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鳥栖FWの振返り(2021年シーズン) ~ 林選手移籍がもたらしたもの ~

はじめに

  2021シーズンのサガン鳥栖はここ数年でも特に脚光を浴びた年でもありました。金明輝監督の可変式フォーメーション(アシンメトリー戦術)は大きな驚きを呼びました。
  前半戦は好調であった鳥栖が、後半戦でやや失速した理由としては、①主力選手の移籍、②他クラブの鳥栖戦術分析と対策戦術、③クラブの内部問題が挙げられると思っています。勿論、細かい原因は挙げればきりがありませんが大きいところでいえば、この3つが中心ではないでしょうか。
  データで変化を読み取るのは非常に難しいのですが、FWに関しては得点に関する記録が多いので、少し考察してみることにしました。

スタメン FW の決定力と1試合での平均得点

表 FW組合せによる決定率と試合得点

  上の表が 2021 年のスタメン時のフォワード( FW )の組合せ(ペア)、①第 1 FW、②第 2 FWのそれぞれ決定率と試合得点を算出してみました。ここで【決定率】とは「打ったシュートに対する得点が入る確率」で【試合得点】は「1試合の平均得点数」を示します。

山下選手・林選手のペア

  『表 FW 組合せによる決定率と試合得点』をみると、前半戦にメインでスタメンとなっていた山下 & 林のペアでは決定率、試合得点が非常に高いことが分かります(酒井 & 林のペアの方が数字的には高いのですが先発試合数が 3 なのでこれは参考値と考え、除外します)。しかし、その中身をみてみると、山下と林の個々のデータに開きがあることが分かりました(決定率の差・試合得点の差を見てください:黄色の塗りつぶし部分)。これは山下の組合せ相手が林の場合、林はシュートをほとんど決められてないということがわかります。

山下選手・林選手以外でのペア 

  一方で、山下と組む FW が林以外である場合では、逆に山下の決定率、試合得点が激減することが分かりました。特に小屋松ではその傾向が強くなっています。前半戦での小屋松は定位置が FW ではなく、インサイドハーフ( IH )やウィングハーフ( WH )としての起用が多く、第24節まで山下 & 小屋松のペアはありませんでした。つまり、前半戦の鳥栖の好調は林選手が山下選手を能力を最大限活かしていたから、と推察することができます。

山下選手と林選手の役割を考察する

  前述のように、山下にゴールゲッターの役割を最大限発揮させるため、林は相手ディフェンダーを引き付ける「囮(おとり)」あるいはボールの「納めどころ」としての役割を徹底していたと考えることができます。そのため、自身がボールをキープしても前を向けない場合はレイオフに徹するがゆえ、林はゴール数・シュート数ともに少なくなりました。しかし、この能力が東京五輪の代表選出へとつながったと言っても過言ではありません。

表 2021シーズンFW組合せ

酒井選手・小屋松選手のペア

   第20節で林がシント・トロイデンに移籍し、後半戦のメインのスタメンとなったのは、酒井 & 小屋松のペアでした。後半戦の序盤に山下とのペア探しを模索したと考えられますが、山下が相手 FW のシュートをお膳立てする(前半戦の林の役割を担う)ことが顕著になったことで、山下自身は得点力が激減してしまいます。そこで、7月に絶好調であった酒井を FW の軸に据えるペアに変更しました。酒井 & 小屋松のペアでの決定率・試合得点は山下 & 林のペアほど高くはありませんが、個々のデータでは役割を分担したとしても決定率・試合得点はどちらか一方に偏っていません。あえて、ゴールターゲットを縛らせすに分散することで、得点率のアップを狙う作戦にでたのではないかと推察します。

酒井選手・小屋松選手以外でのペア

  『表 FW 組合せによる決定率と試合得点』では、酒井 & 小屋松以外でのペアは決定率・試合得点の成績が良いように感じますが、これには酒井 & 林のペアの成績が含まれていますので、実際は山下 & 林以外のペアとはほとんど数値的に変化がありません。そのため、後半戦のメイン・スタメンは酒井 & 小屋松のペアが固定となりました。このペアが組めたのも、小屋松のポジション充填として、中野(嘉)を今期初めからレンタル移籍で獲得し、IH や WH で起用できたことが非常に大きく、結論から言えば「大成功」であったと言えます。大きな怪我でのリタイヤもなく、彼のフル回転の活躍がなければ、後半戦での選手のやりくりには相当、困ったはずです。

まとめ

  以上をまとめると、前半戦のペースで勝ち続けるためにも、林の移籍は大きな痛手であったことは間違いなさそうです。林のボール保持力やレイオフ能力、最後の最後は被ファールも得られたことが鳥栖の攻撃を有利にしていました。その一角を失った後半戦では、山下の得点シーンは影を潜めることになります。ただ、そのピンチを酒井 & 小屋松のペアが救ったというのも現実です(ちょうど金監督の3試合停止処分中の片渕さんの采配が大きかったのではないでしょうか)。
  仮に、後半戦で『決定的な得点力』を持つ FW の台頭があったならば、上位進出( ACL )も夢ではなかったように思います※。自身の note 【2021年7月22日「サガン鳥栖に選手獲得は必要か?」】において夏の移籍市場でFW の獲得必要論を唱えましたが、結果的に岩崎がレンタルでの移籍加入があったものの、起爆剤までにはなりませんでした(ただ、燻っていた本人の能力は開花し始めていると思ってます)。
  ※福岡戦、徳島戦での大敗は別途、考察する必要はあると思っています。

最後に 

  近年の J リーグでは、シーズン中を通して 1 つの戦術で勝ち続けるには少し限界があり、選手の総合能力で特化している川崎フロンターレや横浜 F.マリノス以外では①夏の移籍加入で守備力・攻撃力をアップさせること②戦術のパターンを変化させることで対策をうつこと、が必須となっているように思います。2021シーズンその対策をしたクラブとして、ヴィッセル神戸、名古屋グランパス、浦和レッズらはその筆頭角だと思います。
 ただ、鳥栖ではお金を使って①はできません。とすれば②を特化する方法でしか対応ができません。福岡戦・徳島戦の大敗後、第 36 節の札幌戦で見せた戦術は後半戦で最もエッジが効いた戦術だったように思っています( note【2021年11月23日「第 36 節 コンサドーレ札幌戦レビュー」】)。

  さて2022シーズン、新生サガン鳥栖はどのような戦いをしていくのか。とても興味がそそられます。


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