串焼き屋で酒を飲んだ
先日の土曜日、近所の串焼き屋へ出向いた。
この日は夕方から風が温かくなり、黄昏の空気には春の気配が漂っていた。
それにしても月曜からずっと仕事だったので体が疲れている。早くビールを一杯やって癒されたい。
◆
午後6時を過ぎても空はまだほのかな青味を帯びている。「ずいぶん日が伸びたなあ」などと思いながら目当ての串焼き屋があるテナントの外階段を登っていく。
店に入ると、客席はすでに埋まりかけていた。
愛想の良い店員さんに案内され、テーブル席に腰を下ろす。スペースに余裕がある店なので混んでいても窮屈を感じない。
まずは生ビールを注文する。
お通しは生野菜に肉味噌。
それをパリポリやりながらよく冷えたグラスに注がれたビールを飲む。
くぅー。。。。染みる!
労働で疲弊した体に、なぜビールはこんなにも染みるのだろう。労働とビールは互いによく似合っている。労働がなければビールはこんなにも世界的にポピュラーな酒にならなかったと、思う。
阿保なことを考えているうちに注文していた「白レバーの炙り」が運ばれてきた。
これがまたうまい!
鶏のレバーに塩ダレがかけられ、その上に刻みネギが乗っている。濃厚なレバーに刻みネギの爽やかな食感が合う。非常に贅沢な味わいである。
このままビールを続投させるのも悪くないが、もう少し度数の高い酒が欲しい。
広島の日本酒「一滴入魂 純米吟醸」を注文した。
初めて飲む日本酒。お米が凝縮されたような味だった。
なかなか美味い酒だが焼酎にしとけばよかったと後悔。やっとこさ焼き鳥が到着したタイミングで二階堂の「吉四六」をロックで注文。
焼き鳥もまた美味かった。
炭火の香りが蛮的な食欲を刺激する。タレの焦げた部分なんかも大好きだ。
それを焼酎で流し込む幸せ。
口の中で豊潤と清涼とが繰り返される。
これが永遠に続いて欲しいくらい幸せであったが、酔いが回ってきたのでここらで締めにする。
ツナと梅のおにぎりを一つずつ注文。ついでにグラスビールも頂く。ビールに始まりビールで終わるのが私のモットーだ。嘘だ。モットーではないが、何となく最後にビールが飲みたくなる。
おにぎりは、おにぎりというだけで美味い。
それを食べる度に太宰治の小説の一節を思い出す。
「おむすびが、どうしておいしいのだか、知っていますか。あれはね、人間の指で握りしめて作るからですよ。」
私は料理に頓着がある方ではないが、この一節を料理とは何ぞやという根幹として、いつも胸の中にしまっている。
この店のおにぎりが手で握ったものか、型にご飯を入れたものかは勿論わからない。
ただ生涯の最期には母の握ってくれたおにぎりが食べたいなあと、つねづね思っているくらいにおにぎりがすきだ。
◆
店の外へ出ると、すっかり空気は冷え込んでおり、春の気配はどこへやら、風の中にはまだ残る冬の香りがあった。
しかし、もう三月だ。
三寒四温。こういう日を繰り返す度に本当の春がやってくるであろう。
一年で一番呑気に酒が飲める季節だ。
今年の春は沢山思い出を作ろうと、
そう思い家路を辿った。
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