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[旅行記] 三河のみりん 九重味淋の製造元を訪ねて

愛知の主に南部をいろいろ巡る旅の記録。

みりんを多用するような料理生活はしていないのだけど、だからこそ調味料にはこだわっておきたくて、みりんは三河のみりんを幾つか使ってきた。今回、愛知南部を巡る旅の中で、みりん製造元の中でも珍しく工場見学ができる九重味醂さんを訪問できた。事前予約が必要で、基本的に平日に限られているのでなかなか行けるようなタイミングが無かったのだけれど、今回ようやく念願かなって見学できることに。

知多半島の東側、川で隔てられたあたりの碧南市。周囲はどことなく昔ながらの町並みといった趣がある場所だったけれど、中でも九重味醂がある地域は江戸時代を思わせる黒い材木に白い壁、石畳といった風景が残る地域。九重味醂の建物も江戸時代の住居兼工場みたいな、昔ながらの酒蔵といえるようなそんな雰囲気。

受付兼売店に続いてレストランがあって、このあたりの内装は最近模様替えをしたようでとても綺麗な和風モダン。おしゃれな空間に、みりんの情報がいろいろと詰まっている。

この日の工場見学ではトータルで20人程度になっていて大盛況。自分含め、県外からのビジターも多く、やはり昔からの調味料である味醂というものへの興味は、皆さんかなり高い様子。

工場見学は製造工程をひと通り説明していただき、1772年創業という九重味醂そのものの歴史も交えて、味醂の様々な情報が紹介されていた。さすがに旧家だけあって、所蔵物は江戸時代のものが多数。歴史風俗あたりが好きな人にはたまらない内容になっていそう。

味醂の製造工程を簡単にまとめると、

  • うるち米を蒸して麹菌をかけ、米麹を作る

  • もち米を蒸し上げ、米麹と混ぜる

  • さらに焼酎(米焼酎)を加える

  • 2ヶ月間熟成させ(糖化熟成)、2日かけて絞る

  • 貯蔵して熟成させる(1年~3年)

出来上がった味醂はアルコール度数14%前後という、立派な「お酒」。江戸時代のレシピでは「味醂酎」として、22%前後のものとして出来上がっていたそうで、これは料理用というよりは飲用としての側面が強かったらしい。

この製造方法を聞いて思ったのは、シェリー酒やマディラ酒などの酒精強化ワインとかなり似ている、ということ。あちらはブドウを発酵させたところにブランデーを入れて糖化熟成させていくわけで、それを米でやったのが味醂、とも言えそう。もちろん細かい部分ではかなり違いがあるし、例えばシェリー酒だとフロール(産膜酵母)による効果やソレラシステムによる長期間の熟成だったり、マディラ酒の場合は日光の入る貯蔵庫で長期間酸化熟成させたりと、特に熟成環境については大きく違ってきている。でも、そこに至るまでの原酒の造り方でいえば、かなり似ているのでは、と。そんなことを考えていた。

その他、なぜ碧南という土地で味醂が作られるようになったのか、海外との繋がり、本格みりんとみりん風調味料の違いなどなど。実際の造り手の方にいろいろと説明してもらえてとても興味深く楽しい時間だった。

試飲させてもらったみりんは3種。スタンダードな1年熟成、上位グレードの1年半熟成、そしてプレミアム品の3年熟成という御所櫻。1年と1年半という熟成期間でもまろやかさかなり違っていたのに驚き。また、御所櫻は独特のニュアンスがあって、紹興酒やそれこそシェリー酒のような風味を伴っていた。こちらは淡い味の和食にはちょっと向かなさそうな反面、蒲焼などの濃い味のものや、デザートのバニラアイスに掛けたりといった使い方もあるとか。なんだか本当にオロロソ・シェリーやペドロ・ヒメネスみたいだ。違いがある中でも共通していたのは、上品な甘さ。黒糖のようなねっとり強い風味の甘さではなく、さらりとした和三盆的な系統の甘さなのが印象的だった。

売店ではみりんの絞り粕が売られていて、酒粕よりも使いやすいらしいのでちょっと気になったのだけれど、要冷蔵なので断念。併設のレストランも予約で満席だった。今度来る時があれば予約して来よう。みりん粕の料理、かなり気になる。

みりんについて、知らないことが多かった。そして何より楽しかった。ここに来れて良かった。そしてなにより、九重味醂のファンになってしまった。やっぱり今後もみりんはしっかりしたものを使おう。


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