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トップデザイナーたちの、働き方改革

世間はすっかりウイルス騒動の影響で自粛ムードです。もちろん個人としては自衛していますが、あとはもう運じゃない?という達観モードでもあります。映画「アウトブレイク」に比べれば全然マシだし。あえて今観るかは自己責任でお願いします。

そんな中、ファッション界の最近のトピックスといえば、やはりこれでしょう

プラダはこれまで創業家のミウッチャが全てのデザインを担っていましたが、とうとう外部からのデザイナー招聘に踏み切りました。ちなみに財布などが人気のミュウミュウの名前はミウッチャの愛称から付けられています。

文中にもありますが、最近のプラダは不振でした。
僕自身もそれは感じていて、ときめくようなものが確実に減っていた。どうしても欲しいと思えるようなものが無くて。ファッショニスタとしてのミウッチャも好きなので限界とは言いたくないですが、残念ながら勤続疲労みたいなものはあると思います。

今回白羽の矢が立ったラフシモンズは、インテリアデザイナー出身という珍しい経歴。自身の名を冠したブランドがミニマルかつ構築的なデザインで人気となり、ディオールのディレクター時代にはコレクションの裏側を追った映画が話題となりました。トップメゾンの指揮を執る苦悩と栄光がよく描かれた作品で、最後はちょっと泣けます。オススメの一本です。

ただ、プラダとの協業発表前にはカルバンクラインのデザイナーを務めながら売上が伸びず、解任の憂き目に。

今回のニュースのポイントは、デザイナーの交代ではなく「ミウッチャと対等の関係」であるということです。

これまで、こういったケースでは前任が退いて世代交代というのが当たり前でした。でも今回はより困難な「協業」という道を選んだ。これにはプラダ側の事情もあるのでしょうが、僕はラフ側の意向もあったのではないかなと思っていて。
 

というのも、ラフはデザイナーのあり方についてこんなことを語っていたからです。

「メジャーブランドの場合、誰がデザイナーに就任しようとブランドはその後もずっと続いていく。そうしたブランドの多くではマーケティングや事業の成長率が重視されるが、デザインに加えてそれらの分野も得意だというデザイナーはまれだし、少なくとも私は得意ではない」
「『ディオール』にいた頃、スタジオでデザインやフィッティングをしている私の様子を取材したい、同席したいという外部からのプレッシャーがとても大きかった。そしてショーの前後にも取材に応じなくてはならない。私はこれが本当に嫌だった」
「成功の定義が“いかに事業を成長させたか”という経済的な視点ばかりになってしまった。とてもいら立たしいし、ひどい話だと思う。クリエイティブな人間を、ブランドの店舗数や売り上げ、会社の成長率などで測るべきではない。クリエイティブ面ではひどい出来のコレクションなのに、売り上げがいいからと称賛されるのは間違っている」 ー以上、すべて2019年11月21日アントワープでの「Fashion Talks」での発言より。

えらく後ろ向きな発言だなぁとも取れますが、中々ここまでぶっちゃけられる機会もないですよね。僕もこれくらい言える大物になりたい。

この時は前述のカルバンクライン解任後だったので、思うところもあったのでしょう。実際ラフのクリエイション自体は良かったと思うのですが、カルバンクラインの考えるところと合わなかったのです。
 

「デザイナーはクリエイションに専念したい。宣伝の矢面に立たされたり経営の責任を負いたくない」

 
でも、これは彼だけの感想ではなく、多くのトップデザイナーも同じような想いを抱いているようで。

その機運を掴んで成功を収めているのが「モンクレール・ジーニアス」です。

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2018年からスタートしたこのラインは、毎シーズン話題のデザイナー複数人とコラボをして限定コレクションを販売する仕掛け。その人選が意外だったり抜擢だったりで注目を集めています。クリエイションも大胆で心惹かれるものがある。

年始に訪れたパリでも、ギャラリーラファイエットのシャンゼリゼ店をジャックしていてインパクト大でした。

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そんなモンクレールのCEOは、この取り組みについてこんなことを言っています。

「常に心掛けているのは、イノベーションにおける強固なカルチャーを作り出すということ。私にとってイノベーションとは、自然な姿勢であるとともに、それを自由に表現できるベストな環境を会社が提供することだと考えている。

つまり「クリエイターにはクリエイションに専念できる環境が必要だ」ということに繋がるわけで、今のデザイナーたちに広がる空気を上手くすくい上げたことがプロジェクトの成功に繋がっていると言えるでしょう。
 

モンクレール・ジーニアスの成功を受けて、他ブランドでも「専任デザイナーを置かない」可能性を模索し始めています。独特のプリントでおなじみのエミリオプッチもそのひとつ。

やはり、プッチを擁するグループCEOの発言にも

デザイナーの多くが正式な契約よりもカプセルコレクションの制作を好んでいる
コレクションに必要なのは、フレッシュで新しいこと。ゲストデザイナーにある程度の自由を与え、彼ら自身のビジョンを表現してもらう

とあるように、デザイナーは今の働き方に嫌気がさしてきており、そこから解放することがクリエイション、ひいては売上にも良い影響を与えると考えているようです。これが今後の主流のひとつになっていくのでしょう。
 

でもこれ、結構衝撃というか時代の流れを感じさせますよね。

ファッション界では名のあるトップメゾンのデザイナーになることが最大の栄誉でありゴールであったはず。でも今は好きなように作れる環境が憧れの対象になった。

もちろんトップメゾンを目指す人もいるでしょうが、近年ではデザイナーの担当する範囲が広がり過ぎていたのも事実です。

年2回のコレクション発表がプレだクルーズだのとどんどん増え、SNSでの発信も自らが行って注目を集め、出来栄えについてあれこれと意見が直接届き売上のためのデザインばかり強いられる。

あまりにもストレスがかかり過ぎているのでは?ということは数年前から言われていました。開き直って「カルバンクラインの売れ行きが良くないのでデザイナーが直接街で意見を聞いてみた」なんて動画を投稿できればいいんでしょうが、ようやくブランド側もその深刻さを感じ始め、デザイナーの働き方改革が始まったということでしょう。

 
考えてみれば、デザイナーはブランドに合った素晴らしいクリエイションが出来ればいいのです。経営や広告のセンスがあるに越したことはないですが、本来の業務ではない。一部のデザイナーが兼務出来たからといって全員出来なきゃいけない、というのは間違っていますよね。

ファッション業界だけでなく、ここ数年はマルチロールな活躍が求められる傾向がありました。会社では経費削減な方向性もあったりフリーで活動していくには色々な面での才能が必要であったりもするでしょう。

でも、やはり個人の能力には限界があるし、苦手なタスクを負うことで大きなストレスを抱えてしまうことにもなる。

可能な限り、その人の得意分野を活かした仕事に専念させてあげた方が生産性が上がるし、足りない部分があればその道のプロに頼んだ方が結果にも繋がります。実際、僕もファッションやパリの専門家・事情通としてピンポイントで依頼を頂くことが増えていて。個人でも会社でもスタイリスト・専門家にお願いしよう、というのはごく当たり前になりつつありますね。

 
今後は個性を活かした「自分が満足できる働き方」が一般的なロールモデルになっていくのでしょう。金銭や名声を過剰に求めるよりも、自己実現や理想を叶える生き方というのかな。だからどこかに所属しないで腕ひとつで渡り歩いていくのだって全然アリです。大変だけどね。安易にフリーになるのは絶対オススメしませんけどね。僕言いましたからね。
 

でも、「生活はギリギリだけど…楽しいから」と”ザ・ノンフィクション”のサンサーラが流れる未来か、「次は…世界で勝負したいですね」と葉加瀬太郎のエトピリカが流れる未来になるのかは自分次第。ザ・ノンフィクション大好きだけど、個人的にはエトピリカが流れる未来を目指したいところです。あ、スガシカオでも可。

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