【建築】芸術家たちのアトリエをモチーフとしたパリッシュ美術館(H&deM)
ロングアイランド。地図ではニューヨーク市から右に飛び出ている島である。ここはセレブが住むエリアであり、ニューヨーカーの避暑地でもある。どちらも私には全く縁のない場所だ。パリッシュ美術館はそんなロングアイランドの町・Southamptonにある。
マンハッタンからSouthamptonの駅までは列車で約2時間30分。駅から美術館までは3km程あるので、移動はタクシーがベストであるが、ケチって歩くことにした。セレブにはほど遠い...。
この日は幸いにして快晴。気温もあまり高くなく、絶好の散歩、いや建築探訪日和である。やがて草原の奥に細長い建物が見えてきた。
パリッシュ美術館は、ロングアイランドにゆかりのあるアーティストの美術館である。その歴史は古く1897年に設立され、コレクションは3,000点を超える。しかし元の美術館が手狭になったこともあり、ヘルツォーク&ド・ムーロン(H&deM)の設計により、2012年に現在の地に移転した。
当初は小さな展示室が集合したような分棟案であったが、予算オーバーと金融危機の影響により設計変更となった。
実現した新しい案は、多くのアーティストたちがアトリエとしていた"納屋"をモチーフとしている。ただしそこはH&deM。ただの納屋ではなく、切妻屋根を2棟並べたようなデザインとしている。
大きさは幅95フィート(約29m)、奥行き615フィート(約188m)の平屋。
"納屋"というと木造をイメージするが、ここの壁はご覧の通りコンクリートである。しかしあまり重々しさは感じない。
それにしても奥行き感がスゴイ!
エントランスへのアプローチ。中を通して、反対側の風景が見える。
白い壁に黒いドア。明快で分かり易い!
エントランスホール。ヤジロベエのような照明はAlexander Calder(かな?)
ロビーの展示室のみ全面窓となっている。
センターにspineと呼ばれる通路ギャラリーを、その両サイドに一般的な部屋タイプのギャラリーが配置されている。
木の天井、クロスする白い鉄骨ビーム、白い壁、床のコンクリートが印象的だ。
部屋タイプのギャラリーは、出来るだけ自然光で鑑賞する工夫がされている。主に北側に設けられた天窓と壁のスリットから光が入る。これはモチーフとしたアトリエである"納屋"の光とプロポーションを再現しているらしい。
再び屋外へ。
平側は軒が大きく出ている。ベンチも付いているので、草原を眺めながらゆったり時の流れに身を任せることもオススメだ。そう、ここは避暑地なのだ。たまには時間を忘れてボーッとしよう。
東の妻側はバックヤードの出入口。目立たないドアと四角くない受付窓。
一方の西側はカフェとイベントスペース。この日カフェはクローズしていたが、風が通り抜けて気持ち良さそうだ。ここで昼寝したい...。
この美術館は北には線路、南は幹線道路に挟まれた13.2エーカー(約53,400㎡)の広大な敷地に建てられている。ランドスケープも一見あまり手入れされていない普通の草原のように見えるが、これもロングアイランドの典型的な風景を再現したものらしい。
そうした環境の中にシンプルなデザインで、高さも抑えて建てられている。これがスゴく周辺の景観に調和している! ハッキリ言ってとても良い!
実は私はH&deMのケンチクが好きで、これまで30作品以上見ている。そうすると中には「コレどうなの?」とやや疑問に思う作品もあるのだが、このケンチクは個人的にはH&deMの中でベスト5に入る!
ただし作品や作家さんはあまり馴染みがなかった。私がアートに疎いということもあるが、それにしても勉強不足。反省点の一つであった。