【2020 J1 第22節】ガンバ大阪vs横浜F・マリノス マッチレビュー
1.はじめに
前節ようやく勝つことができ、ここから波に乗りたいマリノス。しかし、相手は6連勝中と絶好調のガンバ大阪。上位進出を懸けていることもあり、互いに勝利が欲しいです。開幕戦とは大きく変わった両チーム。どのようなぶつかり合いになったか見ていきましょう。
2.スタメン
■ガンバ大阪
・4-4-2の布陣
・小野瀬がアデミウソンに代わって先発
・開幕戦いなかった昌子が先発
■横浜F・マリノス
・4-3-2-1の布陣
・喜田が出場停止なので和田がアンカーに入る
・チアゴがベンチ外
3.互いのポイントはサイド
■互いに気になるのは同じエリア
【POINT】
互いに空くのはサイドの選手
ガンバは4-4-2でブロックを組むゾーンディフェンス。マリノスのサイドバックはウイングバックのように振る舞うため、相手サイドハーフとサイドバックの中間に位置する。するとここがファジーになるため、誰が捕まえるかハッキリさせる必要があります。
対するマリノスは人を捕まえにいく守備。目の前にいる相手に当てはめていくと、こちらもサイドが空くことに。マリノスの3トップは前に出ていくため、どうしてもボランチ脇が空いてしまいます。そこをどうカバーするか工夫しないといけません。
互いに空くエリアと使いたいエリアは同じ。ここを制する方が試合を制するでしょう。
■ガンバの素早いスライド
・中盤が後ろ向きのとき、サイドバックは前に出ていかず戻りを待つ
・中盤が前向きのときは、サイドバックが前に出て迎え撃つ
ゾーンで守るガンバはスライドで対抗。こちらのサイドバックにボールが渡ったとき、対応するのはサイドバックの選手。ただ、闇雲に出ていくわけではありません。基準は中盤が準備できているかどうか。
プレスに出たけどかわされてしまう。こうなると、中盤は戻りながらの守備になるので、サイドバックが前に出ると後方が同数に。突破されると危険な状況になるので、この場合は前に出ることをやめます。ラインを下げつつ、味方の帰陣を待って安全に対応。反対に、待ち構えている状態でサイドに展開されたときは飛び出します。自分が空けた位置をボランチがカバーできるので安全な状態。
とにかく、一番後ろで数的優位を作る安全な守り方を心掛けていたように思います。マリノスのフォワードはスピードとテクニックがありますからね。福田と高尾の両サイドバックは、この判断をほとんど間違えませんでした。サイドハーフのアラートも洗練されており、マリノスのサイドバックにパスが出そうになるとすぐに半身に。戻る準備をしてからの対応なので、帰陣も早かったです。
これを90分間続けたガンバ。相手の戻り速度を中々上回ることができず、マリノスがカウンターを決めた回数は非常に少なかったです。ほんとカッチカチの守備でした。
■密集することでボランチが空く
・内に絞ったサイドハーフにボランチがつく
・高く上がったサイドバックにサイドバックがつく
・3トップは前に出るため、ガンバのボランチが空く
ガンバはサイドハーフが内側に絞り、外側をサイドバックが駆け上がるという攻め方が基本です。これをマリノスに対して行うと、ちょうどボランチが捕まえられないことに。PKになったのもこのような状況でした。スペースや時間があったので、井手口から良質なボールが飛んできたのでしょう。
このボランチはいい逃げ道になります。前にボールが繋げないときはそこへ下げ、逆サイドまで展開できる。相手が前からくるなら、一旦外に食いつかせて中に逃がす。ガンバがボールを保持できてのは、ここが空いていたからでしょう。
今のマリノスは、シャドーが外に開いて守備をしません。初めてアンカーに入った和田は、この試合では5バックになることを優先してプレーしていました。そのため、ガンバの中盤4人を捕まえるのは、ボランチ2人の役目。マリノス対策としてガンバが実行したというよりは、両チームがいつも通り振舞った結果こうなったのでしょう。
4.前には進めないけど安定はしている
■前線で時間を作れないマリノス
柏戦でも書きましたが、マリノスのビルドアップは後ろで作って最前線に刺すものになります。パスを出すまでは後ろに人数をかけるため、位置が低いです。この試合で言えば、前の3トップ、後ろの7人といった具合にです。なので、縦パスを刺したとき、前線でキープできないと上がる時間が作れません。
いつもならサントスがでたらめな身体能力で何とかしてくれますが、この日は昌子にほとんど跳ね返されてしまいます。マルコスやエリキも単独ならなんとかなりますが、ガンバは数的優位を意識しているので、2人以上を相手することに。この試合では3トップで時間を作ることができませんでした。
また、守備が5バックベースだったことと、ガンバのプレスがきつかったこと。この2つが重なり、基本的には和田が下りてボールを回すことに。後ろに重い状態でボールを奪われると、前にいる相手へのアプローチに時間がかかります。この場合は山本に余裕がある状態でした。
攻守の切り替えが早かったガンバ。マリノスが盤面を整える時間をあまり取れなかったため、攻守に渡って5-2-3のような形が長い間続きます。これがこの試合、前後で分断した理由だったのでしょう。
■本来やりたかったことができない
この試合、なぜ和田がアンカーなのか。そして、エリキとマルコスの位置が逆なのか。これがずっと疑問でした。もしかすると、こういったことがやりたかったのかもしれません。
ガンバはサイドを狩り所としており、そこへボールが入ったときは周囲の選手が圧縮して取り囲む。つまり、サイドバックは前向きのベクトルが強まります。なので、その背後を使えたら面白いと考えたのかもしれない。こう捉えると、そこへの飛び出しが得意な扇原を起用したのは頷けます。天野でなかったのは、守備の優先度のためでしょう。また、エリキはゴールへまっすぐ向かう習性があります。彼を配置することで、センターバックを留めることができるはず。こうして急所を突きたかったのかもしれません。
しかし前述した通り、前で時間が作れないので、そもそもこの状況までもっていくことができない。そこでマリノスが取れる方策としては、『相手が戻る前に、前線の3人で攻撃を完結させてしまう』くらいしかありません。これが選手交代しづらかった要因の1つでしょう。
交代選手に求められるのは、スピードと独力での突破力です。この日のベンチで該当するのは大然だけでしょう。そもそも時間を作って攻撃できないので、クロスが武器の宏太は効果的ではない。周囲との関係性の中で輝くオナイウやエジガルも使いにくい。難しい状況だったと思います。
■動かしづらい盤面
後ろに重くなったマリノスですが、悪いことばかりではありません。5バックとボランチが押し込まれているので、後方は人数が十分な状態。攻められながらも1失点で抑えられたのは、この分厚い守備も影響していたはず。
交代で天野を入れてもよかったかもしれませんが、そうすると守備バランスが崩れかねない。リスクを負って得点を奪いにいくよりも、今できている均衡の中勝負を仕掛けたい。この試合におけるボスの考えはこのようなものだったのかもしれません。
そして、守備面で動かしづらかったのはガンバも同じ。この試合のポイントはサイド。サイドハーフとサイドバックは阿吽の呼吸で互いに誰を捕まえるか対処できていました。ここを交代させると、スムーズにいっていた守備がぎこちなくなってしまうかもしれない。2トップの交代はそこまで影響を及ぼさないですが、倉田の交代はかなり勇気がいるものだったでしょう。
5.スタッツ
■sofascore
■SPAIA
■トラッキングデータ
6.おわりに
まさか前日おしゃべりしたFoolManSayでozamendiさんの投げかけた問いがそのまま試合に表れるとは…
・相手のWGがマリノスのWBをピン留
・ボランチの脇を使われる
こういう相手にたいしてどうすべきか
喜田がいたらどうだったのか。という考えをしてしまいますが、恐らく状況が大きくは変わらなかったでしょう。というのも、これは互いのやり方をぶつけた結果、自然発生したものでした。個人単位ではなく、チーム単位のやり方に起因しているものなので、個人では劇的な変化が見込めないからです。
やりようがあったと思うのは、サイドハーフが絞った場合、和田が前に出てマークするということくらいですかね。こうすると、片方のボランチが空くので、その分を前に出すことはできます。ただ、和田はあのポジションをやることが初めてなので、そこまで求めるのは酷でしょう。
サイドに何度も振ることで、相手のスライドが追いつかないようにする。(実際最後まで追いついていましたが…)相手が戻るスピードを上回る速度で縦に仕掛ける。コンディションを考えても、やれることはやりきったい印象です。そこで互いに大きなリスクを冒さなかったのでこの結果になった。妥当な引き分けだと思います。
さて、相手のやり方を考えても、セレッソ戦も似たような展開になることが予想されます。この試合から選手たちが何を学び、そして、どのような工夫を見せてくれるのか。今から楽しみで仕方がありません。