見出し画像

【建築】建築の神様からの贈り物とは? 紀尾井清堂(内藤廣)

「思ったように造って下さい」
何らかの"モノ"をつくるに際して、このお題はすごく難しい。普通はテーマとか要望とか仕様に基づいてつくる。まあそれが多過ぎても困るとは思うが、「自由に」と言われてもねえ...。

この難問を出したのは一般社団法人倫理研究所、挑んだのは建築家・内藤廣、出した答えが紀尾井清堂。
どんな建物? どんな用途?
倫理研究所曰く「機能はそれに合わせて後から考えます」とのこと。スゴっ!


プライベートな建物なので内部を見ることは難しいが、以前からこの建築には注目していたので、見学会の案内が出るや否や、直ぐ申し込んだ。




当日、麹町からアプローチすると、奥にガラスに囲まれた建物が見えてきた。(左手前は紀尾井町南部ビル。設計は村野藤吾である。知らんかった)

画像1


ザックリ表現すると、一辺15mのコンクリートのキューブをガラスで覆っている。

画像34


2.6m角のガラスパネルを横7枚、縦6枚並べている。透明感があって、ありきたりな感想だけど、とてもキレイで美しい。外部に飛び出した階段が気になるが、それは後のお楽しみ。

画像34


ちなみに"コンクリートの建物をガラスで覆う"という手法は安藤忠雄建築でもよく使われるが、印象は全く異なる。もちろんどちらが良いということではない。
参考までに安藤建築の"コンクリート+ガラス"の例。

画像35


1階の壁はガラス仕上げ。これにより、少し離れたところから見るとコンクリートキューブが持ち上がっているように見える。(ケンチク村では"浮く"という表現を使う人も多い)

画像35


この日は晴天だったので必要なかったが、傘立て。

画像5


エントランスホール。存在感のある4本の柱がキューブを持ち上げている。

画像9


柱は床では四角形だが、天井では建物のコーナー方向に突き出た六角形に変形する。デザイン面でのこともあるが、物理的にもこの方が支えやすい。

画像10


柱には照明によって美しい陰影がつくられていた。


壁や床の仕上げも凝っている。島根県石見で石州瓦を焼く時に使われる棚板を並べている。工場生産品ではないので、微妙にサイズが異なったり歪みもあり、均一に施工するのは大変だったそうだ。

画像35
画像35


さて、いよいよキューブに入る。キューブに入るには一旦屋外に出る。
この通路もエントランスホールと同じく棚板を使った仕上げであるが、違和感なくしっくり納まっていた。

画像10


こちらがキューブへの入口。

画像11


と、手前に侵入防止のための柵が! 低すぎて実用的ではないが、外部との結界を示しているようでもある。錆びた鉄も味わいがあって良い。

画像33


そして期待しながら中に入ると、


画像12


何だろう? この空間は!
自分の語彙力が乏しくて、表現すべき言葉が見つからない。

画像13


床・壁には木が使われている。外観やエントランスホールとは対照的だ。

画像36


見上げの構図も素晴らしい。実際私を含め、カメラを上に向けて写真を撮っている人がとても多かった。
でもこの空間というかトップライト、どこかデジャブ感があるんだよなあ。

画像16


キューブ内は4層の吹抜けという構成である。
各階は回廊で囲まれており、階段で結ばれている。この階段の配置がアクセントにもなり、一歩間違えば単調となるところを唯一無二のものとしている。

画像17
画像37


さらに暖色系の照明、トップライトからの自然光が独特の佇まいを見せる。

画像19


窓が2箇所に設けられていた。

画像37
画像20


こちらの窓からは紀尾井町南部ビルが見える。村野藤吾への敬意だろうか?

画像21


外から見た時、気になった外部階段。

画像36


内部にも階段があるので、機能的には本来は不要。しかしこのような遊び心のあるスペース、割と好きである。

画像35


トップライトは、四角形から角が取れた小さな四角形に変形していく。コンクリートの型枠、大変そう...。

画像25


柱の表面の仕上げは木の幹のようだ。


最上階から見下ろし。
一番下の階の床にはトップライトからの青い空が映り、周囲や回廊の床には照明からの丸いスポットが落ちて、幾何学的なデザインを描いていた。

画像26


下まで戻って再び見上げていると、

画像26


そうか! 思い出した!
最初に感じたデジャブはルイス・カーンのトップライトを見た時のものだった。建物の用途は違えど、この吹抜けの印象は、フィリップス・エクセター・アカデミー図書館や、

画像34

イェール大学英国美術研究センターと同じ類のものだ。

画像28


カーンのこの2つの吹抜けは光の空間だったが、紀尾井清堂もそうなのだ。

またフィリップス・エクセター・アカデミー図書館の項では「ルイス・カーンの建築には神殿を思わせる要素がある」と書いたが、この建築も内藤さんが「ローマのパンテオンのような建物を造りたい」と考えたそうだ。神殿であるパンテオンも天窓からの光が神聖な雰囲気をつくっていると聞く。
そう考えると、この紀尾井清堂も神殿のような空間なのかもしれない。


いずれにしても今後この建物がどう使われていくのか、とても楽しみである。

画像34



ところでタイトルにある「建築の神様からの贈り物」とは?
それは床に落ちた虹。
見学した時、太陽光が周囲のビルに複雑に反射して、床に虹をつくっていた。晴れた日の昼前後の時間帯にしか出現しないらしい。
案内して頂いた事務所の方曰く「意図して設計したものではないが、建築の神様がプレゼントをくれた」とのこと。
とても素敵な言葉だったので、タイトルにも使わせて頂いた。

画像31
画像32


帰り道は赤坂見附駅まで。
紀尾井町という町名は、かつて紀伊徳川家、尾張徳川家、彦根井伊家の屋敷があったことから名付けられた。隣接する清水谷公園は、もう12月だというのにまだ紅葉していた。

画像30





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?