「ずれ」にこそ すくいがある~2023年11月に読んだ本から
読んだ本を忘れないため、毎月、読んだ本の中から 印象に残った本 を 記事にしている。11月は、2冊。
1 雪と珊瑚と 梨木香歩
珊瑚、21歳。離婚後、生まれたばかりの赤ちゃん“雪”を抱え、途方に暮れていた。
そんな時、雪を預かってくれた 藪内くらら。しだいに彼女は珊瑚の大きな支えになっていく。
パン屋勤めを再開した後、多くの人々の助けも得て、珊瑚は惣菜カフェをオープンする。
母親との関係がうまくいかずに育ってきた珊瑚。しかし彼女は、悩みながらも、前へと進んでいく。他の人の助言を素直に聞けるところも、珊瑚の強みであると感じた。
「本人の努力と、たくさんの心優しい周りの人の手助けで自分の道を切り開いていく」・・・私の好むお話のパターンである。でも、この「雪と珊瑚と」はひと味ちがうなあと感じた。
そう感じた一番の原因は、「心優しく」はない 人物の登場。
それは、同じパン屋で働く美知恵。
彼女は、会った当初から、珊瑚のことが気に入らないということを態度に表していた。それはまだいい。私が驚いたのは、美知恵が珊瑚宛に手紙を送ったこと。
と、書かれたその手紙は、珊瑚が自分の店をオープンしてから、つまり職場が離れた後に送ったもの。
「あんたが気にくわない」ということを、直接言うのではなく、影でネットに書き込むのでもなく、本人に直接の手紙、もちろん記名の上。
手紙だよ、手紙。誰が書いたか本人も特定できる。書いたことも永遠に残る。そこまでして 自分が嫌いな相手に思いをぶつけるなんて、どんな思考回路でそこにたどりついたのか。
文章を書くということは、自分の心と向き合うことだと思う。書くことで、気づかなかった自分の心の奥底が明らかになるということも、よくあることだと思う。
こんなことを書いた自分を嫌いにならないのか、後悔はないのか、手紙を送ってすっきりしたのだろうかと思ってしまった。
(こういうとき、美知恵視点の番外編があると面白いのだが。)
お話の中頃に、親切にしてもらったのに、珊瑚が元気がなくなるという場面があった。
親切にしてもらえることのありがたさと、施しを受けているような屈辱と、自分に持っていないものを持っている相手に対する嫉妬と、複雑な感情が珊瑚の心を占める。
こんなところも、他の物語とひと味違うと感じたところなのかもしれない。
2 あと少し、もう少し 瀬尾まい子
陸上部部長の桝井。中学校最後の駅伝のメンバーは、元いじめられっ子の設楽、不良の太田、頼みを断れないジロー、プライドが高い渡部、後輩の俊介と見事な寄せ集めの6人。
さらに悪いことに、今年代わった顧問は全く頼りにならない美術教師。
「君が夏を走らせる」が面白かったので、元の話であるこちらの本を手に取った。
「君が夏を走らせる」は、元不良の高校生・太田が、夏休みの間、先輩の1才10ヶ月の子どもの面倒を見る話。
太田は、中学の時、突然参加した駅伝で「何かを真剣にやるって、誰かと一緒にやるっておもしろい」ということを 思い知る。
その 中学の時の駅伝の話がこの「あと少しもう少し」だ。
(太田は、ほんとうに不良だった。)
まさに駅伝がテーマのお話らしく、章の題名が「一区」「二区」・となっていて、それぞれの走者が主役となりつながっていく。
章ごとに話者が代わることで、それぞれが抱えている悩み、それまでの人生が明らかになると同時に、1つの出来事を別の視点から見ることができ、それがお話の魅力を高めていると感じた。
おもしろい存在だと感じたのは、顧問の上原先生。
全く経験のない部活の顧問をするなんてとっても大変だろう。ましてや相手は難しい中学生。きっと、かなり悩んだろうし、「なぜ、私が陸上部」と憤ることもあったのではないか。
しかし、この先生、頼りない顧問として登場するが、なぜか大事なところで、心に残る一言をいったり、思いもかけない決断をしたりと、なかなかいい役割を果たしてる。
文庫版の三浦しをんさんの後書きも 印象的だった。
今年も残りわずかになった。
毎年、その年に読んだ本の中から 印象的だった本を 一般書、児童書10冊ずつ選んでいる。
そろそろ、その記事を書く準備をせねばと思い、読書ノートを見直してみた。
今年は、いつもに比べて絵本を多く読んでいる。
絵本だけで10冊選んでみようか。一般書10冊、絵本以外の児童書10冊、絵本10冊。う~ん、そんなに候補があるかなあと、ちょっと思案中。
読んでいただき ありがとうございました。