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ニンジャの話 その4 出会い

ここまでのあらすじ。喘息で入退院を繰り返す父の趣味は刀剣集め。蔵のある民家に眠るお宝を探して家族と週末はドライブに行っていた。この日は愛知県足助町に向かっていたのだが、途中で気になる民家を見つける

佐切川は川というよりも沢と言ったほうが正しいような小さな川です。その川に迫るように山が切り立っています。私がお城のようだなと思ったその黒くて長い民家はその山に縁の斜面を開いて建てられていました。なぜ城のようだと思ったかと言うとその家はただ単に大きいだけではなく、私たちがいる川沿いの道から見上げるような高い場所にあったからです。イメージとしては山城のような感じです。道路から10メートルほど斜面を登ったところには石垣が組んであり、その石垣の上には長屋門という形の建物を潜るタイプの門がありました。建物がとても長く見えたのは下から見上げると長屋門とその奥にある母家があたかも一軒の家のように見え、通常の家の2倍ほどの長さに見えたからでした。そしてその長く見える建物の真横に白い壁の土蔵が見えました。長屋門に辿り着くまでの斜面にはもう一軒家がありました。この家はおそらく以前茅葺きだったようです。屋根には茅葺き屋根はトタンで囲われており屋根の高さだけで7、8メートルはありそうです。その民家にも土蔵があり、倉庫のような建物もありました。つまりこの一角には6棟の建物があり、それぞれが山の斜面に立っています。川沿いの沿道から見上げると建物が重なり合って見え奥行きを加えていました。それもこの家をお城のように見せていました。

父と母は早速車を降りて一番高台に立つ民家に挨拶に行きました。私と弟は車の中でお留守番です。随分待ったような気がします。弟のとの「しりとり」にもとうに飽きて眠くなった頃に両親が戻ってきました。リサーチの結果分かったことは、高台の古民家は空き家であること、持ち主はここから20キロほどの距離にある岡崎市に住んでいること、長屋門も母家もとても立派な木で作られており、おそらく庄屋のような立場の人が住んでいた家であろうこと、土蔵は綺麗な装飾がされていて期待が持てること、しかしながら建物は全て長く放置されていてとても状態が良くないこと、でした。もう茅葺きにトタンを被せてあるもう一軒のお家は黒くて長い家の持ち主のご親戚でした。この集落の小学校の校長先生だそうです。聞き込み終了後、私たちは車から降りることを許されます。おうちの中は見ることができないですが、敷地に入って建物を見てもいいよとご親戚の校長先生から了承を得たようです。

「このおうちすごいよ」と、少し自慢げな父からの前振りを受けつつ私と弟は坂を登ります。石垣の上には黒く長い家。その石垣に被さるように長屋門が建てられています。長屋門のしたの部分だけ石垣が切り取られておりまるでトンネルのようです。「お家にトンネルがあるのって面白いな」と小学生の私は思いました。長屋門の前に立ち正面を見るとトンネル越しに切り取られた絵のように梅の木が見えました。私と弟は手を繋いで梅の木に向かってそのトンネルをくぐりました。

これがその後10年にわたり私たちの強制休暇労働収容所となるThe Ninja Mansionとの出会いでした。

明日に続く


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