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モーニング

「モーニング」

友人2は、朝になってもまだ泣いていた。
いや、正確には、朝になってもまだ話し足りず、会社には仮病を使って遅番にしてくれと連絡をして

「モーニングおごるからさぁ・・・あと1時間くらいはしゃべれるよ。」

モーニングを食べながら話を聞いていたら、また泣きだしてしまった。

友人1と私は、その日の前夜二人でライブを観に行って、最高の気分になっていた。友人2も誘ったのだが、

「ライブハウスはちょっと・・・」

ライブハウス経営者の私に、彼女は平気でそういうことを言う。
そのくせ、最近傷心して話を聞いてほしいらしく

「今日泊り?だったらライブ終わってから合流だね!シングル?私も一緒に泊めてもらっちゃおうかな♪」

と、ホテルのロビーで待ち構えている。

あいにく、シングルで取ったはずのシティホテルは、このご時世のためか

「ツインルームが空いておりましたので、ツインをご用意しておきました。」

チェックイン時に受付のお兄さんがにこやかに案内してくれた。

「もう!たまたまツインやの!・・・あの子さ、
え~わざわざツイン取ってくれたの~?とか言いそうじゃない?」

「もうさ、私は散々聞かされたんだけどさ、あんた一晩中聞かされるよ~~覚悟やで~」

友人1と私は、ライブが終わった後きゃらきゃら笑いながら、ホテルへと向かった。

友人1と2と私は、学生時代風呂とトイレと台所が共同の下宿に、一緒に住んでいた仲である。
初めての一人暮らし、初めての京都、初めての・・・

たくさんのことを共有し、大学を卒業してからもずっと一緒に泣いて一緒に笑って過ごした。お互いの性格はもう熟知している。

彼女たちとは、2年ほど前に会って以来だ。
話したいことがたくさんあった。

友人1は、出会ったときからすぐ仲良くなって、私にとっての最悪な時代にも、ずっと寄り添ってくれた存在である。顔を見ただけでちょっと笑っちゃうくらい、一緒にいるとテンションが上がる。彼女はずいぶん前に結婚して、2人の男の子を育てている。
友人2は私と同じく独身・・・お互い、

「一緒にしないでほしいわ。」

と思っている。私は私の理由で、彼女は彼女の理由があってお互い独身なのだが
傍から見たらきっと同じなのだろう。

最近傷心したらしく・・・苦笑いである。

どこかの居酒屋にでも入る予定だったのだが、結局コンビニでお酒とおつまみを買い込んで部屋で飲むことになった。

母親には母親なりの、OLにはOLなりの、経営者には経営者なりの

それぞれの悩みがあった。

器用なようで不器用な、大人なようで思ったより大人でもない
社会的役割を演じる必要のないホテルの一室には、等身大の私たちがいた。

友人1が終電で帰った後、友人2の話に朝まで付き合う覚悟だったが、早々に寝てしまった。

空調の効いた部屋、快適なベッドですやすやと眠りについて、最高に心地よい朝を迎えた。

隣のベッドには・・・彼女が眠っていた。

「なんでおるねん。」

しばらくして起き上がった彼女は、勢いよくカーテンを開けた。

「ほらぁ!朝日!!綺麗よ!!」

「ま、まぶしぃ・・・」

こんな朝日を、何年ぶりに観ただろうか。
お日様の熱が、私の皮膚を通過して身体の芯までもを温めていった。

そして、彼女の話の続きが始まった(笑)

こ、こんなさわやかな朝に・・・と思わなくもなかったが、先に寝てしまった償いとしてしばらく話に付き合うことにした。まぁ、そもそもな話なんだが。

「せっかくだからモーニングでも行こうよ!!」

彼女は恋を引きずるタイプで、いつまでもいつまでも、そんな話をしていた。
自分はそもそも恋愛相談なんて誰にもしないし、例え傷心したとしても、引きずることはない。

「もし本当に縁のある人なら、一度離れてもきっとまた繋がるのだろうし、縁がないなら、それまでだ。」

と思うようにしている。自分の力でどうにかしようとは思わない。

人の心は、自分の力では変えられない。

「えー!それってさぁ、恋に恋してるんじゃないの?」

「そうなのかなぁー」

めんどくさいので、反論もしない。

彼女は私に自分の恋愛論を聴かせることで、傷心の痛みを和らげようとしているのだ。
自分は間違っていないと、自分は正しかったのだと、そう思いたいのだ。

「本当に好きだったらさぁ、誰かから奪ってでも、何が何でも付き合いたいって思うでしょ?相手のことを考えて自分は身を引くとか、ありえんわ!それって自己満じゃない?」

「うーん。そうなのかもしれないねー自分に酔ってるだけかもねー」

めんどくさいので、反論しない。

本当に好きだったら

自分の愛を100%ぶつけて欲しがるのが彼女流。

本当に好きだったら

相手を100%たてて我慢するのががワタシ流。

・・・そしてお互い、独身である。

是非とも足して二で割りたい。

彼女はモーニングを食べた後、改札へ向かった。
私はもう一度ホテルへと戻った。

別れ際、お互い何度も振り返って、手を振った。

不器用な私たちは、また、社会的役割を果たすべく、前を向いて歩いていかなければならない。
もうそこには、さっきまでの泣きっ面ではなく
凛とした大人の女性の私たちがいた。

少なくとも、そう演じようと頑張って生きている私たち。

また次に会うのは何年後なんだろう。
その時には、お互い、少しくらい変わっていられたらいいね・・・

なんて思いつつ

「お互い変わらんよなぁ。」

いつまでも、そう言いあっていたい気分でもある。


都会の朝溢れる人波。

すれ違うのはきっとみんな、大人になり切れない、大人たちである。

2022年1月21日 ひろ


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