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蛇口女(シナリオ)

人物
秋山悟(27)漫才コンビ「ライ」のボケ
森圭吾(27)「ライ」のツッコミ
西川みき(39)「ライ」のマネージャー
村山リサ(29)圭吾の彼女
野村めぐみ(26)OL・ストーカー
太田久子(60)「ライ」の事務所社長


大阪二丁目劇場・中(夜)
    漫才コンビ「ライ」の舞台。
    秋山悟(27)と森圭吾(27)が、
    漫才をしている。

森「・・・っちゅーか、お前、
  何サマやねん」

秋山「秋山サマやがなー」

森「なんでいつも、そんな
  王様キャラなん?」

秋山「王様キャラというよりは、  
  王様が漫才してるって
  思ってもろた方が・・・」

森「もう、ええわ!」

   秋山の頭をはたいて、
   漫才を締める森。

秋山・森「ありがとーございましたぁ」

   女の子たちの歓声の中、 
      舞台を去っていく秋山と森。

同・楽屋(夜)

   普段着に着替えた秋山と森。
      秋山は、座ってマンガを読んでいる。

森「オイ、悟、帰るで」

秋山「・・・んー、オレ、もう少し
   ここおるわ」

森「なんでやねん」

   秋山、マンガを読みながら、

秋山「オレ様を付け狙うキモイ女がおんねん」

   森、ケラケラ笑って、

森「初耳やで、それ。
  それに、お前みたいなイカつい男、  
   別にこわいものないやろ」

   秋山、マンガから顔を上げて、

秋山「アホ、こわいわ。
   サイコホラーやで。
   この前、手紙と交換日記が
   ポストに入っとってん」

森「マジ? 何て?」

   秋山、女っぽい声で、

秋山「今日から、交換日記
   始まります、って」

森「え~!?」

秋山「まずは、悟から書いてね、やって」

   腹を抱えて笑う森。

   そこへ、西川みき(39)が 
   入ってくる。

西川「何してんの、早よ帰りぃや。
    もう電気消すで」

秋山のマンション・入口(夜)

   ポストをのぞく秋山。
   新聞のみで、ホッとして 
   エレベーターに向かう。

同・秋山の部屋・中(夜)

   秋山、リビングにカバンと
   コートを置き、テレビをつける。
   そして、思いついたように、
   浴室へ向かう。

同・浴室・中(夜)

   バスタブに湯をはろうとして
        ギョッとする秋山。
     蛇口がなくなっている。

秋山「え~・・・!?
   何でぇぇ・・・!?」

  震えながら、浴室を後にする秋山。


同・リビングルーム・中(夜)

  携帯を手にして震えている秋山。

秋山「圭吾!? 圭吾か!?」

森の声「なんやねん」

秋山「じゃ、蛇口がなくなってる」

森の声「はぁ?」

秋山「部屋帰って、風呂わかそうと
   思ったら、蛇口なくなってんねん!」


同・リビング(夜)

   ソファに座る、みきと
   床に座る秋山と森。

みき「ホンマに、昨日までは
   あってんね?」

秋山「ハイ、蛇口、ありました」

森「警察呼んだ方が、
  ええんとちゃいますか?」

みき「・・・悟、その手紙と
   交換日記は、持ってんの?」

秋山「持ってます」

みき「そやなぁ、ドッキリの話も
    来てへんしなぁ。
   とりあえず、悟、今夜は圭吾んち、
    泊めてもらい」

森「ええ~!?」

秋山「ええやん、一晩くらい、
    彼女と川の字になって
   寝ればええし」


森のマンション・リビング・中(夜)

    大笑いする村山リサ(29)。

りさ「悟くん、そりゃ、マズいわ。
   蛇口って、ズバリ、男性の象徴やん」

秋山・森「ええ~!?」

りさ「そんなん、取っていく女、
   ヘンタイやで」


大阪テレビ・スタジオ・中

    公開番組収録中。

    秋山、小声で、森につぶやく。

秋山「ちょお、見て」

森「なんや、本番中やで」

秋山「そやかて、あの女、
   なんか、おかしい」

   秋山が示す方を見る森。

   マフラーに包んだ何かを
   大切そうに抱えている
   野村めぐみ(26)の姿。
   マフラーの端から、銀色の金属が
   のぞいている。

森「うそやん・・・」

   そこで、司会者のMC。

司会者「では、次は、人気漫才コンビ、
    ライのお二人です!」

   慌ててステージにあがる
   秋山と森。
    何か言いかけるが、みきには
   聞こえない。

みき「あ? 何? 何て?」

   ステージの秋山と森、
   狼狽しながらも漫才を続ける。

森「・・・っちゅーか、お前、
   何サマやんね?」

秋山「・・・秋山サマ・・・」

森「なんで、今日はそんな弱気なん?」

    森のアドリブに沸く場内。

    めぐみ、秋山をじっと見つめ、
    妖艶にほほえむと、蛇口をさすり、
     会場を後にする。

同テレビ局・楽屋・中

    警察官二人が、去っていく。

秋山「なんで、逆ギレされんねん」

みき「いきなり楽屋に警察呼ぶか?」

森「西川さんも、あの光景見てたら、
  絶対呼びますって!
   その女、笑って、蛇口さすってたんですよ」

    思わず吹き出すみき。

みき「ごめん、ごめん、おもろすぎて。
   まぁ、悟にしてみれば、
   恐怖やわなぁ」

    秋山、ブルッと震えて、

秋山「イチモツを奪われた男の恐怖、
   西川さんにはわからんでしょ」

みき「しゃあないね、今夜も
   圭吾んちに泊めてもらい」


森のマンション・リビング・中(夜)

   小さくなっている秋山と森。
    リサがみきに電話している。

リサ「そやかて、困るんですよ、
    二泊もされたら」

西川の声「アンタも、圭吾んとこ
    入り浸らんと、自分ち帰りや」

   カチン、とくるリサ。

リサ「わかりました、犯人捕まえれば 
   いいんでしょ。
   私が何か証拠見つけて
   警察に持っていきますわ」


秋山のマンション・中

    みきとリサが床に這いつくばって
     何かを探している。

みき「自分、ええ根性してんなー」

リサ「今夜こそ、悟くんには帰って 
   もらわんと」


同・浴室・中

     排水口のネットの上に、
     ピアスの片割れを見つけるリサ。

リサ「西川さん、これ・・・」

みき「でも、悟の女のんかも知れんで」

リサ「何年も前に別れた?」

みき「・・・か、今、連れこんでる
    女がいないとも限らん」

    と、その時、玄関で、
    鍵が開く音がする。

    目と目を合わせるみきとリサ。

リサ「悟くん、仕事中ですよね?」

    みき、うなずくと、用意してきた
    ゴルフバットをリサに渡し、
     自分は刃渡りの異様に長い
    包丁を手にする。

リサ「西川さんの方が、よっぽど
    ええ根性してはりますぅ・・・」

    浴室に近づいてくる足音。

めぐみの声「誰が隠れてるんかな?
    もしかして、悟ぅ?」

    あまりに陽気な口調に、
    度肝を抜かれるみきとリサ。

みき「この女、思いっきり、侵入罪やー!!」

    浴室から飛び出すみきとリサに
    あっけなく抑え付けられるめぐみ。
    
    コートの中から蛇口がころげ出して、
    カランッと音を立てて、床に落ちる。

    それを見て、クスクス笑うめぐみに
    ドン引きするみきとリサ。


太田プロダクション・中

    太田久子(60)が、秋山、森を
    前にして、みきを叱っている。

久子「ホンマにもう、何ちゅう無茶するの」

秋山「西川さん、包丁持ってたらしいっすよー」

みき「何でアンタも、あんな頭おかしい
   女に付きまとわれるねん!」

    秋山、久子のかげに隠れつつ、
    偉そうに答える。

秋山「秋山サマですから~」

森「何を今更、キャラっとんねん」


刑務所・食堂・中

    囚人服を着て、テレビで
    ライを見て笑っているめぐみ。

めぐみ「悟ぅ、交換日記、どうなってんのん、
    早よ書いてね」

    クスクス笑うめぐみ。

            完






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