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玄界灘の荒波に浮かぶ、離島のクラフトビール『ISLAND BREWERY』

壱岐の名所 猿岩(2006年撮影)

■16年ぶりに玄界灘を渡る。目指すは壱岐島。

2021年7月、久しぶりに壱岐島へと渡った。

私が最初に島にお邪魔したのは2003年、壱岐焼酎協業組合(当時)を個人的に訪問。その次は2006年に雑誌『焼酎楽園』の取材で出向いた。どちらも同組合の杜氏を務めていた原田知征さんに会わんがためである。

初回の時、原田さんのご指導で大きなタンクに湛えられた諸味の”蓋”に櫂入れさせていただいたのだが、へっぴり腰と腕に痛みを覚えた実働5分という自己最長七転八倒記録の想い出は、いまだに鮮明である。

原田知征氏(旧壱岐焼酎協業組合・杜氏時代 2006年6月撮影)

その後、壱岐焼酎協業組合は協業化を脱して「壱岐の蔵酒造株式会社」へと組織が変わり、原田さんは社長に就任。杜氏時代に母校・東京農業大学で分離された「花酵母」による製品化や、社長就任後の『エヴァンゲリオン』タイアップ商品開発など新機軸を打ち出したりと、私も原田さんのさまざまな作品を飲ませていただいた。その旨さ、焼酎杜氏として極めて有能な方だと今でも思っている。

さて、その原田さんが、以前から伺ってはいたが、自分の酒造りを追及する新しい一歩をいよいよ踏み出したとの潮風の便りが届いた。ついに原田さんの宿願叶ったり!と思ったのだが、それが”クラフトビール造り”と聞いて思わず泡を吹いた。え?ビール?

とはいえ、原田さんのこと、ただのビールで済むはずはないのだ。これはひとつ、あの無法松を育んだ玄海の波濤を越えて飲みに行かねばならぬ!、とばかりに博多港へと急いだのである。

博多港のフェリーターミナル
博多湾 遠くドームと福岡タワーを望む
壱岐 郷ノ浦港

■原田さん、五代目当主として原田酒造を再興す。

渡航当日は素晴らしい天気に恵まれて、快適なフェリーの旅だった。ゆらゆらと、実に気持ちエエんだよねえ。1/2の時間で走るジェットフォイルもあるのだが、今回初めて乗ったフェリーがゆったりとしてオススメ。

航海は2時間ほどで郷ノ浦港に無事到着。私は運転が駄目なので、壱岐交通バスに乗って『ISLAND BREWERY』がある勝本港へと向かった。乗客数はチラホラ。車窓にのどかな島の風景が流れていく。

勝本漁港といえば原田さんの故郷、ご実家の旧原田酒造は港町の一角にあった。場所はいま人気の宿泊スポット『LAMP壱岐』の斜め前だ。

私は2003年に原田さんのお招きで、現在は『ISLAND BREWERY』となったご実家の旧原田酒造にお邪魔している。その母屋解体中のレポートをSNSで拝見していたが、往時の姿を見た者としては、なんとも感慨深いものがあった。あの大東亜戦争時の緊縮財政標語の看板はどうなったのだろう。

原田さんはご実家を大改造し、五代目当主として130年以上の歴史を誇る蔵を原⽥酒造有限会社として再興、『ISLAND BREWERY』を屋号とし醸造家としての新たなスタートを切ったのである。

■港町商家の風情、『ISLAND BREWERY』を見上げる。

40分ほどバスに揺られて、やっと港に着いた。新装なった原田酒造の姿、『ISLAND BREWERY』をしかと拝む。

瀟洒な外観、酒林が下がる古風な商家の趣と屋号のロゴがマッチしてとてもいい。しばし眺める。周囲の商店、街並み、ブロック舗装された通りと調和しながら、『ISLAND BREWERY』の文字がひときわ視線に映える。

「原田さん、やっとここまで来たんだな、ここに到達したんだなあ」、そんな想いが迫ってくる。

■新装成った母屋。Y世代、Z世代が集うタップルーム。

引き戸を開けて蔵内に入る。そこはタップルームとなっていた。タップ(Tap)はビールの注ぎ口を意味し、タップルーム(Taproom)とはビール専門のバーのことらしい。

白昼からのんびりとビールを舐めるのにうってつけの、とてもくつろげる空間となっている。

すでに地元客なのか、旅人なのか、若い人たち、いわゆるY世代からZ世代がグラスを傾けていた。原田さんによれば、釣り客はもちろん、近くにある串山海水浴場や壱岐イルカパーク&リゾートを訪れる観光客の立ち寄りを期待している、という。

見たところ、さっそく人気の観光スポットになっているようだった。

ガラス越しに醸造施設部分

タップルームの右側壁がほぼ全面ガラス張りになっており、ビール醸造設備が一望できる。4月のオープンから2ヶ月ほどの時点だったので、施設も設備もまだまだ真新しい。

手前に数基並んでいるのは醗酵タンクだろうか。ここが原田さんの新しい醸しの場なのだ。

■原田さんと久しぶりの再会。そのイケメンぶりは不変。

原田知征氏(撮影2021年7月)

久しぶりに原田さんと挨拶を交わす。

いやぁ、そのイケメンぶり、お変わりございません。

さすがに20年の年月を経て、40代としての落ち着きが加わりながらも、やはり原田さんは原田さんなのだ。そういえば、お父上も壱岐っ娘たちの紅涙を絞りまくった程に鳴らした伝説のイケメンと漏れ伺ったことがあった。血は焼酎よりも濃く、さらにビールよりも濃し、なのである。

2003年6月 横浜焼酎委員会主催の一大イベント『本格焼酎大選集』
の会場へと向かう若手蔵元たち 右端が原田さん
2003年6月 『本格焼酎大選集』の打ち上げ 船上パーティにて
左から二人目が原田さん

というわけで、原田さんにビール醸造の指導をされていたお師匠さんが翌日帰郷されるとのことで、残り時間も密なアドバイスを受けるなど多忙を極められていた。ゆえに、ご挨拶もそこそこに、私はひたすら『ISLAND BREWERY』の作品を徹底して飲み干すことにした。

お師匠さん(左)と原田さん

■友人は飲んで一言、『魚介類に合うビールですね!』と喝破した。

実は島を訪れる前、『ISLAND BREWERY』の開業時にネットショップで3種類×2本のセットを購入していた。それを、酒とその原料にやたら詳しい友人に、原田さんが造ったということ以外、まったくなんの先入観も与えずバイアス無しでテイスティングしてもらったのだ。

彼がグッと飲んで開口一番言ったのは、『これは魚介類に合うビールですね!こりゃ旨いわ。さすが原田さん!』であった。

当日のメニュー(2021年7月当時) 季節によって原料とラインアップは変わる
また島で飲みたい
また島で飲みたい
結局全アイテム6杯飲んだ。また島で飲みたい

『ISLAND BREWERY』公式サイトのトップページにこういうリードがある。

青い海と豊かな自然に囲まれた壱岐島に、
長崎県で唯一のクラフトビールメーカーとして、
ISLAND BREWERYが誕生しました。
「魚に合うビールを作りたい」
この想いを実現するために私たちが着目したのは、
壱岐島発祥である麦焼酎に使われている白麹でした。
白麹由来のクエン酸がもたらす、柑橘を思わせる爽やかな酸味。
そこにフルーティーなホップの香りをまとわせました。
軽やかな飲み口と華やかな香りが、魚料理に優しく寄り添います。
壱岐の海とともに育つ自慢のクラフトビールをお楽しみください。
 魚を食べるなら。
ISLAND BREWERY

友人の評言はまさにドンピシャで、さすがの一言。横で聞いていて、感心してしまった。大した舌だ。

私はというと真逆で、官能評価とはほど遠い男。何を飲んでも「フルーティすね」「すっきりしてるすね」としか言えないので、勝本港の漁師料理という「イカの丸茹で」を貪りつつ、ただひたすらに原田さんのクラフトビールを飲み倒すだけである。

なお、近隣の食事処からのデリバリーも可能なので、アテには困らない。

漁港の漁師料理「イカの丸茹で」 これがまた旨い

うんまかったよね、やっぱ合うんだわ、魚介と。

他の魚でも・・・いや、壱岐といえばやっぱり雲丹か。いつだったか、タッパに入った壱岐産の生雲丹を頂戴したことがあるが、それ以上のブツを今日の今日まで喰った覚えがない。忘れられないあの味。

そういえば、雑誌『焼酎楽園』の編集長も壱岐の雲丹がどこよりも最高だと、来福された際の宴会で力説されていたことを思い出す。

またいつの日か島にお邪魔して、『ISLAND BREWERY』と雲丹の対戦を試してみたいもんだ。壱岐の海の幸を突きつつ原田さんの作品を舐める至上の快楽、チャレンジする価値は大ありだと思う。

とはいえ、公式サイトの通販ありの、また東京はじめ各地で取り扱っている酒販店さんもありと思うので、『ISLAND BREWERY』に確認されたし。

芦辺港を出港
だんだんと遠ざかる壱岐島
雲がかかった玄界島の横を船は抜けて、もうすぐ博多港へ

というわけで、当日は郷ノ浦に戻って宿泊、翌日博多へと戻った。やっぱ壱岐はいいわ、近いしね、また行きたい、また飲みに行きたい。次は雲丹だ、雲丹!

〽波の背の背に 揺られて揺れて・・・

(了)

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