見出し画像

大分+長崎+佐賀  蔵元アーカイブズ 2002〜05(7) 長崎・旧壱岐焼酎協業組合 -1

2003.04.20 by 陳牛

■小高い丘の上に立つ、「壱岐焼酎協業組合」

午前11時20分、郷ノ浦港に到着。上陸すると迎えに来た人々が並んでいた。ふと見ると「九州焼酎探検隊・猛牛殿」と書かれたカードを手にした方が・・・。原田知征氏であった。わざわざ港までお迎えいただき、恐縮至極。

まずは腹ごなしと、郷ノ浦のメインストリートで壱岐特産の“ナニ”をご一緒にいただくが、それはまた後日に。港から車で10分少々の芦辺町にある蔵へと向かふ。

蔵は小高い丘の上にあった。壱岐で最も高い展望台でも標高213m。島のほとんどが火成岩の台地となっているそうな。下記は、蔵のタンク頂上から眺めた、長崎県第2の面積を誇る平野部である。ご覧の通り、なだらかな地形を実感いただけよふ。景色は美しひ。

平野部から丘の上をしばらく行くと、蔵にたどり着いた。

車が脇道を入ると、すぐ正面に三角屋根の大きな蔵が迫ってくる。その左に事務所、右に試飲場という3点セットの構成となっていた。

この壱岐焼酎協業組合は、昭和59年に6社が集まって発足しているが、協業組合の蔵が持つムード、風情はなにか共通するようだ。わては大口酒造さんや国分酒造さんの社屋を思い出していたのだった。ま、つまり「でじゃぶー」ちゅーか。

蔵の全景
事務所
試飲場

■まずは試飲場で・・・エエ~気分ちゅーねん

さて、原田氏に最初にご案内いただいたのは、蔵右手にある試飲場。おっと、のっけから飲みですかぁ~。いやぁ~、まいったなぁ(*^^*)。

と遠慮も無しに試飲の開始! お!テーブルに同組合のラインナップが並んでおります。一番目に付くのはやはり、ちょうど真ん中に置かれたあの長岡秀星氏画によるレギュラーブランド『壱岐っ娘』だらふか。あまりにも有名なラベルだ。

その他、樽貯蔵物や、先般コンテンツにした日本初の花酵母使用の麦焼酎『なでしこ』『玉姫』が並んでいる。試飲してみる・・・。本当に華やかな香りである。花酵母の現品および、仕込みの状況を後で拝見させていただくこととなった。

さて。常圧麦ファンとして今回お目当てだったのが、右から2番目にある『大祖』(たいそ)だ。常圧蒸留で数年寝かせており、麦のやさしく練れた味と後口のほのかな香ばしさが良い。美味かですたい、これは! エエ気分だす(~Q~)・・・ちゅーことで即購入。

その他、右端にあるリキュール『霊芝』も、実際に飲めば、薬臭いということは無く飲みやすいし、味も良い。実際、蔵見学者にも好評でリピートも多いといふ。

■試飲場内に置かれた、かつての道具たち

試飲場の奧が商品の陳列と販売コーナーとなっていた。が、その手前にかつて協業化以前に各蔵で使われていた道具が展示されていたのだった。

木桶蒸留機がどんと鎮座し、台にもろ蓋や暖気樽などが積まれていた。 昭和50年代末までは、こうした古式床しい道具を使用して麦焼酎の製造が続けられていたようだ。

しかし、郷愁や民俗などという視点で見るわてのような都市居住者は呑気なもんである。こういう昔ながらの道具を使って・・・などという脳天気を言う気はなひ。

上記右画像にある暖気樽だが、これはご案内していただいた原田氏のご実家である旧・原田酒造(有)で使用されていたもの(現在は酒販のみ業務を継続されている)。「つたや」と墨書きがしてあるのは、同酒造で造られていた清酒『蔦之壽』が屋号化したのか?

同じく上記は展示品の中から。これは陶器(陶磁器?)製の暖気甕である。銘は「銘醸甕」とある。よく見ると、窯元はいまをときめく波佐見焼だ、これは。へぇ~、焼き物の暖気甕とは驚いた。広く使われていたのか、気になる。

■いざ、蔵の内部へ!

というわけで、試飲場での至福のひとときが終わり、ちょいとほろ酔い気分で蔵へ。ああ~、ほんにエエ気分ですわ、これは(*^^*)。で、蔵の3階へと階段を昇る・・・。

まず3階は蒸しの工程。

大型のドラム式が一基鎮座していた。こちらでは麹米に高品質のタイ米と国産米を併用し、二度蒸ししているとのこと。原田さん曰く、

原田「タイ米は、味の輪郭のしっかりした焼酎が出来上がるんですね」
猛牛「タイ米と聞くと、昔の米不足時の緊急輸入なんかを思い出しますが・・・。質は?」
原田「実際にはとても良いんですよ。タイ米は焼酎造りに適していると思いますね」

2階では、麦用のドラムと製麹用の三角棚の二つが稼働していた。 原田氏に扉を開けて中を見せていただく。三角棚の中では、乳白色の麹米がスヤスヤと就寝中である。

現在造りについては、理事である原田氏の父上、そして原田氏のお二人が主に受け持っていらっしゃるという。

製麹の工程を行う2階から、1階へ。 2階で製麹された麹などを降ろして、一次もろみのタンクへと移す(上画像)。

同社は三段仕込みである。この一次もろみタンクの手前(つまりわてが立っていたところ)が二次仕込み用のそれ。

そして画像の左側の建屋には大きな三次仕込み用タンクがド~~~ンと並んでいた。

上画像手前は三次仕込みのタンク。そして右奧にあるのは2基の大型蒸留器。蒸留機は左が減圧、右が常圧である。

ちょうど真ん中奧に見える小さな丸い蓋の並びが、原酒などの貯蔵タンクの上部。年間5000石という生産量、さすがに大きな蔵だ。

さて、下記左画像で原田氏が手にしているのが濾過に使っているという炭。自然素材だとやはり焼酎が優しく滑らかに磨かれるといふ。

ちゅーことで、タンクに貯蔵された『壱岐っ娘』の原酒を一口、舐めさせていただく。ぷはぁ~~~っ!(~Q~;) いい味だっ。コクが深く旨い。これまた蔵訪問の醍醐味っす。ごっつあんでしたぁ~!(-人-)

■樽貯蔵庫の方へと誘われ・・・

蔵の右側に樽貯蔵庫があった。奇しくも今日はスペインから輸入したホワイトオークの新樽が到着したばかりと言うではないか。さっそく拝見することに・・・。

さて、上記画像の右手前に搬送用のパレットに載ったものが、到着したばかりの新樽。パイプ製のラックに入れられた内、左側の木肌が明るく見えるのが、新品の樽に原酒を入れたもの。真ん中から右へ表面が徐々に黒くなり風格を漂わすのが、使い込まれた樽である。

これらの樽に長期貯蔵されたものは、『DELUX壱岐っ娘』『二千年の夢』などへと生まれ変わる。新樽が琥珀色の宝石を生み出すのはいつの日のことだらふか・・・。

さらに樽群の左側には、巨大な甕が10基、同じくタンクが数基並んで、長い永い眠りについていた。

これは商品化されているんですかい? というわての問いに対して、まだ試験段階であって商品化の目途は付けていないらしく、熟成の様子を見ているとのこと。中身がどんな味なのか? いつ商品化されるのか、とても楽しみである。

■櫂入れを体験する・・・

見学をひとまず終えたら、午後4時になった。ちょうど一次もろみの櫂入れが始まるという。もちろん拝見することに・・・。

まずは原田氏が櫂棒でお手本を見せてくれた。

さて、何をやるかというと、もろみを撹拌して、まんべんなく発酵が進むようにするわけである。例えば下画像を見るとよく解るばってん、麹米がタンク内の上面に浮かび上がって堅い層、塊になっているように見える。これをしっかりと混ぜて偏りを無くすのだ。

やはり蔵人の方々の手さばきはスムーズ。

原田「牛さんもやってみますか?(^_^)v」

お! 待ってましたぁ!! わても遂に櫂棒を持つ機会が! まじに嬉しい!

で、さっそく棒を手にチャレンジするが・・・、これがなかなか難しい。ちゅーか、こぉなんちゅーか、へっぴり腰なのよねん。上手く混ぜるにはやはり年期なんでしょうなぁ。

原田氏らの櫂棒で撹拌されるもろみ。クリーミーで美しい。
撹拌後のもろみの表面。またプクプクと発酵が促進され、泡が上部に吹き出してきた。

■さらに麹の切り返しを見学

さて。櫂入れの後は、ちょうど麹の切り返しの時間がやって来た。「切り返し」とは、麹菌を付けた蒸米の山を崩して塊をほぐし、温度の上がりすぎを押さえ、酸素の供給を行うことで麹の繁殖に最適な環境を造る、重要な作業ぬぅあんである。

これもなかなかタイミングが合わないと、実際に見ることが出来なひ。今日は本当にラッキーだ。老若2名ずつ、計4名の蔵人さんが事にあたっていた。麹米の色が本当に美しい。

左は、原田氏が掌で掬って見せてくれた麹米。表面が乳白色になって麹菌が繁殖している綺麗な長い粒である。

この麹米に酵母と水を加えて一次もろみが生まれるわけだが・・・。

次に、今回ご縁の元となった「花酵母」の実物を拝見させていただくことにした。どんな物なんだろうにゃ~(@_@;)

さぞや美しい花の色でもしているのだらふか?

というわけで、一休み。

蔵見学の〆として、原田氏に試飲場前に立っていただき、記念撮影と参った。手にされているのは、「原田酒造場」と銘の入った『壱岐っ娘』粗品タオル。これは組合構成員である6社の社名と組合名の全7タイプが揃った、極めてコレクターズアイテム性の高い逸品!

商品は貰わない主義だが、粗品タオルは“百顧の礼”を尽くして強引に頂戴した。後日「粗品タオル展示室」にて公開予定である(*^^*)。

原田氏に従って、蔵内にある研究室へと向かふ。いよいよ「花酵母」に初見参・・・。

(長崎・旧壱岐焼酎協業組合 -2 へ続く)


■2022年追記:原田知征氏は、組合が壱岐の蔵酒造株式会社に改組した後、社長に就任された。しかし自分の酒造りをビールという世界で実現したいと退社。2021年、実家である原田酒造を再興するかたちで、離島では珍しいビール醸造所「ISLAND BREWERY」を勝本港に発足させた。

私も昨年夏に島に渡って店で全種いただいたが、どれも秀逸な出来映えで、酒の世界に詳しい友人も絶賛の味である。いま、原田氏は新しい地平を進んでいる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?