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「1億人でなく、1000万人のための服作り」という考え方

もう9月が迫ってきました。8月はひたすら暑い暑いと言っていただけのような気がします。例の新型は高気温でも勢いが衰えないし冬も元気。空気の読めない年中テンション高いやつみたいで余計にムカつきますね。
 

相変わらずアパレルは大変な状況が続いていて、オゾックが終了したりNe-Netやメルシーボークーも休止とそんなニュースばかり入ってきます。

業界人の端くれとして残念であり危機感を感じるところですが、ひとつ注目している考え方があります。それはオンワードの今後の23区の今後についてです。

”23区”は言わずと知れた百貨店アパレルのスタンダードなブランド。23区オムを休止する一方で、新たに策定した目標は

今後、「23区」が目指すのは1000万人のための服。ユニクロが1億人の服だとすれば、われわれは感性や品質にこだわる1000万人のお客さまのための服を作る。
https://www.wwdjapan.com/articles/1108300より引用)

というものでした。

正直、これしかないんじゃないんでしょうか。

結局、みんなユニクロをはじめとしたファストファッションに負けまいと同じ土俵に降りていった訳ですが、質量とスケールメリットを活かした低価格に勝てるはずもなく。ちょっと降りていったつもりがいつの間にか引きずり込まれてしまったわけです。

要は棲み分けをしよう、ということですよね。
万人のための服作りはユニクロに任せて、それとは違ったテイストを求める人たちに向けたモノづくりをしようと。ここに特化していくしか生き残る道はありません。
 

僭越ながら言わせて頂くと、ようやくその覚悟が決まったかと。ワールドと言えば業界の巨人ですから最初は歯牙にも掛けていなかったでしょう。でもジワジワと追い込まれていき、そういう決断をせざるを得ないところに至った。でもそこまで腹を括れたことは凄いと率直に思ったんです。

その裏には、こんな反省があったといいます。

各ブランドが百貨店の客層の真ん中に寄せていった結果、似た印象になったことは否めない。それぞれのブランドのトレンチコートを並べても区別がつかない。<中略>「23区」のトレンチ、「自由区」のトレンチがあってしかるべき。あるいはトレンチを持たないブランドがあってもいい。
https://www.wwdjapan.com/articles/1108300より引用)

こういった思い切った決断が出来ずに飲み込まれている企業の方が多いし、今もバタバタと倒れている。規模が大きいところほど刷新はしにくいのが実情でしょう。そんな中で割り切った戦略に舵を切ったことは英断と言えるのではないかと。もちろん結果が出なければダメなのですが。
 

改めて思うのは、23区やオゾックのような「ベーシック」「スタンダード」というジャンルをユニクロが根こそぎ持っていってしまったのだということ。ユニクロが凄いのは、自社を狙って”インフラ化”してしまったことです。

どこに行ってもユニクロがある。
転勤や引っ越し先で、海外でもとりあえず行けば下着からビジネス用までひと通り揃えることが出来る。品質も問題はなく近年ではパリにもヘッドオフィスを置き、”ロエベ”のクリエイティブディレクターであるJWアンダーソンも引き入れ先端のデザインを提供することにも意欲的。贔屓目なくどんどんお洒落になっています。

もはやユニクロはインフラ=生活基盤になってしまった。地域にスーパーと同じくらいあってほしい、あったら必ず人が集まるお店になってしまったんです。これはコンビニの発展と経過が似ています。

近くのユニクロに行けば安価でまずまず良いものが買える→わざわざ百貨店に行かなくてもいいのでは?→百貨店アパレルの苦境、という流れですね。特にベーシックなゾーンは高額にしにくいしデザインでの差別化も難しい。そこを時間を掛けてごっそり持って行った。完璧な戦略です。

途中からユニクロの回し者のようになってしまいましたが、それだけ企業努力をしているということなんです。自動車以外で世界のトップでしのぎを削って戦えているのはユニクロくらいじゃないでしょうか。2019年の段階でファストファッションでは業界3位、2位のH&Mを追い抜くのは時間の問題という状況。もちろん1位はZARAでその差はちょっとありますが、GAPなどはとっくに追い抜いているんですよね。
 

そんなユニクロをはじめとしたファストファッションに対し、残念ながら百貨店アパレルは動きが鈍かった。自分たちの方が良いものを作っているという自負もあったでしょう。でもちょっとずつ、品質やデザインでも思っていたほどの差は無くなってきていたんです。

客観的に見て、ファストファッションから覇権を取り戻す!というのはもう無理です。売上規模やシェアが逆転することはないだろうと思います。じゃあどこを目指して戦うのかという話になるわけで。

だから、理解してくれる1000万人のために服を作る、というのは、取りうる現実的な選択肢としてベストな選択だと思うんです。分かってくれる人、支持してくれる人のために服を作る。それで良いんじゃないかなと。

 
今後、ファッションは規模としてはシュリンクする代わりに「濃い小集団」がたくさん出来てくるようになるでしょう。インフルエンサーやデザイナーと顧客が直接繋がり、必要としてくれる人を喜ばせる服を必要なだけ作る。その中のいくつかが稀にメジャーに乗る。インディーズバンドのような感じですね。

ファッションだけでなく、今はどのジャンルもそういう時代。太客を捕まえればWEB配信の投げ銭だけでも生きていける。それが良い時代なのかどうかは分かりませんが、そういう時代に生きているということは認識する必要があります。

 
WEBの世界でも”100万、1000万PVを目指そうとするとどうしても内容が万人向けになる。そうなると大手には勝てないから10万PVでも成立する世界を目指すべき”という考え方があるそうです。どなたがおっしゃっていたかは失念してしまったのですが。結局大手は数を取りに行くので個人や小規模展開はそこと争わずに固定の規模をがっちり掴め、ということですね。

個人のファッションも、これまでは最大公約数的な良さが求められてきました。まさに多くの人の好感を得られるような。

でもこれからは、自分が目指すルート沿いに居る人たちに向けた、自分を偽らないファッションが求められていく。万人向けにせざるを得ない人たちとは別の路線が必要ということです。

万人向けは既に知名度がある人とかヴィジュアルが飛び抜けている人が押さえていて勝てません。だから違う角度から、自分が目指すスタイルを表現した、嘘のないスタイリングをすることで濃いファンを掴む。

僕はこれを主に個人の方に向けて提案してきたのですが、個人はもちろん、企業やお勤めの人だってもっと顧客やステークホルダーを意識した装いで結び付きを深くして個人をピックアップしたり、会社をファッションで表現することを考えるべきだと思っていて。

とある企業でスタイリングを通じてそんな取り組みを担当していますが、SNSで発信することによってお客さまの間で話題になったり外部からも個人指名で問い合わせが来たりと成果が出始めています。お行儀よく失礼なく、という時代ではないなと実感として言えますね。

 
そう、”嘘のないファッション”というのがひとつのワードかなと思うんですよね。

多くの人に向けた服は、良くも悪くも個性を消してしまう。誰が着てもよく見えるということは裏を返せばそういうことです。でも限られた人に向けた服なら、誰でも似合うわけではない代わりに個性が際立つはず。

万人に向けて小綺麗にするのではなく、自分を嘘偽りなく表現したファッションでこそ魅力が伝わります。無理して明るい色や堅苦しいものを着る必要はないと思う。1000万人に向けた服作りから、そんなスタイリングに使いたいアイテムが出てきたら良いなと期待するところです。

そんな嘘のないファッションのために、僕ももう少し身体を絞りたいと思います。自炊の方が好きなだけ量作れるのでマズいんじゃないか説。検証求む。

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