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自分らしさを生かして働きたいなら、デザイナーはやめておいた方がいい。

デザイナーという肩書きで10年も働いていると、学生から「将来はデザイナーとして働きたいが、どうしたらいいか」と相談されることも増えてくる。僕はまだまだヒヨッコながらも、そういうときは精一杯の回答を心がけている。


「なぜデザイナーになりたいんですか?デザイナーになって何をしたいんですか?」

彼らから相談を受けた際、僕は必ず尋ねる。最近の学生はとても優秀で、ほとんどの学生が高い志と強い決意を持っている。毎日を適当に過ごしている僕が恥ずかしくなるくらいだ。

しかし、何人かの学生からはちょっと気になる答えが返ってくる。言い方は色々だが、要するに「自分らしさを発揮して、クリエイティビティのある仕事をしたいから」である。一昔前の言い方をするなら、「好きなことをして生きていきたい」ということだ。

今回は、そのようなことを考えてデザイナーを志す人たちに、デザインの仕事内容とともに、デザインの仕事で自分らしさを発揮する場があるのかお伝えしたい。

デザイナーの仕事は、いかに自己を殺し続けるか

結論を言うと、その欲求をデザインの仕事で叶えることは難しい。ほぼ不可能と言ってもいい。
というのも、デザイナーの仕事は、どれだけ自分を殺し続けられるかが問われるからだ。

理解を深めるために、デザイナーの具体的な仕事の進め方を見てみよう。
デザインの仕事は大まかに以下の3ステップで進む。

  1. 対象を調査する
    デザインの対象となる人や組織が普段どのような行動をしていて、その背後にはどのような価値観があるのか調査し、対象への理解を深める。

  2. 対象をどういう状態にしたいか決める
    対象をどういう状態にしたいのか、理想の姿を描く。対象のどんな悩みを解決して、どんな喜びを提供するのかを決める。

  3. 目的を果たすためのモノを作る
    対象を理想の姿にするために、どんなものが必要か考え、作り、提供する

デザインの領域は幅広いが、基本的に全てのデザイン業務がこの3つのステップを必ず踏む。
ここで重要なポイントは、すべて主語が「相手」であるということだ。

つまり、調査の時は「自分だったらこうする」とか、「普通に考えてこうだろう」といったバイアスを取り払い、相手の文脈に合わせた理解が求められる。

理想の姿を描く際も同様だ。自分が考える最高の状態ではなく、相手にとって最高の状態を描く必要がある。

実際のクリエイティブにおいても、この考えは顕著に出る。イケてる建築、クールなグラフィック、最新技術を使ったインクルーシブな体験……。
世の中には素晴らしいデザイナーのアウトプットに溢れている。

しかし、それらのアウトプットは、すべて誰かの困りごとを解決するために作られたものであることを忘れてはならない。

ここに、デザイナーへのイメージと現実のギャップがある。このギャップに苦しんできた人を、僕は何人も見てきた。

デザインとは、他人のために何かを作ること

そもそもデザインとは何か?いろんな人がいろんなことを言っているが、もっともそれらしいのは「人や組織、環境が抱えている困りごとを解決し、より良い状態にすること」だろう。つまり、他人が喜ぶことを作るのがデザイナーなのである。

デザイナーは自分の作りたいものを作っているわけではない。自分の感性や好き嫌いでアウトプットを作る自由はデザイナーにはない。

アウトプットにデザイナーの思想や価値観が一切入り込まないとは言わないが、最終的にその良し悪しを判断するのはクライアントである(もちろん、デザイナーが良いと思ったものを選ばせるテクニックはあるが)。

自己表現をしたいなら恐れずアーティストを目指そう

何者かになりたい。ひとかどの人間になりたい。自分にしかない個性を発揮して生きていきたい。
もしあなたがそのように考えるなら、デザイナーだけはやめた方がいい。あなたはデザイナーではなくアーティストを目指すべきだ。音楽でも絵画でも漫画でもyoutubeでもtiktokでもいい。そういう創作の世界に身を置くべきだ。

現代社会を生きる上で商業的な視点も必要だろうが、それでもアーティストの根幹には自己の発露がある。
自分の想いを外に発信したい。自分の世界観を表現したい。他人の苦しみを分かち合いたい。世界への違和感を訴えたい。
その抑えきれない情動を表現するのがアーティストの仕事である。

もしあなたが「アーティストはバクチ。食えるかわからないから手に職をつける意味でデザイナーを目指す」と考えているのであれば、厳しいことを言ってしまうが、あなたはクレーバーに立ち回っているつもりかもしれないが、実際はただ逃げているだけだ。

あなたは「自分は特別な思想や価値観を持っている」と思い続けていたい。だがそれを世界に対して発信する勇気がない。それだけの話だ。己の凡庸さを受け入れ、何者にもなれない自分を引き受けることが怖いから、そんな中途半端な状態でいるのだ。

仕事はあなたの敗者復活戦の場ではない。本当に自分の思想を表現して生計を立てたいと願うなら、デザイナーではなくアーティストを目指すべきだ。

それでもデザイナーになりたい人へ


デザイナーに求められる素養は、他人に対するあくなき好奇心、自己バイアスを常に捨て続けられる柔軟性、そして何より利他の心だ。これらがあって初めて、深い調査と正しい問題定義、素晴らしい解決方法が提供できる。

以上を踏まえて、自分は本当にデザイナーを目指したいのか、よく考えて欲しい。そして、それでもデザイナーになりたいと思うのであれば、デザインの世界はあなたにとって素晴らしいものになるはずだ。

あなたはきっと、僕にはないスキルや視点を持っている。そこから滲み出る”あなたらしさ”を発揮して、ぜひ世の中を良くしていって欲しい。

いつか一緒に働く日が来たら、そのときはお互いに最高のアウトプットを出し合えるように頑張りましょう。

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