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葬儀業の特徴

あまり知られていないお葬式の業界について経営学の視点からお伝えしています。

許認可不要

 葬儀の施行には、公的な資格等は必要としない。また、葬儀業の営業には国や地方自治体の許認可や届出は不要である。このため、誰でも葬儀業者を名乗り葬儀業の営業を行う事ができる。関連する法規制には、ご遺体の搬送や棺を火葬場に移動する際の搬送車や霊柩車を自社で運行する場合、一般貨物自動車運送事業(霊きゅう限定)に該当するため、一般貨物自動車運送事業の許可が必要となる。
 しかし、当事業は、専門業者への業務委託が可能なため、葬儀事業の営業に必ず必要な許可とはいえない。また、冠婚葬祭互助会については、前受け金制度がビジネスモデルに組み込まれているため、割賦販売法の規制を受ける。しかしながら、これも葬儀事業の営業を行うに当たり必ずしも規制を受けるとは限らない。また、「墓地埋葬等に関する法律」があるが、これは、火葬場設置の許認可や霊園事業に関するものであり葬儀事業者の事業領域ではないため規制の対象にはならない。
 資格としては、その他に厚生労働省の技能認定資格である葬祭ディレクターや、民間資格の仏事コーディネーター等はあるが、これがないと業務ができないといった、独占資格ではない。
 このように、葬儀事業は許認可制度が無いため、全体を管轄する省庁も設定されていない。このため、正確な統計調査などは行われていないので、全体像を正確に把握することが困難である。

中小零細事業者と大規模事業者の二極化

 葬儀業を構成する事業体は、中小零細規模の企業が多い。経済産業省が、平成27年に発表した「特定サービス産業実態調査」([1])によると、調査対象9,609事業所のうち、4人以下の事業所が3,549社、5~9人の事業者が2,451社となっており、従業員数が10人未満の企業が占める割合は62.9%となっている。また、100人以上の企業は110社で全体の1.1%となっており、100名以下の企業が98.9%を占めており圧倒的に多い。

(出所)経済産業省「特定サービス産業実態調査」より筆者作成

 また、2011年に株式会社帝国データバンクが発表した、「葬儀業者の経営実態調査」では、調査対象の2190社の中で従業員数は、10人未満が1308件(59.7%)、10~50人未満が714件(32.6%)、50~100人未満が76件(3.5%)、100~300人未満が76件(3.5%)、300人以上が16件(0.7%)となっており、大手企業はわずかで、従業員300人以上の企業は業界全体の事業者数の約1%にしかすぎず、逆に従業員数10人未満が60%、50人未満が33%というのが実態で、葬儀業者の全体の93%が家族経営や中小零細企業であることがわかる。

(出所)株式会社帝国データバンク「葬儀業者の経営実態調査」より筆者作成

 また、売上高でみると、株式会社東京商工リサーチの「企業データベース」によると、年間売上10億円未満の企業が88,8%となっており、100億円以上の企業は1.2%となっている。
 また、公正取引委員会が2017年3月に発表した「葬儀の取引に関する実態調査報告書」によると、葬儀業の年間売上について、「1億円超5億円以下」が41.8%と最も多く、10億円以下の売上の企業が全体の、78.4%を占めている。また「50億円超」の企業は全体の5.2%のみとなっており売上規模からも中小零細企業が多い事がわかる。

(出所)公正取引委員会「葬儀の取引に関する実態調査報告書」より筆者作成

 また、年間の取扱件数については、1,000件以下の葬儀業者が全体の86.4%となっており、年間の取扱件数が1,000件を超える葬儀業者は全体の13.4%になる。

(出所)公正取引委員会「葬儀の取引に関する実態調査報告書」より筆者作成

 この中で、公正取引委員会が2017年3月に発表した「葬儀の取引に関する実態調査報告書」([1])によると取扱件数が年間5000件を超える大手企業の全体の75%が売上を伸ばしているのに対して、100件以下の中小企業では、22.1%となっており、葬儀業界では事業規模の二極化が進行しているといえる。

(出所)公正取引委員会「葬儀の取引に関する実態調査報告書」より筆者作成

労働環境と就業状況

 葬儀業はいわゆる3Kと言われる、「キツイ」「キタナイ」「キケン」の典型的な業種であった。葬儀業は労働集約型の産業であり、葬儀の依頼は24時間365日発生するため、これに対応するためには相応の人員数が必要であるが、中小規模の企業ほど人材の獲得が難しく、一人当たりの労働時間が長時間になる傾向がある。
 また、葬儀依頼数の季節による変動が大きく、繁忙期と閑散期では必要とされる人員数が大きく異なるため、繁忙期には社員一人当たりの負担が大きくなる。
 経済産業省が発表する平成29年度の「特定サービス産業動態調査」([1])によると、2000年に9,524人であった従業者数は、2016年には23,918人と約2.51倍と増えている。しかし、同じ「特定サービス産業動態調査」において、取扱件数も約2.31倍と同様に増大しているため、前述の社員一人当たりの負担が軽減されているとは言い難い状態である。

(出所)経済産業省「特定サービス産業動態調査」より筆者作成

職業差別

 葬儀業、または葬儀業に従事する者に対する差別がある。葬儀は人の死を契機とするサービスであり、遺体を取り扱う。供養関係の産業には、仏壇や仏具を取り扱う業者や石材店などがあるが、遺体を直接取り扱うのは、葬儀業だけである。遺体に対して人間は「死」への根源的恐怖を感じる。またそれを避けたいという意識を持つ。また、日本古来の宗教である神道では、「死を穢れ」とし、不浄であると考えられている。
 このような背景があり、生活者は葬儀業や葬儀業に従事する者を忌避する意識が根底にある。また、江戸時代の身分制度では、士農工商に分類されない仕事に従事する者を穢多・非人とした。その職制は様々だが、皮革加工業や遺体の処理など死に接する職業に対して「ケガレ意識」を持った。このような階級に対する差別意識が現在でも影響していると考える。

事業者数の推移と葬儀施設数

 葬儀を行う事業所数は、年々増え続けている。平成29年に発表された「特定サービス産業動態統計調査」によると、調査対象企業は2000年(平成12年)の553から、2016年(平成28年)の2,291と約4.14倍になっている。
 同調査では、売上高の概ね7割をカバーするように有意抽出されている調査対象に限っているため、実際にはこの事業所数よりも更に多い。
 後述の売上高別の葬儀社数の割合で述べる通り、売上高別における企業数の分布は、売上高が低い程多いため、下記の数字を単純に7割で割り戻した数よりも、更に多いと考えられる。
 「特定サービス産業動態統計調査」の調査対象となる事業所数が増加の一途をたどっているのは、単純に葬儀業界への新規参入が増え続けていることと、業界全体の売上高が増大していくことに伴って、売上高の7割の範囲に当てはまる事業所が増えていることも考えられる。

(出所)経済産業省「特定サービス産業統計調査」より筆者作成

 また、事業所数の増加とともに、葬儀施設数も増えている。1990年代に葬儀施設の建設ラッシュが全国的に広がり、綜合ユニコム株式会社が発行する「月刊フューネラルビジネス」によると、1980年代には全国で1,000か所未満であった葬祭施設は90年代以降増加し続け、14年には7739軒となっている。
 また、同誌の2017年4月号の特集によると、2016年12月末現在で全国に8,273か所の葬儀施設がある。同調査によると2015年までの施設数が8,109か所だったことから、1年間で164か所増えている。

(出所)綜合ユニコム株式会社「月刊フューネラルビジネス2017年1月号」より筆者作成

葬儀社の種類と業界団体

 葬儀社は、経営主体によって分類することができる。主に専門葬儀社、冠婚葬祭互助会、JA系の3つがあり、その他として、異業種参入、川下からの参入企業、紹介専門業などがある。

① 専門葬儀社(全日本葬祭業協同組合連合)

 専門葬儀社とは、葬儀業を主業としており、葬儀業が全体売上の大部分を占める事業者を指す。事業者数は非常に多いが、前述の通り許認可制度やその他規制する法令が無いため、正確な事業者数は判明していない。家族経営などの中小零細企業が大部分を占めている。

 業界団体としては、全日本葬祭業協同組合連合(以下、「全葬連」)は存在するが、任意の加盟団体であるため、統一の業界団体は存在していない。全葬連は、1956年(昭和31年)11月に発足した団体であり、1975年(昭和50年)2月に通商産業省(当時)に認可された。2016年に静岡県葬祭業協同組合が加入したことで、全都道府県を網羅する組織となった。
 全国45都道府県と災害協定を締結し、災害時に葬具を供出するなど災害時の対応や、消費者トラブル調停員会などの消費者保護のほか、8つの部会を設けている。全葬連には2017年(平成29年)現在は、59 の協同組合、1,337社 の葬儀社が加盟している。「特定サービス産業動向調査」上の事業所数が2,291であることを考えると、葬儀社のうち6割以上が専門葬儀社であると言える。
 また、綜合ユニコム株式会社発行の「月刊フューネラルビジネス」2016年1月号によると、葬儀業界全体の1,544,610百万円の内、専門葬儀社の売上シェアは27.9%で、322,094百万円の売上高と計算できる。

 事業者数が6割以上であるのに対し、売上高のシェアは3割以下であることからも、規模の小さな事業者が多いといえる。

②  冠婚葬祭互助会(全日本冠婚葬祭互助協会)

 冠婚葬祭互助会とは、割賦販売法に基づいて会費などの名目で前払い金を分割して受領することにより、冠婚葬祭サービスを提供する事業者及び関連会社で葬祭施行を営む企業である。
 1948年に神奈川県横須賀市にはじめて設立され、戦後の家計が貧しい状況において比較的安価に葬儀を行えることが評判になり、全国に普及した。「週刊東洋経済」2017年3月25日号によると、加入者数(口数)は約2,400万件、掛け金の総額は2兆4000億円に上る。

前受金の半分以上は保全することが割賦販売法によって定められているが、保全分以外を施設建設などに活用している。2012年(平成24年)の解約手数料をめぐる裁判などをきっかけに、経営の転換期にあると言われており、一部の冠婚葬祭互助会は、葬儀単価や会員数の低下等によって経営状態が悪化しているが、割賦販売法を管轄する経済産業省の指導によって、大手冠婚葬祭互助会が経営危機の団体を買収・吸収して、生活者の権利保護をする例も増えている。
 業界団体としては、一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)が昭和48年に設立している。平成25年に一般社団法人化し、平成29年7月現在は217社が加盟している。
 最盛期には400社以上存在したとされているが、「週刊東洋経済」2013年10月26日号によると、冠婚葬祭互助会は全国に290社あり、事業所数は「特定サービス産業動向調査」上の事業所数が2,291と比較すると、企業数は2割に満たない。

 一方で売上高は、綜合ユニコム株式会社が発行している「月刊フューネラルビジネス」2016年1月号から計算すると、葬儀業界全体の1,544,610百万円の内、シェアは62.30%であることから、719,229百万円の売上高と言える。事業所数は2割以下であるのに対し、売上高のシェアは6割以上であり、1社ごとの売上高が高いことがわかる。

③    JA系

 農業協同組合(JA)の関連企業で、全体売上高の多くを葬儀施行の売上高が占める事業者及び葬儀以外の事業も手掛ける企業である。戦前から続いていた葬祭具の共同利用という地域コミュニティをサポートする形で、組合員の葬儀を担うことを目的としてJA葬祭が設立した。
 当初は、葬祭具の共同利用・祭壇の貸し出しが中心であり、高度成長期には提携する専門葬儀社などに葬祭サービスを依頼して提供していた。1990年代以降は、自社で葬儀施行をする傾向が強くなっていったが、葬儀施設の展開は他の業界団体からは5年ほど遅れ、2004年以降にピークを迎えている。現在は920か所を超える葬祭会館を構え、全国の約12%を占めている。
 母体であるJA自体が業界団体ということで、全国で正・準合わせて約1000万人を超える組合員の葬儀を主に想定しているが、地方に組合員が多いことから、人口減少の影響を他の経営主体よりも強く受けている。
 事業者数としては、JA葬祭のホームページによると198社に上り、「特定サービス産業動向調査」上の事業所数2,291に比べると1割に満たない。
 一方で売上高は、総合ユニコム株式会社が発行している「月刊フューネラルビジネス」2016年1月号([6])によると、葬儀業界全体の1,544,610百万円の内、JA系の売上シェアは9.90%であり、114,291百万円である。

④その他
 上記の3つの経営主体の他にも様々な葬儀社が存在するが、主には異業種からの参入業者、川下産業からの参入業者、紹介専門業が挙げられる。
 異業種からの参入業者は、鉄道・ホテルなど異業種から葬儀業界に参入している企業であり、別法人として設立される場合と、一事業部として本体法人の一部として活動する場合がある。どちらの場合でも、葬儀の受注・施行機能としては専門葬儀社と同じように行っている場合が多く、業界内での売上高・事業者としての計算も専門葬儀社の枠に含まれ、売上高などの詳細は不明である。元々所持している土地や流通機能などのリソースを有効活用することで競争優位を構築しており、特に好立地を活かしているケースが多い。
 川下産業からの参入業者は、仏壇・墓石・ギフト業界など、葬儀を含む供養業界全体の中から川上戦略で葬儀業に進出している事業者であり、事業部として葬祭事業を始める場合と、別法人を立ち上げる場合がある。本体事業の売り上げ拡大を目的に参入してくることが多いが、既存の葬儀社と提携していた場合、軋轢が生まれることもあるため、受注施行機能を専門葬儀社と同じように持つ場合もあれば、後述の紹介専門業のように受注のみ行って施行は別の葬儀社に委託することもある。異業種参入と同じく業界内での売上高・事業者としての計算も専門葬儀社の枠に含まれ、売上高などの詳細を不明である。
 
 紹介専門業とは、葬儀の施行機能を持たず、生活者からの依頼を葬儀施行事業者に紹介する事業を指し、葬儀社としての店舗・施設を持たないのが特徴である。インターネットでの集客を主としている。自主規格(葬儀に必要なものをセットにしたパッケージプラン)を設けている場合と、登録している各葬儀社それぞれの規格を比較できるようにしている場合がある。
 現在の主流は紹介専門業の自主規格であり、全国どこでも同一規格で葬儀が出来ることを利点として、追加費用無しなどの価格面で優位性を押し出している。もともとIT企業など、WEB上での宣伝広告・システム開発を行う企業が多く、「特定サービス産業動態調査」などの統計では葬儀業に含まれない。
 これらのその他の事業形態については、業界団体は存在しないため、より実態が掴みにくい状態である。

(出所)筆者作成

新規参入が比較的容易

 葬儀産業が、今後の死亡人口の増加を背景に成長産業だと考えられていること、また葬儀業には許認可や資格が必要無いということ、また葬儀事業者が圧倒的に中小零細規模の企業が多い事から業界として成熟していないと考えられていることなどから、異業種企業からの新規参入が増加している。  
 公正取引委員会が2017年3月に発表した「葬儀の取引に関する実態調査報告書」によると、自社の営業地域内の新規参入について、「新規参入の有無」という質問項目に対して、「あった」と回答した葬祭業者は72.6%となっている。そのうち内訳としては、「自社の営業地域外で営業していた事業者」が54.5%、「異業種から参入した業者」が24.1%となっている。
 従来は、石材店や生花店・仏壇店など、葬儀に関連する業界の企業が多角化として、葬儀業を兼業していることが多かったが、現在では、生協、電鉄系、ホテル、小売業、ネットベンチャーなどからの新規参入が続いている。 
 生協では、88年にコープこうべ。電鉄系では95年に阪急電鉄が葬儀業に参入し、その後、京急電鉄、東武鉄道などが、子会社を設立して葬儀業に参入している。また、09年にはイオングループが葬儀業界に参入した。

(出所)公正取引委員会「葬儀の取引に関する実態調査報告書」より筆者作成

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