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異動シーズンに「人類初の南極点到達レース」から得られる示唆について語る

2023年度も残すところわずか。日本の多くの組織では異動シーズンですね。転職する方も、新年度となるこのタイミングで、という方も多いのではないでしょうか?

そんなキャリアの転機になる年度末。

今回は、つい最近読んだ人類初の南極点到達レースを描いた『アムンセンとスコット』という一冊から得られる示唆について書いてみたいと思います。

南極点初到達は、1911年ノルウェーのアムンセン隊と、イギリスのスコット隊とで競われ(なお、同じ時期に日本の白瀬隊も南極に入っている)ています。飛行機がまだ実用化していない時代なので、船で上陸したうえで南極点を目指します。

アムンセン隊が誰一人欠けることなく勝利した一方、スコット隊は極点到達のために選抜されたメンバー5人全員が南極点からの帰路で亡くなってしまう、ざっくり言うとそのような顛末でした。

本書は残された記録をもとに2つの隊の目線を行き来しながら、南極点到達レースを描いた作品です。


アムンセンとスコット

ノルウェー隊のリーダー、アムンセンは15歳の頃、探検家の本に感動し「自分も未知の大自然で苦難に挑戦したい」という衝動に駆られ、それから極寒の地への旅立ちに備え、体力づくりやスキー技術修得に励みます。
(北欧の国の)真冬に寝室の窓を開け、寒さに耐えるという、普通の人では考えられないようなトレーニングも行っていました。

一方イギリス隊のリーダー、スコットは「イギリス海軍の提督(司令官)」を目指し、13歳で水兵を志します。
31歳の時、立派な指揮官として育った頃、「イギリス王立地理協会」の会長から任命を受け、南極探検の隊長に就任。
当時、極地探検への準備が全くできていなかった探検隊を立て直していきます。

元々極地への探検に備えてきたアムンセンに対し、組織のエリートとして極地探検プロジェクトのリーダーとして抜擢されたスコット。この2人のリーダーが、南極点初到達を競うことになります。

何が偉業達成と全滅を分けたのか?

到達レースの顛末は冒頭に書いた通りですが、何がその違いを分けたのか?
本書から読み取れるいくつかの違いを紹介します。

①移動手段

アムンセンはメインの移動手段を「犬ゾリ」に、スコットは「馬」を選択します。

犬ゾリは氷の土地を素早く移動できるほか、食料も現地でアザラシなどの肉を調達すればOK。

対して馬は氷の土地では思ったように動けないうえ、食料として大量の草を用意しなければなりません。

アムンセンは南極以前の探検から犬ゾリが有効だったことを知っていたのに対し、スコット隊が馬を選択したのは、過去の探検からの「伝統」だったとか。

結局スコット隊の馬たちは途中で弱り果て、殺処分されることになり、それ以降スコット達は人力で極地を進むことになります。

人力でソリを引っ張るスコット隊
(『アムンセンとスコット』より引用)

②道具

南極滞在中、現地の冬の間は基地で越冬するのですが、その間アムンセン隊は現地での体験も踏まえながら道具の改良につとめます。

他方スコット隊。彼らが現地で道具の改良を行ったか否かは描写が無いので分からないのですが、燃料を保管するための容器が、南極の寒さで破損し燃料が流出するというアクシデントに見舞われます。

③隊員の心理面でのケア

アムンセンは隊員に心理的にゆとりを持たせるような工夫をしています。
例えば3人用のテントで2人ずつで寝るようにするといったことです

対するスコットは四人用テントに5人詰め込むといったことを行っており、「人間の神経にとって実にまずい方法をとった」とされています。

今の言葉で言えば、アムンセンは心理的安全な組織を作れていた、ということかもしれません。

これらの違いの結果…

これらの違いが両隊の差を分けました。

アムンセン隊が犬ゾリでスピーディに移動し南極点に到達した一方、スコット隊は途中から人がソリを引くという羽目に陥り、アムンセン隊に1か月近く遅れて南極点に到達します。

南極点に到達したアムンセン隊
(『アムンセンとスコット』より引用)

この遅れの結果、南極の季節は冬へと向かいはじめ、スコット隊を寒気が襲います。マイナス40℃になる日もあったとか。これではとても身動きが取れなくなります。

さらに保管してあった燃料を失ったスコット隊は暖を取ることもできなくなり、最終的には基地に戻れず全滅することになってしまうのです。

スコットは5人のうち最後まで生き残り、国、先だったメンバーの家族、自分の家族などへ手紙を残します。
この手紙は基地にいたメンバーに後々回収されイギリスに持ち帰られ、亡くなったスコット達5人は「悲劇の英雄」としてイギリスでは称えられたのでした。

キャリアの転機に2人が与える示唆

『アムンセンとスコット』の解説文も書いている山口周さんは、著書『ニュータイプの時代』で、この南極点到達レースを引き合いに出し、以下のように述べています。

企業が保有する経営資源の中で、可変性が最も高いのが「人」という資源だという指摘はすでにしました。つまり、ここに同じ潜在能力を持った2人がいたとして、内発的動機で駆動されているニュータイプと、上司からの命令で駆動しているオールドタイプとを比較すれば、前者が後者よりも高いパフォーマンスを発揮する公算が高い、ということです。

引用元:『ニュータイプの時代』(山口周)

15歳の頃から探検家を志し、真冬に自宅の窓を開けてトレーニングしてしまうほどのアムンセンは内発的動機で駆動され、海軍のエリートで元々探検に興味があった訳でないスコットは上司からの命令で駆動されていたということです。

新年度の居場所はどうやって得ましたか?

多くの組織にとって人の出入りのある4月。
新たな居場所はどのように得ましたでしょうか?
どういった方にとっても『アムンセンとスコット』から得られる示唆があるのではと思います。

内発的動機に駆動されて、自ら居場所をつかみ取った方
おめでとうございます!
ぜひ、アムンセンが15歳から抱いた夢を実現したように、望んでいた場所で自らの成したいことに取り組んでください!

希望する職場への異動が叶わなかった方
1日のうち仕事にかける時間はざっくり1/3。
残りの時間で、かつてアムンセンが取り組んだような鍛錬も積むことができるはずです。きたる時に備えていきましょう!

よく分からないけど、新しい職場に異動することになった方
きっと、スコットのように、誰かに期待されて新たな職場に異動するのではないでしょうか?ご自身の能力を発揮されることを願っております!

とはいえ、内発的動機に駆動されている人の方が、より力強いと思うと、ご自身が何に突き動かされるのか、見つめてみてもよいかもですね。

世界で初めて五大陸を踏破した植村直己さんは、「友達を作りたいから」と登山を始めた結果、登山に魅了されていきます。何がキッカケで自らを突き動かすモノゴトが見つかるか分からないので色々トライするのも良さそうです。

結果的に2回連続で、登山・探検にまつわる話になりましたが、どなたかの参考となれば幸いです!

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