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ニンジャの話 その12 サイクリング

人付き合いが上手だった父には多く来客がありました。名古屋にあった自宅には分不相応の応接間セットがあり、入れ替わり立ち替わりお客様がいらっしゃっていました。幼児の頃はあまり人見知りしない子供だったそうなのですが、物心着く頃になるとちょっと恥ずかしくてイヤだったのを思い出します。お客様がいらっしゃると必ず私はご挨拶をさせられていたので正直なところゲストが来るとああ、またご挨拶しなければならないのかと凹みました。時折話に付き合わされて数時間お話を聞いたり自分の意見を要求されるので緊張してました。

私が中学生になった頃には古民家は人が泊まれる状況になっていたため長期の休みは私たちはこの古民家に泊まり込んで作業をするようになりました。そうなると今まで名古屋のお家でお迎えしていたお客様は休みになると古民家の方でお迎えすることが多くなりました。私はいつも父のお客様をお迎えする立場であまり面白くありません。

「自分のお客を古民家に呼ぶ!」両親に宣言すると意外なことにすんなりと要求が通ります。早速中の良い友達に声をかけ、中学2年の夏休みに私は学校の友達を初めて古民家でのお泊まりにお誘いしました。当然男の子ばかりの5人組です。当時は変速機付きの自転車が流行っており皆それぞれに自転車を持っています。自転車に乗って泊りの旅に出るというのが私たちの男の子魂をくすぐりました。相談の結果、車は公共交通機関を使うのではなく私たちの住む街から古民家まで自転車で往復する2泊3日のお泊まり旅行計画が発動しました。

私たちの住んでいた町から古民家までは片道40キロ。比較的交通量の多い国道も通りますし、途中からは山道に入り2キロ近くに渡る”えっちら峠”を超える必要があります。この峠道を越えるのは結構な坂道で果たして自転車から降りずに登り切れるのかが議論の的となりましたが、所詮中学生です。なんとかなるだろうと結果スルーすることで話がまとまり(まとまっているのか?!)プランは実行されることとなりました。

名古屋に住んだことがある方はお分かりと思いますが、名古屋の夏は暑いです! 35度を越える猛暑日も多くあります。私たちは日差しをできるだけ避けるために朝8時に集合。水分補給のための水筒を持ち、宿泊のための着替え、虫刺されなどのお泊まり用品をそれぞれ背中に背負ったり荷台に括り付けて出発しました。全員とも40キロにわたるサイクリングは初めての経験、しかも後半は山道です。困難が予想されましたが、意外なことに声を掛け合いながらスイスイ進みます。あまりにも順調だったので、途中の私の記憶も曖昧なほどです。峠の上り下りも変速機のおかげでへっちゃら。誰も坂道で自転車から降りることもなく我々の旅は快調そのものです。途中心配してくれていた両親が車で峠道を伴走してくれたのは親心でしょう。難関の長い坂道で車窓から弟が「頑張れー」と声をかけ続けてくれたのにとても勇気づけられたのを覚えています。マラソンや駅伝での沿道からの声かけが選手の後を押すというのは本当だなと思いました。

正直なところサイクリングのことまでは覚えているのですが、2泊3日の合宿の内容な全く覚えていません笑。よほど順調だったのかな? 暑い夏のことでしたからきっと川遊びしたり、山遊びして疲れて夜はガンガン寝ていたので大した刺激は脳に与えられていなかったのかもしれません。しかしいまだにあの峠の長い坂を車で通るたび、耳に弟の「頑張れー」の声が耳に聞こえてくるのは面白いものです。車窓から応援してくれた弟は今年55歳になります。早いものです。


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