少年ギター外伝/マキシ
少年ギター外伝/マキシ_1
マキシ、
黒ずくめのその女はみなにそう呼ばれていた。
マキシはかすれたガラガラした声の女だ。
酔っ払ったマキシがうたう、居合わせた奴が言った。
地獄に引きずり込まれる、
だから俺はマキシの歌を聞いて恋をした、マキシに。
それが、マキシだ。
50年台のフランス映画のVampのような広縁のハットをかぶる、化粧の濃いマキシ。黒い毛皮のコートをふくらめて羽織るマキシ。それがお前のあだ名さ、
その後、彼女を歌ったフォーク歌手がいた。
黒いフォークを彼女は待っていた、中津別川の中流の田舎道の外れの納屋の前だった。
中津別川フォークジャンボリーまでまだ7日ほどある、ちょうど良い納屋に寝泊りしていた。
1週間前だというのにキスリングにテントをくくりつけた、ワンダーフォーゲルの連中やキャンピングカーのようにワーゲンのバンを改造したやつら。寝袋しか持たずにやってくる無神経な奴ら。
その中に少年がいた、坊主刈りの中学生ギターケースを持っている、
見たことのある。
少年、と呼びかけた。
少年は汗をかきかきその声にピタッと歩みを止め、マキシの方を見て、はい、と言った。
少年、はい、そのギターケースは少年のものなの?
ひよんなことから自分のギターと交換して来ました3kmぐらいに下流の土地です。
その持ち主は?
ブロンズのミディアム弦に変えてくれと、
声をかけられたやつに言えと言われた。
そう、マキシはしゃがれた悲しそうなこえで答えた。
少年、こっち来てちょっと休まない?
サイダーあるよ。その男の話もう少し聞かせて?
(つづく)20220316
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