あっぶねっ!」と見事によろめき、しまいには遺骨を顎で支えだしたので、見かねた喪主が「勝也さん、お願いできますか?」と私の父に選手交代を頼んだ。


父も連日の手伝いでかなり疲れていたと思うのだか、クッキーに比べたら遥かに安心して任せられると思ったのだろう。クッキーに「葬儀限定飲み仲間要員」としてずっとお酒の相手をさせられていた父は、嫌な顔ひとつせず ただ淡々と自分の与えらた任務を全うしていた。



そんな父を見ながら、地味な事だけど なんか凄いなぁと心の中で小さく感動した。




クッキーはキャラが非常に立っていて良くも悪くもとても目立っていたけれど、ただみんな同じように黙々とこなしていたら、たいして心に残らない式になっていたかもしれない。




クッキーみたいなタイプがいて、父のようなタイプがいて、それぞれに置かれた場所でその人の仕事をするということが、全体のとてもいいバランスを作るんだなぁなんて事を




余り物の海老天を食べながらぼんやりと考えていた。










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