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生き残る葬儀社になるために

あまり知られていないお葬式の業界について経営学の視点からお伝えしています。

変化に対応できる葬儀社が生き残る

 現状では、家族葬や直葬に代表される小規模葬儀に特化した葬儀施設の運営、葬儀プランの構築、またそのプロモーションを行う事で商圏内において競合との差別化を図る傾向が強い。
 しかしながら、家族葬や直葬など小規模な葬儀を専門的に取り扱う事がコモディティ化し、差別化要素でなくなりつつある中、出店コストの軽減や、効率の良いプロモーション、また施設の利用効率を上げる取り組みなどを積極的に実施しする必要がある。
 また、外注していた部門の内製化を行う事で利益を確保するなどの工夫も必要となってくる。
 しかしながら、葬儀1件当たりの単価の下落という、業界全体の大きな流れの進行は早く、今後、ますます売上の減少が予測されている。
 また、インターネットの普及により、葬儀社と生活者間の情報の非対称性が崩れ、生活者が葬儀社を認知する方法や、葬儀社を選定する理由が変わってきている。
 また、インターネットを中心に葬儀ビジネスを行う紹介専門業がシェアをますます拡大する傾向にあり、これまで、生活者が葬儀社選定の際に求めていた理由と、インターネットを中心に葬儀ビジネスを行う紹介専門業に葬儀を依頼する理由とでは、その内容に違いがある可能性が高い。
 インターネットの普及を契機とした、顧客の意向が変化し環境が変化する中で、生活者の葬儀社選定のための認知経路、および決定要因が変化しており、今後も変化していくと考えられる。
 今後、葬儀業界で生き残るためには、こうした変化に対応することが重要である。
 すなわち、顧客にとっての葬儀社の認知経路、また、サービス消費決定のための決定要因は今後も変化し続けていき、その変化に対応できる葬儀社のみが今後生き残っていくと予想される。
 このような状況下で、サービスプロフィットチェーンから見た、専門葬儀社の課題をフェーズごとに以下の通り考察する。

「サービスプロフィットチェーン」とは、従業員満足(Employee satisfaction, ESと略する)、顧客満足(Customer satisfaction, CSと略する)企業利益の因果関係を示したフレームワークのこと。

サービスプロフィットチェーンから見た、専門葬儀社の課題

A 社内サービスの質
の向上 
 社内サービスについては、主にキャリアアップに関する仕組みを構築し、企業規模に合わせてブラッシュアップをする必要がある。
 一般的な専門葬儀社は家業が多く、職場の整備以前の状況であることが多く、従業員数も少ないため職務設計も存在しないことがほとんどである。 連絡体制の強化や、クラウドシステムなどによる業務管理等、従業員側・管理側双方にとって負担が軽減される必要がある。

 B 従業員満足度

 従業員満足度については、MBO(Managemant by Objective)の導入が効果的と考える。
 MBOの導入により、従業員自身も自身に課せられた具体的な目標が分かりやすくなり、管理側も定期的な面談によって評価のフィードバックがしやすい環境が整う。
 キャリアアップの仕組みを作ることにより、MBOの基準が作成しやすくなる。葬儀業の業務に対する新入社員の認識のずれや、葬儀業界内の昔ながらの慣習である「見て覚えろ」などの先輩社員の指導により、コミュニケーション不足が生じやすいが、MBOの導入によって、コミュニケーションが密になる。しかしながら、MBOの運用については、運用開始時は双方が不慣れなため、目標設定の精度が不完全である部分や、管理側のマネジメント能力不足により適切な指導が出来ない等の問題も生じる。
 また、部署毎・職務毎の業務範囲が明確になっていない発展途上でMBOを導入することにより、誰の目標にも入らない隙間業務の発生や、協力体制が不十分になるなどのひずみが発生する可能性がある。

C 従業員定着率・従業員の生産性

 従業員定着率については、MBO導入によりコミュニケーションが密になることで、定着率が安定しやすくなる。 
 定着率が低い時期は、職人的なスタッフを育成する事よりも、業務を細分化することで経験年数が浅い場合でも一定以上の成果が出るように業務内容を改善することにより、定着率が安定する。結果として、各自が業務の習熟を深め、結果として生産性の上昇につながる。
 しかしながら、プレイングマネジャーが不足すると、トップダウンで運営することになり、組織図上の職位は設定しても状況的・能力的に機能をはたすことができない状況が生じる。
 中間管理職が機能不全に陥ることで、一般社員のロイヤルティを醸成する前に離職してしまうことがある。 

D 顧客サービスの質の向上
 
 顧客サービスの質の向上については、経験の長いスタッフが多くなることにより顧客との継続的なコミュニケーションが築けるようになる。 
 更に、生産性の高いスタッフが増えることにより、顧客に対する対応力が向上する。 これにより、従来は葬儀本体の事が中心であったサービス内容が、葬儀の事前から事後に渡る様々な項目に対して可能になることにより、バリューチェーンを変化させ、サービスの質が向上する。 
 しかしながら、情報の非対称性が失われつつある中で、顧客が自ら情報を手に入れることが出来るようになる。また、サービス期間が長くなることにより、社員が習得すべき内容が多岐に渡るようになったため、更なる研鑽が必要となる。

 E 顧客満足
  
 顧客満足においては、顧客に提供できる項目・期間が増えること、また熟練したスタッフが増加することにより、顧客個々の状況に応じたサービスを提供できるようになる。 
 これにより、顧客満足が上昇すると考える。 しかしながら、顧客満足度を適切に数値化することが課題である。顧客アンケートなどを実施して満足度を計り、結果を業務に反映させて常にサービスを進化させていかなければならない。 葬儀に対して顧客は大きな成果を求めていない場合が多く、「感動」や「大満足」を生むよりも、「不満足」を発生させない事が優先され、実際の顧客満足度は図りづらい。 
 例えば、アンケート自体を外部委託することにより、恣意的ではない客観的な意見を収集して、より精度を高める必要がある。

F 顧客ロイヤルティ
 
 顧客ロイヤルティに関しては、顧客満足の上昇によって、口コミによる自社への評価が周囲へ喧伝されることが重要である。 
 これによりリピーター及び生前登録会員など自社のファンを多く獲得することが可能となる。
 葬儀業界においては、地域密着で長期間活動している老舗企業も多く存在し、一定の顧客ロイヤルティを獲得している。新規参入の企業などは、特定の地域だけに特化するよりも、ドミナント展開を行い、商圏を広げながら様々なニーズに柔軟に対応することにより、広く浅くロイヤルティを集める必要がある。 

G 売上と成長・利益率
 
 売上と成長・利益率については、ファンの獲得により、リピーター及び新規紹介顧客が増加が見込まれる。これらの顧客は、それぞれの企業の取組に対する理解が深いため、高価格帯のプラン・商品を購入する傾向が強く、自社の売上が向上し、結果として利益率の向上につながる。
 また、この取り組みを継続的に行うことで、発展的に成長を続けていくことができる。
 利益率については、紹介業への対応が問題である。インターネット上の紹介業が隆盛であり、全国的にも紹介業からの依頼の割合は増加傾向にある。 これは、紹介業者のプロモーションが葬儀社の名称で行われることが多いため、結果として自社のロイヤルティが高い顧客が、紹介業経由での依頼になってしまう場合がある。
 紹介業の場合、売上内の一定額を紹介手数料として支払う必要があるため、利益率が低くなりやすい。そのため、紹介業が行うプロモーションとの明確な線引きが必要となる。

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