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歴史教師(シナリオ)

あらすじ


歴史教師の是枝ゆきえ(27)は、
タイムワープして生徒に
その時代を見せる授業をしている。

今回、飛鳥時代の聖徳太子の
少年期(厩戸皇子/うまやどのおうじ)を
見学することになるが、
厩戸皇子は、歴史的も有名な超能力者。
その上、生徒の一人が歴史を変えるような
ことをしでかし、タイムパトロールに
責任者のゆきえが逮捕されてしまう。

    

人  物
是枝ゆきえ(27)高校の歴史教師
宮下香(16)ゆきえの生徒
山村知美(16)香のクラスメイト
厩戸皇子(14)のちの聖徳太子
調子麿呂(16)厩戸皇子の舎人とねり
       (護衛・世話係り)



○桜の宮高校・二年A組教室。中

   是枝ゆきえ(27)が、白いチョークで
   黒板に文字を書く。

   聖徳太子、の文字。

ゆきえ「この人物は、知ってるよね?」

   生徒たち、教科書をめくる。

ゆきえ「ハイ、何時代の人?」

   ゆきえ、前列の男子生徒Aを指す。

生徒A「・・・飛鳥時代」

   ゆきえ、次に女子生徒Bを指す。

ゆきえ「で、何をした人?」

生徒B「・・・昔のお札の人」

   ゆきえ、苦笑する。

ゆきえ「確かに。今回のテーマは
   聖徳太子になる前の、厩戸皇子。
   知ってる?」

   宮下香(16)、目を輝かせて言う。

香「漫画で読みました!『日出処の天子』!」

   ゆきえ、香の方を向いて、
   にっこり笑う。

ゆきえ「そう、それ。先生も大好きだった」

   ゆきえ、教科書を開いて言う。

ゆきえ「23ページから、
  32ページまでの時代を、
  三回に分けて見に行きます。
  いつもの注意事項、おぼえてる?」

   山村知美(16)が答える。

知美「結界から、出ないこと」

ゆきえ「出たら、どうなるかわかってるよね?」

香「タイムパトロールにつかまっちゃう」

   ゆきえ、うなずくと、
   教壇の青いチョークを手に取る。

   と、教室が揺れ始め、
   ブーンという音が響く。

ゆきえ「今日は、27ページまで」

   音が止んだ瞬間、教室は
   カラになっている。
   時計は10時ちょうどを指している。



○飛鳥時代・斑鳩いかるがの里

   山村の上空に、小さな光の玉が現れる。

   玉に近づいていくと、
   ゆきえと生徒たちが中にいる。

   玉は、ふわふわと飛びまわる。

   中の生徒たち、もの珍しそうに、
   外を見ている。


○斑鳩・八角堂・中

   厩戸皇子(14)が、暗闇の中で、
   瞑想している。

   そこに現れる、光の玉。

   厩戸、そっと目を開き、また閉じる。

             

○光の玉の中

   ゆきえが、生徒たちに静かにするように
   合図する。


○八角堂・中

   厩戸皇子、目を閉じたまま、

厩戸皇子「・・・今度は、何がお出ましかな?」

   凛としたボーイ・ソプラノ。

○光の中

   香、うっとりと厩戸を見つめる。

   一方、ゆきえの表情は硬くなり、
   教壇の赤いチョークを手に 
   取ろうとする。

○八角堂・中

   扉をたたく音がして、厩戸、
   舌打ちして目を開く。

厩戸「誰だ?」

調子麿呂の声「調子麿呂でございます。
  王子、御湯殿のご準備を致しました」

   すっと立ち上がる厩戸。

   扉を開くと、光の中であらわになる、
   すらりとした体型。
         両耳の横に束ねられた
   長く美しい黒髪。

                                                   

○二年A組教室・中

   時計は、11時10分。

   ゆきえ、ちょっと興奮して、汗をぬぐう。

ゆきえ「・・・相変わらず、勘が鋭い」

   ゆきえ、生徒を見渡して、

ゆきえ「次回の予習をしておくように」

   授業終了のベルが鳴り、
   皆立ち上がる。

   香、教科書を開いたまま、
   うっとりと年表を見つめている。


○飛鳥時代・斑鳩・宮中(夜)

   湯殿から上がり、
   薄絹の衣に黒髪を垂らした厩戸が、
   月を見上げている。

   そばには調子麻呂(16)の姿。

厩戸「・・・またやってきたな、あの女」

   調子麻呂、きょとんとして、

調子麻呂「・・・何者でございますか?」

   厩戸、怪しげにほほえんで、
   草むらを見つめる。

   そこには、小さな鬼の群れ。

厩戸「・・・さぁな、こういった類いか・・・」

   厩戸、今度は、室の中に目を移すと、
   ぽうっと浮かび上がる、仏の姿。

厩戸「こういったものか・・・。
  いずれにしても、そなたには見えぬのだろう。
  うらやましいことよ」

   調子麻呂、何やら恐れ多そうに、
   厩戸を見ると、頭を床にひれ伏す。


○斑鳩・宮中

   光の玉が再び現れる。


○光の玉の中

   ゆきえが引率する二年A組の面々。

   香、ポケットの中から、何か取り出す。

知美「何よ、それ」

香「パンテーンのシャンプー」

知美「ええ!?」

香「しー!」

   香、まわりを見回して、
   ゆきえが見ていないすきに、
   窓からこっそりシャンプーを外に置く。

知美「ヤバイって」

香「大丈夫よ、あんな物で歴史は変わんない」

知美「聖徳太子が、シャンプーするの・・・??」


○斑鳩・宮中・厩戸の室

   書物に目を通していた厩戸、
   ふと顔を上げるが、また書物に目を戻し、
   それから、信じられぬという顔で、
   床の上に置かれているシャンプーを
   二度見する。


○斑鳩・宮中(夜)

   刺客が厩戸の寝室に向かっている。

   もう後わずかで辿り着く前に、
   光の玉からペンが飛び出し、
   堅い木の床に落ちて、ガタンッと音を立てる。

   驚いて目を覚ます厩戸と、
   控えの間で剣を握り、身構える調子麻呂。

   と、同時に、大きな手の平が
   空中に現れ、光の玉をつかみ取って、
   暗闇に消えていく。

   もうひとつの手が、
   床にころがったペンをつかみ、 
   これも消えていく。


○二年A組教室・中

   ゆきえが大声で怒鳴る。

ゆきえ「今のは誰!? 
  外に何を投げたの!?」

   と、その時、教室の扉が開き、
   タイムパトロール隊三人が入ってくる。
   一人の手には、先ほどのペン。

隊員1「2020年6月22日10時31分、
  587年7月16日2時47分に
  物品投入、逮捕要請あり」

   ゆきえ、黙ってうなずくと、
   タイムパトロール隊に連行されていく。

香「先生!! 私・・・!」

ゆきえ「・・・教室で待ってなさい」

   扉が閉まり、教室中がシーンとする。


○二年A組・教室・中(夕方)

   夕日の射す教室内、
   生徒たちが黙ってゆきえを見つめている。

ゆきえ「大丈夫よ、
   教師の免許剥奪はまぬがれたから」

   香、立ち上がって、頭を下げる。

香「先生、ごめんなさい!」

   ゆきえ、香の方を向き、ほほえむ。

ゆきえ「・・・実はね、先生も学生の頃、
  やっちゃったのよ、ああゆうこと」

   生徒たち、驚く。

ゆきえ「ペンを投げ込む以上のことをね。
  だから私の先生は、免許を取り上げられちゃった。
  それが悔しくて、申し訳なくて、
  そして歴史が大好きで、だから、
  歴史教師になった。
  だから、いいんだよ、みんな。
  あの場面で、香がやったことを
  誇りに思えばいいんだよ」

   香、ポロポロ涙をこぼす。

ゆきえ「こうやって歴史はちょっとずつ
  塗り替えられていく。
  だから歴史教師はやめられないの」

   ゆきえ、楽しそうにほほえむ。


○斑鳩・宮中・庭

   厩戸、池のそばで、調子麻呂と
   桶の中をのぞきこんでいる。

厩戸「ほれ、ぬるぬるしているだろう? 
  そして水の中でこうやると泡が立つ」

   厩戸、シャンプーを手の平にのせて、
   水に溶かし、水桶の中を
   じゃぶじゃぶとかきまわして、
   無邪気に笑う。

   それを感心しながらも、
   ほほえましく見つめる調子麻呂。

厩戸「・・・なんじゃ?」

調子麻呂「いえ、王子がそのように
  笑われるのを久しぶりに拝見したな、と」

   厩戸、すねて、池で手を洗う。

調子麻呂「それにしても、よい香りでございますね」

厩戸「・・・未来の女人の香り、だな」

調子麻呂「・・・はぁ?」

   厩戸、調子麻呂の反応は気にせず、
   青く澄み渡った空を見上げてつぶやく。

厩戸「・・・やって来るばかりではなく、
   いつかまた、そちらに連れて行っては
   くれぬだろうか。
   私はもっともっと未来を見てみたいのだ」

                 


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