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パリ・伝説のセレクトショップ「コレット」が遺したもの、遺さなかったもの

これは観たい!という映画があったので、今の社会状況になってから初めて映画館に行ってきました。上映前にためしてガッテンみたいな「換気してるから大丈夫!」的なVTRが。志の輔さんは出てなかったけども。

今回観たかったのは「colette mon amour」という作品。
パリのランドマーク的ショップであったセレクトショップ、コレットの閉店までの半年を追ったドキュメンタリー映画です。

「コレット」は、パリのサントノーレ通りに2017年末まで存在していたセレクトショップ。店名にもなったコレット・ルソーによって1997年に同地にオープンして以来、20年に渡ってパリ、フランス、そして世界の人々を楽しませ続けました。

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左がコレット。右はその娘でクリエイティブディレクターのサラ。二人ともベリーショートがチャームポイントです。コレットは同店をオープンする以前にもセレクトショップを成功させていて、当時から異彩を放っていたのだとか。

そもそもなぜコレットが話題のショップになったかと言うと、これまでに無いショップだったから。

ハイブランドをメインに扱う傍ら、数百円のアイテムに書籍やアート、音楽や食までも平等にピックアップし、常に時代の先端を行っていたからです。

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ファレル・ウィリアムズやカニエ・ウェストといったアーティストとも早くからコラボを行ったり若い才能の発掘にも尽力。流行発信地であるパリの中でもさらに先鋭的なスタイルを貫いたことで、世界中から注目を集める存在となっていきました。

僕もパリに赴いた際には必ず訪れる場所でした。
毎回何か買うわけではないけれど、まず最初にここを見ておきたい。ここが何をやっているかを見れば、それに続く人たちが何をするかも分かるというショップ。行っただけでワクワク出来るお店。それがコレットでした。
 

作品では閉店の半年前から密着がスタート。
コレット、サラ親子を中心に、働く人々、縁のある人々のインタビュー映像と移り行くリアルなお店の様子を交え描いてゆきます。

縁のある人々も日本からは片山正通氏、NIGO氏、sacaiの阿部千登勢氏など錚々たる面々が登場。本当に幅広く愛されたショップだったのだなと感じますが、僕も含め当時世界の人が思ったのは「一体なぜ閉店してしまうの?」ということだったはずです。

客観的に見ても、勢いが衰えていたり評価が落ちていたりというような印象は全く無かった。これからもパリを代表するファッションスポットであり続けると思っていたし、トップランナーとして皆を楽しませ驚かせ続けてくれると当たり前のように思っていました。エッフェル塔がそこに存在し続けるのと同じように。

理由についてはオープンになっているので書いてしまいますが、コレット本人の引退によるものでした。

でもあれほどのお店、普通であれば右腕である娘が、せめて誰か後継者を見つけて存続させるのが当然でしょう。僕もなぜサラが継がないのか不思議に思ったものです。彼女はクリエイティブ面を取り仕切り、コレットに負けない才覚があると感じていたから。そして同時にそれが本当の理由なのだろうか?といぶかしく思っていたのです。あまりに急だったし、何か裏があるのではないかと。

しかしコレットは「私はこの店のために人生の全てを捧げてきた。サラにそれを引き継げと言うのは酷な話よ」と安堵したような表情で語り、サラも「私に母の代わりなど務まらないから」と納得した表情を見せるのです。

この瞬間、僕はなんて意地が悪いんだろうと自分を恥じました。どれだけ大変だったかを知る経営者である前に”母”として、娘に後を託したら懸命に努めようとすると分かっているからこそ、後を継がせない選択をした。そのためには店を畳むしかなかった。「遺さないこと」を選んだのです。

そしてサラも、人気ショップのディレクターである前に”娘”として、ひとりの女性として、母の思いを受け入れ自由な人生を歩む選択をした。どちらも本当に凄いことです。

これって、まさに働き方改革の問題や人生の幕引きの問題に通ずると思うんですよね。

充実した人生とは何なのか、仕事とプライベートの両立とは、終幕に向けての”店じまい”の仕方やタイミング、、そんなテーマにひとつの答えを示していると言えるのではないかと。もちろん皆がそうすんなり行くわけではないけれど。

好きなことを仕事にするということは、楽しい以上にのめり込んでしまったり妥協が出来なかったりで大変なことも多いはずです。好きだからこそプライベートとの境目なく仕事のことを考えて休まらないから無理やり休みを取ったり、みたいなことは僕でもある。好きなことを仕事にするということは、ある意味プライベートとのトレードオフになることを覚悟しておく必要があるでしょう。余談ですが。

 
さて、コレット親子については素敵なストーリーにまとまったけど、じゃあ閉店のあおりを受けたスタッフの人たちはどうなったの?と思いますよね。

実はお店の跡地を受け継いだサンローランが”希望者を全て雇用する”ということになっていたのです。スタッフのことも平等に愛していたコレットのこと、それもまとまったことで安心して閉店の決断が出来たのでしょう。サンローランの決断もまた素晴らしいと言えるでしょう。

ここで、ひとつ閃いたことがありました。それは今年年始に訪れた現サンローランの店舗に関すること。

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この店舗だけ、なぜか5ユーロのライターや使い捨てカメラ(高いけど)みたいな「遊びゴコロ」を沢山売っているんです。

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なるほど、看板は変わったけど”ここにあの伝説のショップがあったんだ”というオマージュでありリスペクトなんだ!と確信しました。これは間違いなくコレットの「遺したもの」でしょう。サンローランはスタッフだけでなく、コレットの精神をも受け継いだわけですね。

 
60分の作品はとても濃密だけどユーモアに溢れていて、きっとコレットの魅力、親子の魅力を感じてもらえるはず。こんな素敵なショップが存在したんだということを知ってほしいし、今その場所に建つサンローランにも行ってみたくなること間違いなしです。

人は何を遺し、何を遺さないのか。
そんな観点からも鑑賞できる作品ではないかと思います。

残念ながら渋谷パルコでの上映は終わってしまったのですが(もっと早く行って感想を書きたかった。。)また別の劇場やネトフリやアマプラなどで観られる日も来るだろうと思います。情報をフォローして頂いて、ぜひ観て頂けたらと願っています。

 
最後に、閉店後のコレットの様子を。

2018年の年始に赴いたときの写真ですが、閉店してから2週間くらい後ということになるでしょうか。

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トレードマークだった2つのドットが無くなっていたファサードはちょっと衝撃。ウインドーだったところにはこんなイラストが掲げられていました。

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そもそも閉店でお詫び以外を提示することはほぼなく、それにしても呑気なメッセージだなと当時は拍子抜けしたものですが、この映画を見てようやく本当の意味が分かりました。

「やれることはやり切ったから、もう自由に暮らすよ」

そう言ってリタイア出来る人生も、またいいかな。

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