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天神祭の人魚(小説) 4/4話 完

僕はそれからずっと
考えていた。

かわいそうな人魚のこと。

長い長い間、
おそらく千年もの間、
神様に恋してきたのだろう。

一人の人を永遠に想う気持ちは
大切だけど、
それだけでいいんだろうか。

それで本当に
幸せなんだろうか。

彼女は龍神様に恋するあまり、
他には何も見えなくなって
しまったのではないだろうか。

そう、この千年もの間。


幻の龍神を追い、
大川に身を投げ人魚へと
姿を変えて、
年に一度のお祭りに
龍神の姿を追う彼女。

君はもっと愛されても
いいんじゃないだろうか。

君を愛してくれる人は
きっとどこかにいる。

そう、僕だって君を・・・。


僕がここにいる! 

僕は神様じゃないけれど、
君のこと誰にも負けないくらい
好きだ。


 
人の心は見えない波動となって
風を呼び起こすという。

僕はこの想いを心に強く念じてみる。
 
心は風となり、
 
街を越え、
 
森を抜け、
 
川を渡り、
 
そしてあの川へ、彼女の元へ・・・。


龍神の稲妻よりも強い力で
僕は想ってみる。

負けるもんか。

そして今年、
僕はうだるような
暑さと喧騒の中で
天神橋を渡った。
 
人波にもまれて
やっと橋を渡り切った
その時、人混みの中で
こちらを向いて立っている、
見紛うことのない姿を
見つけた。


質素な白いワンピースに
白いサンダルをはいた彼女。
 
真っ白い肌、
 
緑の黒髪。
 
燃えるような熱い瞳。


彼女は輝く笑みを浮かべて、
真っすぐ僕を見つめている。


僕は黙って手をさしのべた。

僕の人魚は恥ずかしそうに、
でもしっかり僕の手を握った。
 
温かい手だった。

               了

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