食卓やテーブルの上でも楽しめるコンパクトな花にしたいとパンジーの育種に取り組む
私の記事の前で足を止めてくれた皆さん、こんにちわー!ありがとうございます。
今回は、多くの皆さんが庭やプランター等で育てているパンジーやビオラの新品種を作られている育種家を紹介します。
パンジー・ビオラはかわいい花ですが、育種するのが難しい花なんです。多くの花は同じ花の雄しべの花粉がめしべについて受粉しますが、パンジー・ビオラは別の花の花粉でないと受粉できない(他植性)の花なんです。
袋入りの花の種を蒔くとどれも同じ花が咲きますよね。このように「品種」では、どれを蒔いても同じ特徴を持つ(均一性)を持つことが必要です。しかし、他植性の花は、特徴がそろった均一性を確保するのが難しいんです。
ここで紹介する笈川さんも苦労しながら育種の取り組まれ、素晴らしい多くの品種を誕生させて来られました。
では、笈川さんの育種体験をお読みください。
話し手 笈川 勝之さん
(カバー写真は「マイファニープリンセス」)
❒父を継いでシクラメン、パンジー、ビオラ、ニチニチソウ等 の花苗を生産
神奈川県の県庁所在地で、わが国有数の港湾・商工業都市、横浜の北東部、港北区にあるフラワーファーム都築の里の笈川勝之です。
花を栽培する農家の家庭に育った私は、東京農業大学を卒業して、昭和58年、23歳で両親とともに花の生産に始めました。父の体があまり丈夫ではなかったので、外に出て他の農家などでの研修を受けることはしませんでした。
父が栽培する花はシクラメンが主でしたが、私はパンジー、ビオラ、ニチニチソウ、ポットカーネーション等の花苗を並行して生産し、市場に出荷しました。それを自分の庭に植えていると、こぼれた種子からも変わった面白いパンジーが咲き、平成9年頃には、それまで見たことのないビオラが市場にも出荷されるようになりました。
❒見たことのない花を見て、流通品種と我が家の雑種との交配を開始
そんな中、ナデシコの種間雑種▾のテルスターを見て、庭にあるタカネナデシコと交配したらどうなるだろうかと思いが芽生え、私は平成10年頃から育種を始めたんです。
育種のことは、大学で総論をサラッと学んだだけで、あとは父がしていたシクラメンの自家採種を見ていた程度でした。しかし、以前偶然に育種家の人から聞いた話を思いだし、自分もできるのではと感じ、市場流通している品種を集め、我が家にあった雑種と交配したんです。交配した親品種は、全て自分のところのものです。
❒表現のバラエティを増やすためにがむしゃらに選抜を進める
それからは、元福岡県園芸研究室長の小林泰生さんと全国新品種育成者(個人育種家の集まり)の会顧問の佐藤和規さんにアドバイスしていただき、それらしきものを選んでいきました。そして、良いなと感じたものを残して交配し、がむしゃらに表現のバラエティを増やすことに重点を置いて選抜を進めました。
❒パンジーの育種目標は、家の中でも繊細な表現を鑑賞できるコンパクトな品種
育種目標は、一言で負うことはできません。パンジーについては、元々ガーデン用のものでしたから、その繊細な表現を家の中の食卓やテーブルのうえで鑑賞してもらいたいと思っていました。
それで、花色は濃い淡いにかかわらず、変わった色でも雰囲気があってきれいに見えるものを、草型はコンパクトで花が抜き出るような位置に咲くものを選びました。
ナデシコは四季咲き高嶺ナデシコを栽培していたのですが、種子が異様に採れるので蒔いていました。その際に、戻し交配▾を知らずに元株と交配を行っていたんですね。それでできた「かおりKAHORI」の実生▾品種で花茎が長く花持ちの良い「かぐや姫」を2005年に、より花持ちの良い「桃山単衣」を2007年に品種登録できました。
❒「マイファニープリンセス」、「フレアーブルー」等の品種を育成し、商標登録
私が栽培しているパンジー、ビオラは、別の花の花粉で受精する他殖性▾なので、採種して蒔いても均一に揃わないことが多く、登録を取ることが困難です。それで、「フレアーブルー」、「花まつり」、「小桜」、「マイファニープリンセス」、「フェアリープリンセス」 等のパンジーやビオラの品種は、品種登録でなく、「商標登録▾」を受けています。
栄養繁殖できるものは品種登録しますが、種子繁殖のものでつけた品種名称を他者に使われたくない場合は、商標登録を受けるようにしています。
❒パンジーは交配する両親を得るのに労力がかかる負担大きい
パンジーは開花株から次世代の種子を採るのですが、個体ごとの微妙な違いがあり、好ましい交配ペアを探している間に、受粉しない株が大きくなってきたり、花持ちが良くても株が剛直になり過ぎて繊細さが足りなくなったりしるので、かなりの生産量がないと交配を行う両親を選抜することができません。でも、労力に限りがある私などの個人で育種している者には、品種が増えすぎることも負担となるので、苦労しています。
❒選抜には、良いものをピックアップし、他のものを捨てる両方の目が必要
また、最初に咲いた株が良いものとは限らないので、しっかり見ていかないと途中で花が止まったり、後から咲く花形が変わっていたりすることがあります。それでも早めに選抜しないと管理に追われ、交配に遅れれば採種量が減ってしまうので、これまでの経験から、良くない物を捨てる目、良い物をピックアップする目の両方を持つことが必要だと感じています。
❒「横浜セレクション」のロゴを付けて、市場や園芸店に出荷
私の作った品種は、「横浜セレクション」のロゴを付けて主に市場や園芸店に販売しています。さらに、教室を持ったり、ツイッターやインスタグラム、フェイスブック等で寄せ植えの講師をしている方に提供したり、パンジー、ビオラ展等を通して宣伝や普及に努めています。
❒2003年に初めて家庭園芸普及協会のフラワー&ガーデンショウに出品
初めて家庭園芸普及協会主催のフラワー&ガーデンショウに出品したのは、2003年だったと思います。
そこで、我が家の四季咲きナデシコと「かぐや姫」の展示させてもらったと思いますが、そのとき私のパンジーとビオラは登録品種になっていないと転じ、審査を断られました。でも、そこにいた佐藤和規さんから、「流通させている物だから、出していいではないか」と言ってもらったおかげで、出品することができました。その時は、本当にうれしかったですし、感謝しています。
❒ナデシコ、ビオラ等の育成品種が数々の賞を受賞
その後、私が育成した品種は、ナデシコの「桃山単衣」が2006年にジャパンデザイン特別賞、2008年にビオラの「マイファニープリンセス」が一般来場者の人気投票第1位、「マイファニープリンセスイエロー」がカラークリエイト賞に選ばれるなど、数々の賞を受賞することができました。
そこに来るまでは、試練もありました。2010年頃には、フザリウム立ち枯れ病▾、その後は黒腐れ病(シャララエレガンス)▾と2度の病気に襲われました。病気の被害株を廃棄して、薬剤の散布を行いましたが防げず、全てを廃棄しました。
温室を太陽熱消毒し、土壌はバスアミド、クロールピクリンで毎年消毒していましたが、播種用土や鉢上げ用土等の清潔な培養土を購入し、その後の発病を抑えることができました。
❒自分の作った品種を気に入って作ってくれることが最高の幸せ
育種をしてきた者として、私の園の種子を生産してくれる方々がいて、私が手掛けて誕生してくれた花達を気に入ってくれることは、最高の幸せです。新しい品種を世に出すだけでなく、その品種を長く使ってくれることもうれしいですね。
❒培養をうまく育種に取り込んで、他の植物にも取り組みたい
今後は、パンジー・ビオラの生産量を少し減らして、他の植物にも取り組もうと思うのですが、種まきするとかなりの量となって、その管理のために他の作業ができません。ナデシコの交配もしたのですが、種子も蒔けていません。そのことから、自分の育種に培養をうまく取り入れられないかと思っています。
用語(▾印)解説
種間雑種 : 同じ属に含まれる異なる種同志の交雑によって生じる雑種第1代
戻し交配: 交雑(交配)で作った雑種または雑種の後代に対して、最初に
交雑(交配)した親のどちらか片方の品種を再び交配することをいう
実生: 種から目を出して成長すること。その種から発芽した植物
他植性: 別の個体の雄しべからの花粉がめしべに受粉することによってし
か種子ができない性質。これに対して、同じ個体の雄しべの花粉がめし
べに受粉して種子ができる性質を自殖性という
商標登録: 自分のビジネスを守るため、ビジネスで使うネーミングやロゴ
マークなどの商標を国に登録しておくこと
フザリウム立ち枯れ病: 糸状菌(かび)の一種によって起きる病気。地際
の茎の表面から病原菌が侵入し、病気が進むと地際部分がくびれて容器
に引き抜くことができてしまう
黒腐れ病: 最近によって引き起こされる病気。葉にV字型の黄褐色の病斑
が現れて拡大し、葉脈が黒くなり、進むと軟化、腐敗して株の生育を阻
害する
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