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母の誕生日

よくよくコーヒーを飲むぼくが毎回食堂の自販機を使っていては、ちりも積もれば山となる、お金がなくなってしまうから、キッチンでコーヒーを淹れることも多いのだけれど、キッチンから食堂までこぼさないようにコップ片手にゆっくり歩いて行って椅子に腰掛け、さあ、という頃にはすっかりコーヒーがヌルくなってしまっている、そんな厳しい冬が、今年もやってきた。

アドベントカレンダー、各々の思いが詰まった文章、どれも楽しく読みました。あの人がこんな文章を書くのかと驚かされることもあれば、ペンネームと人物名が一致しなくて、誰だろうなぁ、話してみたいなぁという人もいた…。書き言葉。話し言葉と違う気恥ずかしさやもどかしさ、あるいは新鮮さをそのまま抱え込んだような感じ、書き言葉って響きもいいよね。アドベントカレンダーは暖かいし、これだけあれば冬は越せそうです。

12月16日、今日はかわぞえ母の誕生日だ。

ちょっと母にこと寄せて書いてみよう。

母に関して今振り返ると、もちろんいろいろ思うことはあるけれど、素直で、真面目で、義に厚い人だった、と思う。大学生になってから新しいものに触れてあれこれ考えてみるなかで、いま大事にしたいなと思える価値のうち割と多くのものは母から譲り受けたものであるような気がする。

いや、むしろ譲り受け損ねたと言うべきだろうか。

母は福祉系の学部を出て福祉施設ではたらいていた人で、ぼくが生まれて以降は大工である父の現場仕事を手伝ったり家事をこなしたりしながら、週に一回は訪問介護ヘルパーの仕事をしている。それもあってか、かなり雑ぱくな指摘にはなるけれど、かわぞえ母は人をいたわること、人の立場に立って考えるように努力することをすごく大切にしていたように思うし、逆に想像力に欠ける発言、人を傷つける発言には厳しかった。しかも、多分母は、「人をいたわるとはどういうことか」とか「いかに人の立場になってものを考えられるか」とかいう問いを格式張って立てていた訳では無かった。むしろ、仕事や生活のなかで自然と立ち現れる感覚から、当たり前のように人のために時間を費やし「いたわり」を為していたと思う。中高生のころのぼくは頭でっかちだったから、本を読んで考えてそれで解ったようなことを生意気にも言っていた記憶がある。母が大切にしていたものに実感としてピンとこなかったことも多かった気がする。その意味で、母の教えをぼくは譲り受け損ねていた。そして今、譲り受け損ねた母の思いのそのすごさを実感することの多い日々だ。

まあ母の有していた価値を大学生の今、自分のなかの大事な価値としておくというその行為自体、いいことかはわからない。けれど、実感として、母に「すごいなぁ」と思うことがあるのは事実だ。否定すべくもないだろう。逆張りしても仕方がないしね。

さて、母の誕生日といって思い出すエピソードがある。贈り物についてだ。

ぼくはわりと親孝行な息子で、小学校一年生の頃から、貯金したお小遣いで家族に誕生日プレゼントを贈っていた。他にお金の使い道も無かったし、みんなが喜んでくれることが嬉しかったのだと思う。

たしか小学校2年生の頃。あの年は母のリクエストもあってマグカップを買った。3歳上のかわぞえ兄は、かわいらしいトトロのマグカップを買ってきた。ぼくは100均で「COFFEE」と印字された、薄ーい、しゃれっけのないマグカップを買った。まあ小学2年生だしお金もないし、そこは勘弁してほしい。母が帰ってくる前に、兄とどんなものを買ってきたのか見せ合ったのだが、かたやジブリショップで買ってきたトトロのかわいいマグでかたやダイソーの「COFFEE」カップ、値段はともかくオシャレさの違いに焦ったぼくはとりあえずラッピングをしようと思った、中身はともあれ、まず外見だ、なんとか繕わなくては、、母が喜んでくれないかも知れない…かといってラッピング用品を今から買いに行く時間も無い、、、とりあえず紙袋だを、紙袋に入れておけば、なんか良い感じで、それっぽいではないか!!

今思えば、錯乱していたのだろう。気が利かなかったというべきか。

晩ご飯を食べ終わったあと、渡した母への贈り物。100均で買った「COFFEE」のマグカップ。人生で多分二回目くらいの母への思いの詰まったそれは地元の仏具店の紙袋に入っていた。



!!

仏具店。

「お供えありがとう」母は笑ってくれた。
まったく義にあつい人である。

思えば、実家にいた頃は毎年母へプレゼントを贈っていた。

大学生になって実家を離れてからは、電話はするけどそのくらいだ。

なんだかんだ言って母にはお世話になったし、いつか少しはマシなものを返せたらと思う。

ちなみに去年は母から誕生日プレゼントは何が良いと聞かれたからマグカップが良いといったら、知り合いの陶芸家さんがつくった黒いマグカップをくれた。

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