12三島

共創というよくわからない概念

近年流行っている「共創」という言葉、いまいち分かりづらい概念である。以下に解説する。

最近流行の「共創」とは

近年「企業は顧客との共創を推し進めるべきである」という論調が盛んである。この「共創」という言葉、CSV(Creating Shared Value)の日本語訳も「共創価値」であることから混同されやすいが、共創とCSVとは異なる概念である。

CSVは、社会課題解決と企業収益を両立させる活動のことで、たとえばスターバックスの行っているコーヒー豆農家支援活動がCSVである。最近流行っている方の「共創」は「顧客の協力を得て、顧客の内心に潜む本質的要求を発見し、本質的要求を満たす製品やサービスを開発する活動」のことである。

「本質的要求」とは、顧客自身も自覚していないが、その顧客にとって重要な困りごとや願望のことである。仮に自覚があったとしても顧客は自己分析のプロでも説明のプロでもないため、インタビューやアンケートで直接的に本質的要求を得ることはできない。顧客の本質的要求は企業が分析と考察によって発見するものである。

本質的要求の発見が成功につながる

顧客の内心にある本質的要求を発見し商品化した事例としては以下のようなものがある。

iPod + iTunes
Appleの楽曲プレーヤiPodは、技術的にはさしたる優位性はない。しかし楽曲管理アプリiTunesと併用することで顧客は「CDをカセットテープにダビングする面倒さ」「カセットテープを抜き差しする面倒さ」という2つの面倒さを解消することができる。この2つは実は顧客にとって長年解決されない深刻な不満要因であったのだが、Appleはこの本質的要求にいち早く気づき、大ヒット商品を生み出すことができた。

アキレス「瞬足」
アキレスの大ヒット製品「瞬足」は「運動会のクラス対抗リレーで転ばないための靴」である。全校生徒の見守る中で転ぶことは、カッコ悪く、またクラスの仲間達の期待を裏切る背信行為であり、けっして起こしてはいけない事案である。しかし大人が子供時代に抱いたはずのその気持ちを思い出すことは難しい。アキレスはこの本質的要求にいち早く気づき、大ヒット商品を生み出すことができた。

カット専門理髪店QBハウス
一般的な理髪店がカットに加えて洗髪と髭剃りまでを行うのに対し、QBハウスではカットしか行わない。だから短時間で理髪が終了し人件費や設備費ひいては価格を下げることができるわけだが、成功の理由は「洗髪と髭剃りは無駄だと感じている顧客が一定数存在していた」ことである。QBハウスはこの本質的要求にいち早く気づき、理髪店業界で急成長することができた。

本質的要求を発見するには

顧客の内心にある本質的要求を発見するには、顧客を対象としたインタビュー調査や観察調査の結果を分析して得るのが基本である。しかし最近流行っている方の「共創」では、顧客が積極的に自分についての情報を発言したくなる雰囲気づくり、場づくりが特に重視される。

リビングラボ
製品やサービスの開発工程に消費者(潜在的顧客)を関与させる仕組みを総称してリビングラボと呼ぶ。会員制度の運用や活動のイベント化など、消費者の関与意欲を高める仕組みを含むことが特徴である。行政がリビングラボという場合は産官学協同の仕組みまで含むことが多い。

ファンコミュニティ
昔風にいうとファンクラブのことで、企業の設立するファンコミュニティは自社の熱心なファンが積極的に自分についての情報を発言したくなる雰囲気づくりを目的としている。

アイデアソン
製品やサービスの企画立案工程を娯楽イベント化したものである。アイデアソンでは多種多様なアイデアを集めるため潜在的顧客になり得ない一般市民にも参加を認めることが多い。

アイデア公募サイト
企業の依頼を受け、特定のテーマについてのアイデアをインターネット上で募集するオンラインサービスが存在する。アイデアソンは企画書完成をゴールとすることが多いが、アイデア公募サイトは断片的なアイデアの募集であることが多い。アイデア公募サイトもアイデアソン同様、多種多様なアイデアを集めるため潜在的顧客になり得ない一般市民にも参加を認めることが多い。

ユーザーテスト
試作品を消費者(潜在的顧客)に貸し与えて意見を聞く活動のことである。ユーザーテストは試作品が本質的要求を満たしていることを検証するために行うものだが、聞いた意見から新しい気づきを得ることもできる。

本当に大事なのは企業内共創

アイデア発想においては、多様な価値観と多様な専門知識を持つ複数の参加者が互いに他人のアイデアに触発されることで、新しいアイデアが連鎖的に生み出されるとされる。

本質的要求の発見でも同じことが言える。企業が顧客の本質的要求に気づくには、多様な価値観と多様な専門知識を持つ複数の人材が参加することが効果的である。

企業には多様な価値観と多様な専門知識を持つ複数の人材が多数在籍している。つまり企画・設計・品質・営業・サポートなど各部門の開発関係者である。彼らが共創をしないとしたらなんとももったいない話ではないか。

顧客との共創を実践するのであれば、ぜひ同時に企業内共創も同時に実践していただきたいと考える次第である。

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