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共に生きる〜台風19号被害に寄せて

東日本大震災のときも、絶望のどん底から立ち上がろうとする生産者の背中を押したのは消費者だった。食べ物をつくる人あっての私たち消費者。私たち食べる人あっての生産者。片方だけでは成り立たない。両方あってはじめて成り立つ。被災地で顔と顔を合わせ、共に汗を流した生産者と消費者は、そんな当たり前のことに気づかされた。

この関係性はこれまで、大量生産・大量消費の社会の中で分断されてきた。生産と消費の距離は大きく開き、もはや自分が食べる物を誰がつくっているのかわからない、自分が作っている物を誰が食べるのかわからない、という状況であった。その結果、生産者と消費者はお互いに敬い合うどころか、牽制すべき相手になっていた。

分断は知らないことに起因する。だから、生産者と消費者が直接つながることで、本来あるべき"お互い様の関係"を見える化しなければならないと思った。まず知る。そしてつながる。生産者と消費者が、都市と地方が、それぞれの強みでそれぞれの弱みを補い合う《連帯する社会》をつくる。それが東北の被災地から掲げた旗だった。

生産者と消費者のつながりは、いざというときに大きな力となる。自分とつながっているのだから、もはや他人事じゃない。相手の悲しみを我が痛みと感じることができれば、心が揺さぶられる。黙っていられなくなる。当事者として動く。自然災害が多発する時代だからこそ、日常からそんなつながりを日本中に広げていきたい。そんな思いから、食べる通信とポケットマルシェは生まれ、これまで6年間取り組んできた。

台風19号は各地で猛威をふるい、生産者が手塩にかけて育ててきた作物と、生産者が先祖から受け継ぎ耕してきた畑を瞬く間に飲み込んでしまった。生産者は絶望に打ちひしがれながらも、なんとか気力を振り絞り、立ち上がろうともがいている。今こそ、私たち消費者の出番である。日頃、私たちの食卓を支えてくれている生産者が窮地に追い込まれているのだから、今度は私たちが生産者を支えるときだ。ときだなんて言われなくったって、顔が見える関係でつながっていれば、ほっとけなくなるに決まってる。だって、ぼくら人間だから。

ポケットマルシェで育まれてきた生産者と消費者のつながりは、今回の災害でも力を発揮し始めている。栃木県矢板市で原木椎茸を生産している君嶋治樹さんは、今回の台風で壊滅的な被害を受けた。近所の川が氾濫し、仕込んだ原木1万本以上が流出し、車も押し流され、自宅や椎茸関連設備、圃場も浸水して大きな被害を受けた。君嶋さんは沈痛な面持ちで被災した現状と当面の間復旧作業のために休業せざるを得ないことを、ポケマル内で自分のコミュニティに報告すると、日頃から君嶋さんの椎茸を購入しているユーザーから励ましの声が相次いだ。

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「何かお手伝いできることがあったらお声がけください。ずっと応援します」
「自然災害とはいえ、ひどすぎます。悲しすぎます。家族のみなさんはお怪我などなく無事でしたか?いつまでも待っていますからね」
「君嶋さんの椎茸にいつも助けてもらってます!忙しいときで、情けないなーと落ち込んでいても、椎茸さんでお味噌汁つくると、あ、ちゃんとお母さんできてるかなって少し自信をもらえます!元気になってほしいです!」
「言葉になりません。君嶋さんご家族の気持ちを考えると、悲しいです。少しでも何かお力になれることはありませんか?」
「お身体に怪我などございませんか?奥様、お子様も怪我などありませんか?軍手いるよ〜とか教えてください。少しでも君嶋さんの力になれたら嬉しいのです」
「このような被災されているとは。言葉が見つかりませんが栃木から元気ビームもらってました。今度はお返しする番です。何かできることがあればさせてください。君嶋さんの椎茸復活、待ってます。しばらく大変なことかと思いますが、お身体も無理されないでくださいね」
「被害の大きさに心痛めています。みなさんおっしゃっている通り、何かお力になれればと思ってます。台風15号の際は千葉県八街市の生産者さんが【支援】というカタチで購入額選択方式の出品をされていました。1日も早く心やすからな日々が取り戻せることを祈っております」
「投稿を読んで言葉をしばらく失っておりました。君嶋さんの椎茸を通してできたつながり・・・これからもいろいろな形で応援したりされたり。少し落ち着かれましたらどうぞお知らせください。昨夜、冷凍庫の椎茸をシジミ汁にいれてパワーもらったばかりです。どうぞご自身とご家族のお身体と安全第一に。親族一同心から応援しております」
「君嶋さん、言葉も見つからず。復旧に大変な日々でしょうが、どうぞご安全に。また寒くなり始めてます。お身体気をつけてくださいね。お子様達、とても心配です。微力ですが、みなさんと同様お力になりたいと思います」

もはやお客さんの域を完全に超えている。君嶋さんに降りかかった災難を心配し、その悲しみに寄り添おうとしている。まるで親戚とかご近所さんのよう。でも、ここに地縁血縁はない。

そして、生産者と消費者だけでなく、ポケマル内では生産者同士の連帯も始まっている。同じ自然を相手にする農家として、明日は我が身。痛いほど気持ちがわかるのだろう。被災後2日目、頼まれてもないのに君嶋さんのところに飛んでいき、一日中、ヘドロの除去の手伝いをする野菜農家がいたり、これを食べて少しでも元気になってほしいと豚肉を送ってきた養豚家がいたり。

さらに、台風15号で被害を受けた千葉県旭市の農家、平野兼悟さんは自らのコミュニティでお客さんに次のように呼びかけた。

「台風19号。テレビで見た情報しかわかりませんが、すごい被害です。第一次産業も大きな被害を受けました。今年は出荷できないくらい大きな被害を受けたかもしれません。(中略)私の個人的なお願いですが、ポケマルさんの中でいいので、被災された方々の商品やコミュニティを見て応援していただけるとうれしいです。辛い中で生産者さんたちはがんばってます。少しでも応援してくれればそれだけで復興の力になると思います。ポケマルさんは生産者さんと消費者さんがつながれます。私も前回の台風で、お客様の声で元気づけられました。みなさまの声で第一次産業に力を与えてもらえれば幸いです。生意気なことを言って申し訳ありませんが、私は日本の一次産業をリスペクトしています。日本の経済に微々たるものでも、第一次産業の力になればと思い、投稿させていただきました」

自分が育てた食べ物をいつも食べてくれている人からの激励の声。これがどれほど生産者の力になることか。ポキっと折れそうな心をどれほど支えてくれることか。生産者の立場になって考えてみれば想像できるだろう。自然災害は、怒りや悲しみのぶつけ場所がないのだから。

異質な世界を生きる生産者と消費者が"共感"でつながる、同質な世界を生きる生産者と生産者が"共感"でつながる。そうしたつながりを網の目のように日本中に張り巡らせることで、自然災害へのリカバリーの力を養う。これが自然災害が当たり前になった時代に、私たちができる「備え」である。それが、私たちの命の根底を支える食の生産現場をみんなで守り育てる道になる。だから引き続き、生産者と消費者の間に入って、お節介を焼き続けようと思う。

ポケットマルシェ代表取締役 高橋博之

生産者と消費者が連帯する社会の創造を目指すポケマルより、今、私たち消費者ができる支援の方法をまとめました。ぜひご覧ください。


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