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【2019 J1 第23節】横浜F・マリノスvsセレッソ大阪 ゆるれびゅ~

1.はじめに

 今季初の連敗を喫したマリノス。今節はここ数年勝てておらず、前半戦のトラウマ試合の1つだったセレッソ大阪をホーム日産スタジアムに迎えます。選手登録が完了し、夏に獲得した全選手がこの試合から起用できる。「エリキってどんな選手なんだろう?」「三好…海外に行っちゃった…」出入りが激しかった今夏、シーズン半ばを過ぎたにもかかわらず、心持ちは開幕戦のときのような昂りと不安が入り交じる。新しい布陣も試されたこの試合、新生マリノスを振り返っていきます。

 通常レビューはこちらになります。

2.スタメン

■横浜F・マリノス

・扇原は前節の退場により出場停止
・代わりに入ったのは新加入の渡辺皓太
・エリキ、マテウスがそろってマリノス初先発
・パギ負傷により杉本がマリノスでのリーグ戦デビュー

■セレッソ大阪

・累積警告によりデサバトが出場停止
・代わりに入ったのは木本で、センターバックには瀬古が先発
・奥埜は引き続きフォワードで先発

3.前半の4-4-2~前に誰もおらーぬ~

・マルコスもエリキも偽物の9番
・2トップがいなくなった中央にはマテウスや仲川が中に絞って入ってくる
・サイドバックは外に開いて相手から逃げる

 この日の並びを見ると「あー、マルコスとエリキの2トップか」と納得しましたが、試合が始まって少しするとある疑問が。「あれ?最前線に誰もいないこと多くない?」そうです、この試合の2人は9番(ストライカー)としてではなく、偽物の9番としての役割を担っていたのです。そうすると中央が空いてしまいますが、そこに移動したのは両サイドにいるマテウスや仲川でした。W0トップというこの形、天皇杯3回戦のときの三好と風希がやっていた形と全く同じですので、試合を見に行った方はそちらを思い出してもいいかと思います。

 しかしセレッソは中央を固める守り方をしています。特にディフェンスラインの4人と中盤の4人の間は狭かった…それに対して2トップが下がり、両ワイドが中に絞る。相手からしてみれば”飛んで火にいる夏の虫”状態です。まぁ暑かったからね。砂漠を彷徨って見るオアシスの幻影って大体ど真ん中にありますし。そこに集まるのも自然なことなんでしょう。もしかすると涼しさを見つけたのかもしれません。知らんけど

 そんなこんなで前半は大苦戦。一番惜しかったのは広瀬のミドルシュートだったのではないでしょうか。やはり我々は中央封鎖を突破できないのでしょうか…

 それでも攻撃がうまくいきそうになったシーンがありました。それが前半15分ごろになります。

 藤田と木本の間に下りたのは偽9番のマルコス。チアゴはそこへビシっと縦パスをつけます。ボールを受けたマルコスが落としたのは、これまた偽9番のエリキ。これにより中央が空くため、仲川は内側へ。また、空いた外側へは広瀬が向かいます。エリキは外にいる広瀬にパスを送りますが、攻撃はここで詰まってしまいました。

 エリキ、仲川、広瀬の青いトライアングル。太陽がくれた季節の中見せたスムーズなローテーションは可能性を感じました。が、この頻度はそこまで高くなく、中々効果的に相手を動かすことができませんでした。新加入選手のエリキがいたから仕方ないね。と思いつつ、いきなりこれだけの好連携を見せてもらえたので、今後熟成されるとどうなるのかと期待してしまいます。

4.後半の4-4-2~そういえばピッチは広いんだった~

・マテウスと仲川は両サイドに開いて相手から逃げる
・エリキは最前線に構えて相手を押し下げる
・マルコスは相変わらずフリーダム

 「あぁ、そうか、ピッチって広くてサイドとかを使えれば楽になるかもしれない」広大なピッチでサッカーしていることを思い出したのか、後半に入ってからは選手の位置を固定気味に変更してきました。マテウスと仲川は横に目一杯広がり、エリキは最前線で相手ディフェンダーと駆け引きをする。そうすることによって相手を上下左右に広げることに成功。引き続き偽9番としてフリーダムなマルコスも活きることとなり、多くのチャンスを作ることができました。

 このポジション固定の効果が出たのが、後半53分ごろのシーンになります。

 チアゴは奥埜、清武、藤田の間に入り込んだ広瀬へパス。そのまま奥埜、藤田、ソウザの間に入った喜田へパスを送ります。仲川は外側へ広がり、エリキは最前線で相手ディフェンダーと駆け引き。「くっ…相手がいてこれ以上ラインを上げられない…」中盤の選手たちが遠くに見えます。「おー、ここめっちゃ広いなー。入っちゃおう」広がった間に入ったのは自由人マルコス。そのまま余裕のターンをかまし、外にいるマテウスへパスを出しました。このあとはご存じの通り、惜しくもゴールとはなりませんでしたが、ピッチを広く使うことによって相手を効果的に動かせた場面だったと思います。

5.なんかうまくいかない前からのプレス

 そんな具合で攻撃面は大分改善されましたが、守備は相変わらずハラハラものでした。ボール奪われて気付いたらチアゴがダッシュしていたこと、よくありましたよね。その原因は前からのプレスがうまくいかなかったからのだと思います。

 こちらは前半18分ごろのシーンになります。

 水沼が松田陸に下げたのがヨーイドンの合図。マテウスとマルコスは相手をどんどん追いかけていき、ジンヒョンまで下げさせることに成功。しかしそれでも手を緩めないマルコスは、勢いそのままにジンヒョンまで迫ります。反対のサイドを確認しますが、そこにいるのはエリキ。「俺は瀬古を注意していよう。外側にはテルがいるしな…っていないの!?」攻撃の余波のためか、仲川は中央付近にいました。そうなると丸橋はドフリーな状態。「祐介空いてる!そこだ!」ロングボールを丸橋につけます。

 ボールを受けた丸橋はドリブル。「まったく…誰もついてねーじゃねーか。しゃーねーな、俺が行ってやるか」広瀬は後手になりながらも前に出向きます。「ちょ…陸斗、そこ出ていかれると俺メンデスと1対1な状態で晒されるんだが…」サイドを守るべき人がいなくなったため、背後に大きなスペースが。丸橋はそこ目がけてパスを出しました。

 マークがずれにずれて、最終的にチアゴが1対1という危険な状態になってしまいました。仲川が中央にいたため、マルコスやエリキは無理して前にいかず、後ろで構えていたら安全だったかもしれませんね。

 こちらは後半65分ごろのシーンになります。

 瀬古がジンヒョンへボールを下げるタイミングで、エリキが猛烈な追い込みを開始します。このアプローチにたじたじになるかと思いきや、瀬古へのパスコースは消えていないではありませんか。「え?一生懸命追ってくるけど、そっち空いてるんだ…これ瀬古に戻すだけでいいのでは?」ジンヒョンは瀬古へリターンパスを送ります。「マジか…そっち空けたまんま寄せちゃった。しゃーない、俺が出てい…」と言っている間に瀬古は丸橋へパス。「また丸橋空いてるんかい、しゃーねーな、俺がいってやるよ」空いている丸橋へ広瀬が寄せますが、後ろではまたチアゴが危険な状態に。しかも清武が内側に入っているので、1対2という難しい状況

 エリキが寄せるときに瀬古へのパスコースを消していればこんなことにはならなかったはず。そういう動きがうまいのがエジガルなんですよね…彼の不在は守備でも響く…この寄せ方を覚えると守備が少し楽になるかもしれません。

6.あなたのゴールキックに狙いを決めて

 この試合、相手のゴールキックを奪えることが多かったように思います。というのも、マリノスが工夫していたからではないでしょうか。

 前線の4人はペナルティエリア付近に位置取っています。「ほれ、すぐ横にいる選手に出してみろよ。すぐ奪いに行っちゃうぞ」そう言わんばかりのプレッシャーを相手はひしひしと感じていたでしょう。そうすると次に目がいくのは外側に大きく開いたサイドバックたちです。なんと!ここは空いているではないですか!思わずそこへボールを出したくなりますが、これこそマリノスが敷いた罠。「かかったな!今だ!」後ろにいたサイドバックと、前にいるウイングが挟み込んでボールをかっさらうことが多かったです。

 ここ最近の試合、ジンヒョンのキック精度はブレていたので、ここを狙い目として対策したのかもですね。このようにボールを奪うことができていたので、ゴールキックだろうが、コーナーキックだろうが、マリノスにとっては都合のいいことでした。そのため、攻撃をやりきり、シュートを撃って相手側のラインを割れれば優位な状態でしたね。攻め攻めでいけてました。

7.先制点と同点ゴール

 これらを踏まえ、先制点と同点ゴールを振り返ってみましょう。

■1失点目~君の名はピエール~

 こちらはセレッソが先制点を挙げた前半11分ごろのシーンになります。

 松田陸は藤田へパス。この間に右サイドでは仲川と丸橋が入れ替わる”プチ君の名はが上映されていました。マリノスは左側で取りたいという意思の強さから全体として左に寄って守備。その影響からか、仲川は外側から内側へ。丸橋は内側から外側へ。「あれ?って別にわかるわ!俺たち入れ替わってるな」男性と男性の入れ替わりなのでめくるめくドラマは始まらないかと思いきや、このあと劇的な展開が待っていました…その布石として、外でフリーになった丸橋は前に猛ダッシュ。それを見つけた藤田はロングボールを丸橋に送ります。

 猛烈なダッシュで丸橋まで戻った仲川ですが、最初から距離が離れていたため、相手にクロスを上げさせないのがやっと。マリノスディフェンダーたちも戻ってペナルティエリアを埋めましたが、喜田、畠中、チアゴ、広瀬がいるこの形はまるでドラクエのスライムのような絵でした。あのフォルムって真ん中にあるトンガリの左右はスッカスカですよね。そのスッカスカなところに入り込んだのは清武です。そういえばスラムナイトってあの部分に乗ってたなぁ。もしかすると清武はスライムナイトのピエールだったのかもしれませんね。(瀧くんの方じゃないよ)

 えーっと、話が逸れました…この隙間に入った清武と慌てて寄せてきたマリノスの選手たちとゴチャっとなりますが最終的には中央へピンポイントクロスを送ります。これに奥埜が合わせて先制ゴール。何気に反応してる杉本すごかったけど健闘及ばずでした。

 このスライム型ディフェンスはあまりよくないと思います。もっとドッスンのようにペナルティエリアを四角く埋めるように選手を配置して守れるとクロスに対する脅威は減るのかなと思います。

■同点ゴール~トンネルを抜けた先はフランスだったかも~

①チアゴは清武と藤田の間を通してエリキへパス
②エリキは丸橋と瀬古の間を通してマルコスへパス
③マルコスが左足で合わせてゴール

 こちらは同点ゴールを挙げた後半68分ごろのシーンになります。

 相手のカウンターの芽を摘んだチアゴ。さあ今度はこちらがカウンターのカウンターです!顔を上げた先に見えたのは清武-藤田トンネルと抜けたところにいるエリキ。「そこ!」間を通してエリキにパスを送ります。トンネルを抜けた先は…またトンネルでした。今度は丸橋-瀬古トンネルです。このときマルコスは前にある瀬古-ヨニッチトンネルを抜けようと果敢にダッシュ!「俺には未来が見えた!ここを抜け出した先にマルコスが来る!」その動きを見逃さなかったエリキはトンネルを通してパス。これまたトンネルを抜けたマルコスが抜け出し、左足で合わせて同点ゴール!トンネルを抜けた先はゴールとトリコロールのサポーターたちでした。たぶん辿り着いた先はフランスだったのでしょう。そう思うと、これまでのトンネルは全部凱旋門だったのかもしれませんね。相手の間を縫うようなパスと動き出し、見事なゴールでした。

8.データからの振り返り

 さて、今節の結果は清水戦や鹿島戦と比べてどうだったのでしょうか。前回も実施したスタッツ比較とパスマップから簡単に見ていきましょう。

■スタッツの比較

 データの比較はsofascoreから取った以下の値になります。

・ボール保持率
・シュート数
・パス数
・ロングパス成功率
・クロス成功率
・デュエル勝利数
・走行距離
・スプリント回数

 シュート数はここ3試合の中で一番多かったです。また、パス数も鹿島戦に比べて回復傾向。パスを回して相手を動かし、シュートを多く撃ってチャンスを作れたのだと思います。しかし、クロス成功率やロングパス成功率は減少していました。クロスを上げるが、中央を固めた相手に弾かれる。扇原不在のためロングパスの頻度や成功率が下がる。こういった背景だったのでしょう。マテウスが大暴れしていたこともあり、左サイドを中心にえぐれていました。あとはクロスに合わせるタイミングや位置、人数を増やすことなどが今後必要になるのかと。そこは課題だと感じました。

■パスマップの比較

 今節の後半45~65分の成功パスに対して集計を行いました。布陣が異なり参考程度ですが、鹿島戦の集計値のみ並列に記載します。

 広瀬から喜田や皓太へのパスが多いことと、畠中やチアゴのパスが多いことから、後ろに引いた相手を左右に動かすため、パス交換を頻繁に行っていたことがわかります。また、マテウスに多くのパスが集中していますね。後半は彼がドリブルで相手を剥がしてクロスを上げる頻度が高かったのが記憶に強く残っています。受けたパス数も15本とチーム2番目に多いことは、攻撃の中心だったと言うことができるかと思います。

9.新システムへの提案

 いいところもありましたが、あまりよくなかった部分も見えた新システム。特に前半と後半で大きくチャンス作成回数も変わったため、こうしたらいいのではないだろうか?ということを、自分なりにサイド別に提案していきます。

■右サイド

 右サイドはエリキ、仲川、広瀬の3人がくるくるとポジションを変えるところに可能性を見出しました。エリキは相手を欺く偽9番として後ろに下がる。空いた中央には仲川が入る。外側に誰もいなくなるので広瀬が上がる。自分たちがグルグルすることにより、相手の目をグルグルさせてやりましょう

 最終目的は右サイドからクロスを上げること。しかしただクロスを上げるだけだとゴールはできないので、ちゃんとシュートを撃つ人を用意しましょう。反対サイドにいるマテウスが中央か遠いところ、近いところはエリキの相方であるマルコスが飛び込むといい感じです。

 エリキのオールラウンダー性能や自由な動き出し。広瀬や仲川はポジションに囚われないことなどを存分に活かせるこの攻撃。コンビネーションが熟成すれば高い頻度で見られるようになるでしょう。今後注目していきたいです。

■左サイド

 左サイドについては、ゴリゴリなドリブル突破、「え!?今なの!?」と思うような突発なミドルシュート、低くて早いクロスなどの武器を持つ攻撃の申し子マテウスの能力を存分に活かしましょう。その状況はどういうものなの?というと、相手と1対1にすることです。外側は彼に全部プレゼント。味方も立ち入っちゃいけない聖域です。ただ、それだけだと物足りない…というのも、ペナルティエリアの端を使う選手がいないからです。そこは上がったティーラトンが入るか、皓太が上がって埋めてあげましょう。

 こちらも最終目標はクロスを上げること。マテウスが上げようが、上がってきた皓太やティーラトンが入れようが、中央や遠いところは逆サイドにいる仲川、近いところはエリキが入るといいかと思います。

 また、右サイドでパスをまわして相手を寄せる。自然と左サイドは手薄になるため、後ろに下げてからズドンと長いボールを送っても面白いかもしれません。そういったことが得意な扇原が復帰したら案外はまるかもしれないですね。

10.スタッツ

■トラッキングデータ

■チームスタッツ

11.おわりに

 人が変わり、システムも変わりましたが、監督の目指すアタッキングフットボールという姿勢は変わってないと思います。ボールを握り相手を押し込む。チャンスを多く作りシュートを撃つ。ボールを奪われたらすぐに相手kら奪い取ろうとする。高いラインの維持。これに加え、選手間のポジションローテーションなどなど、プレー原則は不変でした。前に戻ったなと感じるのは、両ワイドの質で殴る姿がモンバエルツ3年目のサッカーと重なるからではないでしょうか。あちらはボールを握りませんが、立ち位置を大事にする点では同じです。似たように見えるのは当然だと思いますが、だからといって1.5年間の積み上げをなくしたわけではありません

 この日リーグデビューを飾った4選手に関して、短評を通常レビューに記載していますので、ご興味があればそちらをお読みください。

 さて、つらつらと長く書いてしまいましたが、新布陣や新メンバーについて、個人的には手応えを強く感じました。選手たちもできる限りのことを尽くした試合だったと思います。それだけに今回の敗戦は悔しくて悔しくて仕方がありません。ロティーナ監督に「横浜FMは負けるのにふさわしい試合をしたと思いません。リーグの中でも、プレーの面で私が一番好きなチームの1つです。」と仰っていただけました。我々のアタッキングフットボールは自信を持っていいと思います!新加入選手たちは実戦で色々覚えてもらうしかありません。次の名古屋戦、敗けの連鎖を断ち切るべく、心して臨みましょう!

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