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【第3話】 家のない車夫🇮🇳

チェンナイ・ビーチ駅。その名が目に入った瞬間、ここで降りようと決めた。たとえ誰も取材できなかったとしてもビーチがあるならそこで甲羅干しをすればいい。それだけで元が取れるかもしれないと思うことにした。

前日に泊まった宿のエアコンが壊れており、吹き出し口からは水が滴っていて部屋はカビだらけだった。朝起きると咳と鼻水が止まらず、どうやら一晩で体調を崩してしまったようだ。外に出るとフラッとした。それにつられて心も弱ってしまったのかもしれない。

客引きをしていた車夫
重そうな車体 力を込めて漕ぐ
目玉のペイントをよく見かけた
この人力車は彼の宿でもある

この取材は彼が客引きで声をかけてきたことから始まった。彼を取材した時の状況はなかなか珍しいものだ。彼はヒンドゥー語も英語もタミル語も話せないということで、急遽通りすがりの男に通訳を頼んでインタビュー音声を収録したのだ。

チップを渡すのが自然に思えた。彼らがこういったイベントや出来上がった映像をプロモーションに利用しないのは明らかだ。

カメラを向けると少しはにかんだ様子でリキシャを漕ぎ始める。彼が漕ぐのを撮ろうとして道路の真ん中に出た時、後続の車に目をやり「気をつけろ、車が来てるぞ」と声をかけてくれた。

どんな気持ちだったのだろう。ジョージタウンは観光客などほとんど歩いていない。異国人がカメラを抱えて「インタビューさせてくれ」などと言うのだからおかしく思ったに違いない。

彼は取材が終わると仕事の表情に切り替え、リキシャを漕いで去っていった。

俺は人力車の運転手だよ
いつもマーケット通りで客を拾ってる
仕事と言っても稼ぎは少ないけどな

俺にはどこにも家が無いんだよ
雨なんか降った時は外で眠れないだろ
だからこの人力車の中で寝るんだ
本当に大変だよ

家族はいないんだ
ガキの頃 家出をしてから両親にも会ったことがない
それからずっとこの人力車を漕ぎ続けたよ
なんの教育もねぇから文字すら読めねぇ

この仕事は好きだぜ
そりゃ時々惨めな気持ちにもなるが俺は幸せだと思うことにしている

一生懸命がむしゃらに働いた日だけだろう
寝る時に充実感を感じられるのは
だから頑張らないとな

Rikisha Driver in south INDIA summer 2018
www.monologue365.jp



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