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【建築】東急目黒線沿いの隈建築を巡る

夏の暑さもようやく緩んで過ごしやすくなった10月のある日。
久しぶりに建築巡りでもするかと思い付き、やって来たのは東急目黒線沿いにある3件の隈研吾建築。サクッと数時間で巡ることができる。

隈研吾さんは元々建築業界ではスターアーキテクトの一人だったが、新国立競技場以降は一般の人にもその名が知れ渡った。今や日本全国どこでも隈研吾である。しかしここまで有名になるとネガティブな意見も少なくない。SNS上では隈研吾という名前をハッキリ出さないにしても、「名前を言ってはいけないあのお方」状態での批判も目にする。
確かに設計案件はともかく、アドバイスに留まるデザイン監修案件は「?」が付くものも少なくない。いや、正直に言えば「これはひどい!」というものもある。

しかし本気?出した建築については決して嫌いではない。私の実家からも近い某和菓子店など割と好きである。

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田園調布せせらぎ館

多摩川駅前にある大田区のコミュニティセンターである。
改札を出ると、高架に沿って細長い建物が姿を現す。シャープな軒先とルーバー状に張られた木のパネルによって、パッと見で「あのお方」の建築と分かる。

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建物は2棟に分かれ、左手前がカフェ棟、右奥が区民センター棟となっている。
重なった差し掛け屋根も、隈建築ではよく使われる手法の一つだ。

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カフェ棟の第一印象は「黒っ!」であった。
水平が強調されたラインは嫌いではない。でも後ろの駅のホームの屋根と微妙に被っていることがちょっと気になるなあ。

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軒下は日本家屋の縁側を連想させる。
窓も開けられるようだし、ここでお茶飲んだら気持ち良さそう。

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内部は木による仕上げ。窓からも燦々と自然光が入る明るい空間になっている。(カフェはどこにでもありそうな普通のカフェだ)

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天井の仕上げは、異なるサイズのパネルを不揃いの間隔で取り付けることで、意匠に変化を付けている。

ところでこのパンコーナーであるが、右端に冷蔵ケースが置かれている。この建築に限ったことではなく、特に公共施設にありがちだけど、統一されたデザインの中にこのような民生品が入ると、どうしてもチグハグになってしまう。難しいとは思うが、何とかならんもんかね?

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こちらは区民センター棟。図書コーナー、休憩スペース、集会室、多目的室、和室などの施設がある。

妻側に例のルーバーパネルが張ってあるが、取って付けたようにも見える。もちろんそれが隈建築らしさを表現しているのだけれど...

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一方で、平側のガラスには公園の森の木々が映り込んで美しい!

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この棟も、木による仕上げと窓からの自然光が快適な空間をつくっている。
右に見える白い箱は本の消毒装置。コレも違和感ありありで興醒めしてしまう。

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休憩スペースでは公園の木々を視界の端に感じながら読書できる。窓は固定されて開かないが、縁側のような機能を持つ。

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ミニ図書コーナー。区立図書館の本の受取・返却もできる。

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2階へ。

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2階はレンタル可能な集会室が並ぶ。

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平日だが、休憩スペースも集会室もそれなりに利用者が多くいた。今年2021年にオープンしたばかりであるが、公共施設が有効利用されるのは良いことだ。


東京工業大学 Hisao & Hiroko Taki Plaza

次にやってきたのは大岡山駅前の東京工業大学。
正門から徒歩20秒の立地にあるのが Hisao & Hiroko Taki Plaza。留学生と日本人学生の交流の場としてつくられ、事務エリア、イベントスペース、ワークショップスペース、ラウンジ、カフェなどが入っているが、カフェ以外は学内関係者しか利用できない。

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東工大のOBである滝 久雄氏(ぐるなび創業者)からの多額の寄付による。
階段状になったウッドデッキの屋根が特徴だ。

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この建築は地下に大きなイベントスペースがあり、そこへの採光も兼ねて、階段広場が設けられている。突き当たりは隣接する図書館へとつながる。

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このご時世のためか、残念ながらデッキに上ることは出来なかった。赤いコーンが恨めしい。

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そうでなくとも、デッキへの立ち入りが可能なエリアはほんの一部で、立ち入り出来ないようにするための柵の方が目立ってしまっていた。

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気を取り直して中へ。

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といっても関係者しか入れない。エントランスからの眺めをサラッと紹介。
ここにも受付カウンターに"違和感ありあり"の張り紙があった。大学には建築学科もあるのだから、デザイン面でもう少し工夫できないのかな?

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受付カウンターのデザインは、同じく隈研吾設計で2018年に完成したスコットランドのヴィクトリア&アルバート博物館分館をモチーフとしている。(←私の探訪リストには入っているが、まだ行けてない)
後で知ったが、カラフルなレリーフは大友克洋原画の陶板レリーフだそうだ。キチンと正面から写真を撮っておけばよかった😢

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全体的な感想としては「ふーん」である。可もなく不可もなしだ。その理由は建築の内容云々ではなく、見学できるエリアが限られていたからだ。

ということで若干消化不良のまま、3件目の建築に向かう。


瑞聖寺庫裡

本日最後の目的地は白金台駅にある瑞聖寺の庫裡。白金台は東急線ではなく東京メトロだが、直通運転してるし目黒から一駅なので、目黒線圏内としておく。

結論から書くと、今回の3件の中で、いや最近の隈建築の中でベストだった。

瑞聖寺は1670年創建の禅宗寺院である。境内は白金台の住宅やマンションに囲まれている。本堂である大雄宝殿は1757年に建てられ、国の重要文化財にも指定された歴史ある建造物だ。

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そこに2018年、隈研吾の設計により庫裡が建て替えられた。

新しい庫裡は、本堂を起点としてコの字型の回廊として配置されている。

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建物の仕上げはもちろん木のルーバー。抑えた屋根の勾配とその屋根を支える垂木と共に、隈建築らしさを表現している。

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せっかくなので、お参りする時は回廊に沿って進むことをオススメする。

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歩いた通路を振り返る。水面からの光が軒に反射して美しい。

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屋根越しに本堂を見る。本堂が鏡のように水面に映っている。

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中央の舞台は普段は立ち入り禁止だが、イベントで使用することもあるようだ。

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また振り返り。

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こちらのガラス張りの建物はイベントなどに活用できるスペースとなっているが、通常は非公開。

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この建築が美しく見えるのは、何と言っても水盤とそこに植えられた木が効いているからだろう。これらがあると無いとでは大違い。安藤忠雄さんや谷口吉生さんはよく使う手法だが、隈建築では珍しいのではないか?

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コの字の3辺の内、2辺まで来た。あとは真っ直ぐ本堂に向かうのみ。

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と、その前にここでもう一度振り返り。やはり美しい!

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回廊と本堂をつなぐ屋根。

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本堂から見ると、コの字型の配置がよく分かる。

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「回廊ばかりで同じ写真じゃないの?」というご意見もありそうだが、思いの外この建築が良くて、同じような写真を何枚も撮ってしまった。はじめに書いたように、個人的には近年の隈建築ではベストとも言える作品で、他に人がいなかったこともあり、ゆっくり見学できたことも良かった。


今回の改めて思ったことたが、隈さんはブランディングが本当に上手い。良くも悪くも、一目で隈研吾と分かる建物ばかりである。ビジネスマンとしても優秀だ。おそらくどの業界で仕事しても、それなり成功するであろう。
まあそういうことも含めて賛否あるんだろうね。

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