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【歴史・時代小説】『法隆寺燃ゆ』第四章「白村江は朱に染まる」

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朝廷内の権力争いに嫌気がさし、田舎に戻った朴市秦田来津 ―― 弱い者たちの味方であれという父の言葉を胸に、村人たちとともに国造りに励んでいた。そんななか、彼のもとに百済救援軍の将… もっと読む
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記事一覧

【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 30(了)

 百済の民の移乗が済み、残りは弟成たちだけとなった。 「お前らも早く乗り移れ!」  大津…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 29

「如何しますか?」  久米部大津が、大国に訊いた。 「如何したもこうしたも、前後が塞がれ…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 28

 翌朝は、強い風が吹き付けていた。  このまま外洋に出れば揺れが激しくなるだろう。  そ…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 27

 その夜、二人は歩哨に出た。  まだ、今朝方の興奮が冷め遣らない。 「今朝は凄かったな」…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 26

 東の空は、青みを帯びてくる。  弟成と黒万呂を乗せた船は、田来津の船の後方を走って行く…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 25

 唐・新羅軍が周留城を目指して進軍を始めたという噂が広まった頃、兵士たちは敵を迎え撃つた…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 24

 弟成はその場に崩れ落ち、兵士たちに取り押さえられた。 「流石に俺が見込んだだけある。鋭い振りだ。だが、兵士としてまだまだだな」  大国は剣を仕舞い、兵士たちに組み伏せられている弟成の顔を覗き込んだ。 「お前、なぜ俺に恨みを持つ? 俺が何かしたか? それとも、あの娘はお前の女だったのか?」  兵士は、弟成の髪を掴んで顔を上げさせる ―― 左目には、大きな痣ができている。 「お前が、兄を殺したからだ!」 「兄? 俺は、奴を殺すようなことはしておらんぞ。いや、待て……

【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 23

 2人が連れて行かれたのは、兵庫(つわものくら)であった。 「こいつらに掛甲と剣を渡してや…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 22

 だが、彼が次に目を開けた時には、大国の剣が彼の首筋に紙一重で止まっていた。 「が、それ…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 21

 大伴朴本大国の下に、彼の部下が荷方たちと揉めているという連絡があったのは、作戦会議の席…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 20

「何だと? キサマ、誰に口を利いてるんだ!」  2人の兵士が前に進み出る。  黒万呂も立…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 19

「おお、なんだ、こっちは楽しそうじゃないか!」  笑いに誘われたのか、隣で酒盛りをしてい…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 18

「さあな。こればっかりは分からん」  犬甘弓削は、火の傍で片肘を枕に転がっていた。 「頭…

hiro75
5年前
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【歴史小説】『法隆寺燃ゆ』 第四章「白村江は朱に染まる」 後編 17

 百済の周留城に到着した倭軍は、護衛軍を城にあげ、本隊は河岸の船着場近くに陣を張った。  そして百済に入れば、すぐにでも唐・新羅軍と決戦だと考えていた兵士に待っていたのは、長い篭城戦であった。  篭城は、あくまで多大な物資と必要最低限の人員のみで実施するものであり、攻め手側の物資がなくなり撤退するか、また援軍が来ることが大前提で行われる作戦である。  大人数で援軍なしの篭城戦は、まさに自殺行為であった。  しかも、今回の唐軍は遠征軍ではなく、以前から半島に駐屯していた