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【2019 J1 第27節】ベガルタ仙台vs横浜F・マリノス ゆるれびゅ~

1.はじめに

 前節、難敵広島を3-0で粉砕し、優勝戦線に生き残ったマリノス。3連勝の勢いそのままに今節も勝星を挙げたいところ。次の相手はベガルタ仙台です。リーグは中断期間を挟みましたが、この試合の3日前に天皇杯で鹿島と戦い1-4の大敗を喫してしまいました。中2日でアウェイ連戦というボロボロの状態。残ったコンペティションはリーグ戦のみ。何としても勝利を目指したいマリノス。大事な試合を振り返っていきましょう。

 通常レビューは以下になります。

2.スタメン

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■ベガルタ仙台

・布陣はいつもの4-4-2
・右サイドバックに蜂須賀ではなく大岩が先発

■横浜F・マリノス

・出場停止の喜田とティーラトンに代わって皓太と高野が先発。高野おかえり!
・パギが怪我から復帰。おかえり!
・左ウイングはマテウスが先発 #マテイケ

3.仙台の守備方法 ~とにかく中央を通行止め~

■最初の砦 ~畠中とチアゴを放置プレイ~

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・2トップは扇原と皓太を背中で消す。畠中とチアゴは放置プレイ
・マルコスはボランチのどちらかがうまく受け渡して対応
・関口と道渕は松原と高野をストーキング
・永戸と大岩はエリキとマテウスとランデヴー
・仲川はシマオではなく平岡の方へいくことが多かった #マテコワイ

 仙台の守備は対マリノスに特化していた印象があります。2トップは背中で皓太や扇原を消すことを優先。前にいる畠中やチアゴは放置プレイ。「まぁあの2人に持たせるならいいだろう」という心の声がこちらまで聞こえてくるようです。更にマルコスも相手ボランチの監視対象に。富田と松下がうまく受け渡し、どちらかが必ず見ている状態をキープしました。

 その結果、中央が消されてしまいましたので、「じゃあサイドに出せばいいや」ということで外に目を向けてみます。松原と高野は関口か道渕にストーキングされ、エリキとマテウスは永戸と大岩でランデヴー。まぁとにかく捕まることが多かったということです。それでも中央よりは手薄なので、守るべきは中央、相手はサイドに追いやる。という狙いを強く感じました。

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前にいる選手が十分なら百姓一揆モードへ突入して反乱を起こす
・ボランチも一揆に参加するが、片方は必ずお留守番してマルコスを監視
・空いたもう片方のボランチへはサイドハーフが特攻

 しかし引っ込むばかりでなく、機を見計らって前にどんどん出てくることもありました。その条件は十分に人数がおり、相手を囲えるときになります。

 百姓一揆モードに突入する合図は2トップのどちらかが畠中やチアゴに襲い掛かったとき。「反逆のときは今だ!行くぞー!」と特攻。これに後方が続く形で続々と一揆に加勢します。ただし、ボランチの片方は必ずお留守番。というのも、敵軍筆頭武将であるマルコスを監視するためです。反乱は計画的に。足りないところは逆サイドにいる選手を相手にぶつけ、安全に一揆を引き起こしていました。

■押し込まれてからの守備 ~シマオにマテさせて中央封鎖~

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・2トップが戻って扇原や皓太を監視
・サイドバックとセンターバックの間は前線の選手が埋める #マテシマオ
・エリキやマテウスは怖いのでなるべくサイドハーフが戻って1対2にする
・中央はマテしてるシマオを中心にボランチと共に固める

 相手の守備をかわして前進したとき、仙台は撤退した守備に切り替えます。

 まず2トップは後ろに戻り、扇原や皓太を監視。サイドバックは引き続きウイングであるマテウスやエリキをマークします。そうするとセンターバックとの間が大きく開きますが、そこは道渕や富田など、中盤の選手たちを戻すことによって対応してました。これによってシマオをマテしているので、ゴール前も分厚い状態をキープできています。そこも締め、堅牢なバスを停めていました。

 しかも外にいるエリキやマテウスには万全の体勢を敷くため、1対1の状況はなるべく避けます。関口や道渕が素早く戻り、人数で有利な状況を作り出して対応。この守備にマリノスは大苦戦してしまいます。

4.事故のような先制点 ~扇原の粘り勝ち~

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 そんな仙台の堅い守備を事故的に崩し、先制点を得ることができました。

 扇原がパスを受けるもトラップが大きくなる。ハモンがそれを掻っ攫おうとするも、こちらもトラップが大きくなる。再び扇原がボールを奪う。というキャッキャウフフな展開から始まります。ハモンがボールを奪った瞬間、「これは取れるぞ!出足早くしてカウンターだ!」と道渕と富田が前進。しかしハモンのトラップは大きくなり、「取れないんかーい!」とツッコミを入れるも、扇原は無慈悲にマテウスへパス。

 こうなると大岩はマテウスと高野の2人を相手にしなければなりません。内側を上がっていた高野にマテウスがパスをつけ、当然のようにかわします。こうなると高野を放っておくことはできません。中にいたシマオが外に出て対応。横浜のマテイケに続き、仙台もマテイケ状態です。しかしシマオが出ると中央が手薄に。松原へのパスコースが空いたのでそこへクロス。ダイレクトで放たれたシュートは仙台ゴールに突き刺さりました。今シーズン陽の目を浴びなかった両SBによるゴールとアシスト。思わず目頭が熱くなりました…

5.マリノスのパス繋ぎ ~急がなくても回るしかない~

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・扇原が下がって畠中とチアゴを手助け。3人で頑張ろう!
・高野は最初から高い位置に出るも道渕に捕まってしまう
・逆の松原も関口がゲット
・皓太は2トップが交代で張り込み。徹底監視にあう
・その結果、隣人宅全て相手選手がいるのでマルコスがヘルプに入る
・マルコスが下がったので仲川は最前線でボッチ

 マリノスのパス回しはまず、マリノス苦労屋支店(中盤)から扇原店長がヘルプにくるところから始まります。畠中やチアゴと一緒にお客さんであるハモンと長沢をお出迎え。相手より人数をかけた手厚い対応でしたが、これにより苦労屋支店は皓太だけに。横にいる松原は関口に捕まっていますし、高野は最前線にあるブラジル支店に出張。中盤へのパスコースが全て遮断されてしまいました

 これを見かねて助けにきた男が一人…そうです、我らがマルコスジュニオールです!マルコスは中盤を助けるために下がってきてボールを受けます。これによって1つ前に進めることはできますが、相棒だった仲川とは遠距離恋愛に…中々連絡がつかず、仕方なく近場のエリキやマテウスにパスを送ることが多かったです。

 このように、中央は相手に封鎖され、外側でしかボールを回すことができない状況でした。

■前半のパスマップ

 では、実際パスはどこを回っていたのでしょうか。前半10~30分までの成功パスに関しまして、パスマップを作成しました。右が選手がパスを出した合計本数。下が選手がパスを受けた合計本数になります。また、選手の位置は前半の平均ポジションになります。

パスマップ_10_30min_data

パスマップ_10_30min

 マテウス、高野、畠中、チアゴ、松原への矢印が大きくて濃いことがよくわかります。こうして図にすると外側で多くパスを回していたことが一発ですね…この形から、外側のみで回すことをU字で回すと言います。前半はマリノスの方にだけ、U字工事が営業にきていたようです。

 この結果、相手の中央封鎖を破ることができず、外回しになったという印象は事実だったと裏付けされました。

6.仙台の攻撃方法 ~強力2トップによる空中戦殺法~

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・2トップに長いパスを送ってカウンター開始
・ハモンや長沢は必ず中央で競り、畠中とチアゴを中央に釘付けにする
・道渕や関口の上がりも早く、スッカラカンなサイドを狙う

 仙台の攻撃はハモンと長沢のツインタワーを活かす空中殺法でした。ボールを奪ったら2トップにたかーいボールをズドーン!それを空中からバシーン!と地面に叩きつけ、後ろから上がってきた道渕や関口に繋ぎます。マリノスのサイドはガラ空き。そこ目がけて特攻することが仙台の狙いです。

 この攻撃のポイントは、2トップは絶対に中央で競ることになります。なぜマリノスの弱点であるサイドにいかないかというと、チアゴとの駆けっこ勝負になると分が悪いからになります。それなら中央で競り合って相手を真ん中に釘付けにする。そうするとサイドは必ず空くので、あとから入ってきた道渕や関口がそこに飛び込むことで効果的に攻めることができます。タイミング遅れて後ろからなので、オフサイドにもなりにくいですしね。このカウンターは実に曲者でした。

7.スタッツ比較 ~数値に聞いてみようのコーナー~

 対マリノスをガッツリ準備してきた仙台に大苦戦。何となく「うまくいかないなぁ」と感じることはできても、「どこが悪かった?」と聞かれると答えに窮してしまいます…そんなときは人間の印象とかを全て吹き飛ばしてくれる、スタッツと呼ばれる試合の各種数値記録を見てみましょう。今までの試合の平均とこの試合における以下の数値を比べてみました。(データ元:sofascore

・得点数
・失点数
・ボール保持率
・シュート数
・パス数
・ロングボール数
・クロス数
・デュエル勝利数(1対1の勝利数)
・空中デュエル勝利数(空中戦1対1の勝利数)
・走行距離
・スプリント回数

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 「点が取れなかっただけで大体同じじゃん!」これが最初自分が見た感想でした。ただよーく見てみると、ロングボール数が増え、デュエル勝利数(1対1の勝利数)が少なくなっていることがわかります。これは「1対1で仙台の選手たちに負け、なぜかわからないけどロングボールを蹴る回数が増えた」ということになるでしょう。

 しかし、これだけではあまりにも大雑把だ…よくよく思い起こせばこの試合、前後半で形成が大きく変わったような気がします。そこで、両チームの前後半における以下の数値を比較してみました。(データ元:sofascore

・ボール保持率
・シュート数
・パス数
・パス成功率
・ロングボール数
・ロングボール成功率
・デュエル勝利数(1対1の勝利数)
・空中デュエル勝利数(空中戦1対1の勝利数)
・クリア数

■横浜F・マリノス

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■ベガルタ仙台

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 互いに後半のシュート数とクリア数が極端に多くなったことがわかりました。振り返ると、後半は「いけー!」シュートドカーン!!だったり、「なにをぉ!そんなの跳ね返してやる!」クリアボーン!!みたいな展開が多かったような…

■マリノスの後半パスマップ

 後半の変化を確認するため、今度は後半50~70分までの成功パスに関して、パスマップを作成しました。ポジションは筆者の感覚の元、なんとなく配置してみました。

パスマップ_50_70min_data

パスマップ_50_70min

 前半は「ごめんねごめんねー↑」という見事なU字工事でしたが、後半彼らはお呼びでなかったみたいです。パッと見てわかるように、マテウスへのパスやマテウスからのパスが増えています。また、前半は周辺がきれいさっぱりしていた仲川やエリキの周りも色付くようになり、前線へよくボールが入るようになったことがわかります。

 さて、ここまできたら何となく掴めましたね。要はこういうことだったのだと思います。

 居酒屋にて、前半は互いに「いや、私サラダだけでいいから」とか言ってカロリー控えめで飲んでいましたが、酔いが回るにつれて満腹中枢が崩壊。「私唐揚げ食べたい!」、「俺チャーハン頼む」、「いやいやいや、ここは明太もちーずグラタンでしょ!」、「もうステーキ頼もうよ!」、「「全部頼むか(笑)」」。といった具合にガッツリ料理をこれでもかというほど頼んでいたのだと思います。そりゃまぁ互いに胃もたれしますよね…選手の動きも段々鈍くなってスペースがどんどん出来上がるわけです…後半大雑把になりすぎて、食事(サッカー)のコントロールができなくなったことがうまくいかなった要因ではないのでしょうか。

8.仙台の放り込みと空中戦について

 では早速、うまくいかなかった要因の片方であるロングボールついて見ていきましょう。そしてこれとは切っても切り離せない空中戦戦績も併せて見ていきます。(データ元:sofascore

■仙台の総ロングボール数と内訳

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■仙台の成功ロングボール数と内訳

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 まずは誰がロングボールをよく蹴っていたかを確認します。当然と言えば当然なのですが、やはり後方の選手が多いですね。これは成功本数も同じ傾向です。

 後半になって仙台のロングボール成功率がググっと上がったことと、マリノス選手たちが食いすぎにて胃もたれしていること。この2つのピースから見える答えは!?「マリノスの選手が疲労し、相手ディフェンダーにプレッシャーをかけることができなくなったので、自由にロングボールを蹴れるようになった」ということなのでしょう。これにてファイナルアンサーです!

■空中戦対人勝利数

 ロングボールがめっちゃ蹴られるようになった原因はわかった気がします。ではその後大事な空中戦の勝率はどうだったのでしょうか。以下の条件に沿って、この試合を通し、空中戦で対決した選手同士の勝利数を数えてみました。

・コーナーキックやフリーキックなどのセットプレーは含まない
・仙台陣営からマリノス陣営に向けて蹴られたロングボールの競り合いをカウント
・先に触った方を勝者とする
・どちらが触ったかわからない場合は、こぼれ球を回収したチームを勝ちとする
・オフサイドになったものはカウントしない
・ファールになった場合は被ファール側を勝者とする

空中戦対戦成績

 青色がマリノス側、黄色が仙台側の勝利数となります。

 「ハモンめっちゃ強っ!?」、「長沢の高さ反則的強さ」とか思っていましたが、意外や意外。全体で見ると勝率は五分でした。ハモンと長沢の2人で分けて見ても五分。案外我ら競り勝てていたのですね。

 しかし逆に考えてみてください。この空中戦で負けるということは、すなわちカウンターが開始されるということです。つまり、50%の確率でマリノスはカウンターを受けていたことになります。そう聞くと高い確率のように思ってしまいます。消費税も最初は3%だったのに、今や10%は高いですよね!うん、全然関係ないや(笑)

 最後に、空中戦に限らず、各々の1対1はどれだけ勝っていたかを見ていきます。空中と地上に分け、先発メンバーについてマッチアップした人同士を比較してみました。なお、1対1が発生していない選手もいましたが、そういった選手は勝率0%として表記しています。(データ元:sofascore

■空中での1対1勝率

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 ■地上での1対1勝率

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 パッと見てわかります通り、大体負けています…特に仙台2トップの勝率は空中、地上共にすさまじい高さを記録していました。先ほどの空中戦勝率と合わせ、いかに苦しめられたかがわかります。

 マリノスでポジティブな要素はマテウスめちゃ強なことでした。空中でも地上でも、対面する大岩に圧倒的な勝率。もう我々マテイケおじさんになるしかないですね!しかし突破するのはいいものの、その後が続きませんでした。その要因は何だったのでしょう?

9.うまくいかなかった左サイド

 ということで、まずはチーム全体として、どのくらいクロスを上げていたかを見ていきます。(データ元:sofascore

■マリノスの総クロス数と内訳

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 マテウスと高野、2人足して全体の40%と、左サイドからのクロスが多かったことがわかります。マテウスだけに絞っても30%の数字!しかしこの試合成功したのは、エリキと高野の2本だけ…そうなんです。マテウスのクロス成功率は0%…悲しいけどこれ事実なのよね…

 なぜこのような報われない結果となってしまったのでしょうか。この試合の左サイドにおける展開に注目してみます。

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扇原「さて、外にボールが渡ったな。じゃあここから崩しm…」
マテウス「マテいくぞー!!」 #マテイケ
マルコス「え!?もう仕掛けるの!?」
高野「しかも抜き切っちゃったし!?」
マテウス「クロスいくぞー!!」#マテアゲチャウ
エリキ「えっ…ちょっ待っ…まだ逆サイドにいるんだけど…」
仲川「おい、ちょ、待てよ」 #テルタク

 いつも通りボールが渡るのは外側なのですが、仕掛けるタイミングがいつも通りではありませんでした。渓太は中とのコンビネーションを挟むことが多いので、この日も左サイドのみんなはペナルティエリア角に入ろうとします。しかしマテウスはそんなことお構いなしに仕掛けて抜き去ることが多かったです。そこまでいくともうクロスが上がってくる。いつもより1テンポも2テンポも展開が早いため、仲川やエリキも準備ができていませんでした。このタイミングのズレがクロス成功率が低かった原因だったように思います。

 これに対して、「マテウスもっと遅いタイミングで入れてくれれば…」と一方通行の要求はよくないでしょう。ボールを受ける側も「マテウスならこのくらい早くくるでしょ」といった具合に歩み寄る。それが男同士の堅い友情ってもんじゃないですか!(もちろん女性もそうですよ!)これから時間をかけ、相互理解を深めれば解決していく問題だと思います。

10.スタッツ

■トラッキングデータ

■チームスタッツ

11.おわりに

 やりたいことと書きたいことがあまり整理できずに全て盛り込んだ結果、かなりなボリュームとなってしまいました…ここまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございます。

 この試合はスタッツが示す通り、ボールを握る時間は多かったです。それでも監督は「試合をコントロールできなかった」と言及しています。このことから、「ボールを保持すること」≠「試合をコントロールすること」が監督の考えだとわかりました。自分としても同じ感想で、試合の主導権は握れず、仙台がやりたい方向にお付き合いしてしまったように感じます。

 特に後半は前線のブラジリアントリオの疲労により、60分ごろからずっとオープンな展開になっていました。後半70分ごろ、仲川は前線の3人が戻らないので自分が下がって相手からボールを奪取。その後左サイドを駆け上がり、無理をせずにストップ。この行動はチームがどうすべきかを体現していると思います。前線の選手に対しては「もっと戻って守備をしてほしい」、チーム全体に対しては「無理に攻めず試合を落ち着かせて主導権を握りたい」ということを伝えたかったのではないでしょうか。この試合の仲川は影のキャプテンだったように感じました。

 次はジュビロ磐田が相手になります。またしても4連勝はできませんでしたが、切り替えて次は勝利を掴めるように準備をしていけたらなと思います。


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