【EUROJAPAN CUP 2019】横浜F・マリノスvsマンチェスター・シティゆるれびゅ~
1.はじめに
いよいよこの日がやってきました…!CFGの総本山、マンチェスター・シティとのフレンドリーマッチです!!アンジェと共に作り上げたアタッキングフットボールがプレミアリーグ王者へどれだけ通用するのでしょうか。ワールドクラスの選手やサッカーを目にする楽しみと共に、自分たちのサッカーがどこまで食らい付けるのかということも楽しみでした。久しぶりに超満員となった日産スタジアムでの試合。振り返っていきましょう。
通常レビューはこちらになります。
2.スタメン
■横浜F・マリノス
・シティ相手にもマルコスシステム
・エジガルの負傷により、マルコスが1つ前、三好がトップ下で先発
■マンチェスター・シティ
・傑志戦と変わり、左サイドバックにジンチェンコ、アンカーにロドリが先発
・帯同メンバーから考えてベストメンバーで臨む
3.シティの守備~二刀流と罠への誘導~
試合が始まってすぐ、後ろでボールを相手に奪われてしまいました。「こんなにあっけなく奪われたのはかなり久しぶりじゃない?これが世界か…」レベルの違いを目の当たりにし、これはきついか?と感じてしまいました。
こちらは開始直後、パギから喜田へのパスをサネにかっさらわれたシーンになります。
畠中からパギにパスを送ると同時に「うおおお!ボールを奪うぜ!」と寄せてきたベルナルド。これが猪突猛進でなく、ちゃんと畠中を背中で隠しながらくるあたりすごいなと…もちろん狙っているんでしょうが、半分くらい無意識にやってるんじゃないんですかねぇ…反対側にいるチアゴもシルバに見られて ”両手にシルバ” なパギ。「左にはシルバ…えっ!?右にもシルバ!?空いてるとこは…おっ、いつもならその距離キー坊いけるでしょ!」唯一のパスコースである喜田へパス。しかしそこで待ち受けていたのは広瀬と喜田の間にいたサネ。「フハハハ、真ん中にいるから俺は1人で2人を見れるぜ!」どちらへきても対応できる位置にいたサネにパスを取られてしまいました。この ”二刀流の守り方” にマリノスは大変苦しめられました。(ほら、二刀流って大谷翔平とか宮本武蔵とか、何か強そうな人たちばっかじゃん?)
こちらは前半25分ごろのシーンになります。
「スターリング!こっちこいよー、こっちこいよー!!」 パギと畠中で辛抱強くパス交換してスターリングを引っ張りました。デブライネは扇原にマーク、ベルナルドは三好を気にしていたため、ティーラトンにつく選手が誰もいませんでした。そんな状況を全自動縦パスマシーンの異名を持つ畠中が見逃すはずがありません。フリーなティーラトンにパスを出し、余裕のターンで前を向いた…と同時にものすごい勢いでロドリがカバーにきました。「手薄な中央はダメええええええ」中央へのコースを消して味方がたくさんいる外側へ誘導してきました。この猛烈なアプローチにティーラトンもたじたじ。結局外側にいる渓太にパスを出し、ボールは三好を経由して畠中まで戻されてしまいました。
ボールを受けた畠中は「今度は逆サイドに揺さぶってやる」とチアゴへパス。「外側だけは絶対通行禁止なんだ!!」別に中を通されてもいいというくらいの勢いで、サネが広瀬へのパスコースを消してきました。「外がダメなら別に中央に出すよ」チアゴは中央にいる喜田へパス。しかしこれこそシティの罠だったのです。喜田の周りには、スターリング、ロドリ、二刀流の構えをしていたシルバが囲うように位置していました。「今です!」某軍師のセリフが聞こえてきそうなこの状況でボールを取るべくダッシュしてきたのはデブライネ。ボールを奪いましたが喜田が倒れてファールとなりました。これに救われましたが、相手を包囲網へ誘導し、伏兵であるデブライネがボールを奪うシティ狙い通りの守備だったでしょう。
4.マリノスの守備とシティのいなし方
翻って、今度はマリノスの守備を見てみましょう。こちらはどうかというと、相手選手1人に対してこちらの選手1人が特攻していく、刀1本で戦うようなスタイルでした。サシでやり合うのは実に男らしいのですが、味方が揃わないと空いてるとこを使われ回避されてしまいます。こちらの勢いに気圧されて相手がボールを失うことがありましたが、こちらが出揃わずにいなされることもありました。
■パターン1~逆サイドへのレーザービーム~
こちらは前半1分ごろのシーンになります。
ボールを持ったストーンズに特攻したのはマリノスの若獅子である渓太でした。中央は三好がロドリにマーク、後ろのブラボはマルコスが警戒していて出せない状態。「前も後ろも詰まってるか…ん?逆にいる選手がラポルトを見てるな。となるとその先は…おっ!ジンチェンコがフリーじゃないか」仲川がラポルトを気にしていたため、逆サイドにいたジンチェンコの周りには人がいませんでした。ストーンズはそこへ向けてレーザービーム!しかし危険を察知した広瀬が飛び出してきました。それをかわすため、ジンチェンコはレーザービームを鏡で跳ね返すようにダイレクトでシルバへ。それをさらに跳ね返してサネに繋げようとしましたが、これがミスキックになってしまいました。
このストーンズからジンチェンコへのレーザービーム(ストーンズビーム)はこの試合何回か見ることができました。解説員の戸田さんも言及されていましたが、これは練習していたパターンだったそうですね。事前にマリノスを分析し、狙うことを練習に落とし込むペップと、それをしっかり実践できる選手たち…これが世界なんですね…恐るべし…
■パターン2~急がば回れの法則~
こちらは前半2分ごろのシーンになります。
マルコスがラポルトへ詰め寄りますが、ラポルトはストーンズへパス。またもや渓太が駆け寄ってきます。しかもウォーカーへのパスコースを消しながら。しかし今度はロドリが三好の死角を突き、中央でフリーな状態でした。「外が塞がれているなら中を経由してそれを無効化してやろう」ストーンズはロドリにパスし、そこからウォーカーへ繋げることができました。1本のパスで目的地にいくのではなく、1つクッションを置いたこのパス回しも、解説員の戸田さんによると練習で見られた光景だったらしいです。事前にマリノスを(以下略
5.シティのビルドアップ
基本的にはマリノスが空けたスペースを整わないうちに狙うため、素早く縦に展開することを狙っていたシティ。一番注力することはやはりゴールなんですね。ボールを保持するのはその手段であって、より効率的にゴールに迫れるのならそちらを取る。この柔軟性は非常に勉強になります。その一例をご紹介します。
こちらは前半8分ごろのシーンになります。
「ここで俺たちがボールを取るんだ!」 仲川と広瀬がジンチェンコへ寄せてきました。マルコスもラポルトを気にしている様子。「狭いけど、強めに蹴れば何とか通せるはず。ロドリさん!オナシャス!!」狭い隙間を縫うようにロドリへパスを出したジンチェンコ。「後ろからきてるからターンはできないな…一旦後ろに下げよう」ボールを受けたロドリは冷静にブラボへ落とす。ブラボはストーンズへパスを出しますが、三好や渓太が迫ってきていました。しかしその程度ではプレッシャーにならないのか、正確なパスをデブライネにつけます。彼の目に映るのはシティとマリノスの人数が同じな前線の選手たち、しかもベルナルドはティーラトンの裏を取っている。「チャンス!今のこの状況、1秒たりとも出遅れちゃならない!すぐにパスだ!」すかさずベルナルドの前方へスルーパスを送ったデブライネ。
マリノスが狙った右サイドでボールを奪うことができなく、大きく外を回って最後は反対サイドにボールを出したシティ。これほとんどダイレクトでパスしているので、マリノスの選手が戻る前に逆サイドに運べているんですよねぇ…遠回りして作った優位な状況を失う前に活用した場面でした。
6.マリノスのビルドアップ
しかしマリノスも負けていません!相手の守り方に慣れたことと、段々疲弊して寄せが甘くなったこともあり、時間が進むにつれてボールを前に進めることができるようになっていきました。
■ポジション入れ替えぐーるぐる
①扇原はティーラトンへパスすると共に前進
②ボールを受けたティーラトンは畠中へ落として後方へ下がる
③畠中は上がってきた扇原へパス
こちらは後半45分ごろのシーンになります。
最初は後ろにいた扇原からティーラトンへパス。これと同時に前に上がります。ボールを受けたティーラトンは後ろにいた畠中に落とし、扇原がいた位置に下がります。「あれ?相手の6番と5番、入れ替わってる!?」この動きにびっくりしたデブライネはどちらにつけばいいか一瞬迷います。「詰めればボールを取れる!」とベルナルドが畠中に寄せてきますが、前に出た扇原にパスをしてかわすことができました。
毎試合見ている我々にはお馴染みの光景となってしまいましたが、世界広しと言えども、このように最初からガンガンとポジションを変えるチームはめったにありません。ある意味初見殺しではあるこの不思議なボール回しでシティの選手たちを混乱させることができたのは見ていて楽しかった瞬間の1つでした。
■Wトライアングル~2つの三角関係に巻き込まれる畠中~
こちらは後半58分ごろのシーンになります。
畠中からパギへパス。追いかけてきたスターリングをかわすため、広瀬にパス。シルバが寄せてきたので広瀬は畠中に落とします。畠中、パギ、広瀬の三角関係に振り回されたスターリングとシルバをかわすことに成功しました。
ボールを受けた畠中にベルナルドが寄せてきましたが、中央にいるティーラトンへパスして回避。「うわっ!?後ろから何かきた!?」デブライネの猛烈な寄せにびっくりしたティーラトンは扇原へのパスをミスしてサイドラインを割ってしまいました。今度は畠中、ティーラトン、扇原の三角関係により、ベルナルドとデブライネを振り回して回避しようと試みました。
バミューダトライアングルを作って相手を行方不明にさせる方法を取ったマリノス。しかも魔の三角形2連星という鬼畜っぷり。フィールドに図形を描き、見事相手をかわせそうな場面でした。
■助演男優賞W受賞
こちらは後半59分ごろのシーンになります。
扇原から中央にいる三好へのパスがこぼれ、拾った大津から大きなチャンスに繋がったこの場面、そこに至るまで地味な動きが2つありました。1つ目は広瀬が外へ動いてロドリを引っ張っていたことです。この動きによって扇原が自由にプレーできるスペースを作り出していました。2つ目は下がってくるラポルトを大津がブロックしたことです。この足止めにより、ラポルトの対応が遅れ、ボールがこぼれたきっかけができたと思います。ホイホイ陸斗とパイセンブロックをかました両選手の影の働きは助演男優賞ものだったのではないでしょうか。
中央でボールを受けたティーラトンが気になるウォーカー。しかし外には渓太も走っている状況。「くそっ…どっちかに寄せたが最後、やられるぞ…!?」2人を見なければいけないために、動くに動けないウォーカー。ティーラトンは外を走る渓太へパス。相手の狭い隙間にクロスを上げて三好に繋ぎましたが、シュートは虚しく枠外に…このとき、戻ってゴール前を埋めていたストーンズが邪魔だったんでしょうね。ちゃんと戻るべき場所に戻っているのはさすがのプレーでした。
7.各得点の振り返り
この試合4つのゴールが生まれました。時系列ごとに振り返っていきます。
■シティの1点目~鷹の目を持つブラボ~
こちらはシティが先制点を挙げた前半17分ごろのシーンになります。
猛然とブラボへ迫っていく渓太。「渓太が前に出た。後ろも続いて前からボールを奪うぞ!」扇原もその動きに連動してウォーカーを気にしていました。その結果、ティーラトンの周りにはデブライネとベルナルドが位置し、1人で2人を見なければいけない状態に。「どっちにマークすればいいんだろう…」マークに迷うティーラトン。これを察知したのはなんとキーパーのブラボ。「見えた!あそこは味方の方が多い!」ティーラトンの後ろにお邪魔していたベルナルドへ正確なロングパスを出しました。
こうなるともう後手後手になってしまいます。戻ったティーラトンはベルナルドとデブライネの1対2にさらされてしまいました。手も足も出ず、外側を走るデブライネにパスを通されてしまいます。前に駆け出した勢いそのままなのに、畠中を切り返しでかわしたことや、利き足と逆なのに「あんな強いシュートがくると思わなかった」とパギに言わしめるほどのシュートを撃ったこと。世界レベルのスキルを見せつけられ、シティに先制点を挙げられてしまいました。
■マリノスの1点目~ちょっとした前のズレ~
①相手の間に侵入した扇原へパス
②ターンした扇原は三好へパス
③三好は持ち運び、裏抜けした仲川へパス
④シュートを2度ブラボに防がれるが、最後は渓太が決める
こちらは同点ゴールを挙げた前半23分ごろのシーンになります。
相手の間に入った扇原へ畠中がパス。華麗にターンした扇原は三好へパスを出しました。このとき広瀬が中央を駆け上がってジンチェンコの注意を引きます。その後ろ側でハマの新幹線が密かに発射していました。三好は後ろに抜けた仲川へパスを出し、それをシュート。ブラボに止められてしまいますが、こぼれ球はマルコスの元へ。再度シュートを撃つものの、またもや立ちはだかるブラボ。しかしこぼれ球は渓太の近くへ…これをズドンと決めた渓太。シティ戦でゴールを挙げたのは渓太でした!
このとき渓太がフリーだったのはボールがないところでのやりとりに秘密があります。ちょっと時間を戻してみましょう。畠中から扇原へパスが渡ったとき、ティーラトンを気にしてウォーカーが前進してきていました。前に1つマークがずれている状態。後方にいるストーンズは渓太が気になり、中央に寄りすぎることができません。この前へのずれによってウォーカーが戻るのが遅くなり、渓太がしっかりシュートを撃てる時間と空間ができていたんですね。
■シティの2点目~見えないとこからこんにちは~
こちらはシティが2点目を取った前半39分ごろのシーンになります。
「シルバ!いくぞ!ワンツーだ!」寄せてきた扇原をシルバとのワンツーでかわしたデブライネ。「やばい!戻らなきゃ!」喜田や渓太がカバーしようと動くものの、その速度を上回るデブライネはティーラトンの死角を取っていたスターリングの前方へスルーパス。右足アウトサイドで華麗なコースを描くこのパスは、さすがのパギも飛び出すことができませんでした。1対1をしっかり決められ、シティに勝ち越されてしまいました。
■シティの3点目~風林火山の極意~
こちらはシティが3点目を挙げた後半91分ごろのシーンになります。
「よっしゃー!前から奪うぜ!」と意気込んで包囲網を作ったものの、アンヘリーノの見事なターンによってかわされてしまいました。突破した彼の前に待っていたのは広大なスペース。「派手に飛び込んで相手をいっぱい釣ってやる!」ドリブルで中央に切れ込んできたアンヘリーノに反応したのは松原、槙人、康太の3人でした。これだけ引き付けられたら他はスッカスカ。中央でフリーなギュンドアンにパスを出され、そこから外にいるベルナベにパス。低いクロスを入れられ、最後はヌメチャに決められてしまいました。
アンヘリーノがドリブルしていたとき、康太と和田は急いで後ろに戻ったのに対し、ギュンドアンはほとんど動くことなくその場に留まっていました。自分が動かないことによって自由になれる状況を作り出す見事な動きでした。アンヘリーノの勢いのあるドリブル。動かないギュンドアン。どこか武田信玄の風林火山を彷彿させられますよね。
8.データ比較
この試合、リーグ戦と比較してどれくらいできたのだろうか?ということで、あくまで参考程度ですが、リーグ平均をsofascoreで出したものと、今回得られた以下のスタッツを比較してみました。
・ボール保持率
・シュート数
・パス数
・オフサイドを取った数
・コーナーキック数
青い線がリーグ平均、水色の線がシティ戦のものになります。
さすがにリーグ平均を上回ることはほとんどできませんでしたね。ただ、極端にグラフが小さいわけでもないので、ある程度はやれたと言えるのではないでしょうか。特にパス数はリーグ平均を上回ることができました。このことから、相手を押し込めたかどうかは別として、相手が強いからといってビビッてボールを放棄することなく、後ろから繋いで崩すという”自分たちのスタイル”を貫き通せたということは間違いなく言えるでしょう。
スコアの差としては決めるとこをしっかりと決めたか決めなかったかの差なのかと思います。最後の精度や工夫は今後のマリノスの課題と言えるかと思います。
9.試合記録
10.おわりに
世界を相手に戦ったこの試合、やれたこととやれなかったことがハッキリしたため、選手の自信に繋がった部分と、今後の課題として認識できた充実の内容だったと思います。
■できたこと
・”なぜそこ陸斗”に始まるポジションの概念がない攻め
・しんちゃんのえげつない縦
・テルのスピードでぶち抜けた
・渓太が初速で相手をかわせた
・パギルソンの恐ろしい速さの飛び出し
・フェルナンキーボーの華麗なターンや舵取り
・格上相手でも勇気を持ってパスを繋げること
・スターリングに後からヨーイドンでも追いつけたチアゴの異常なスピード
・高いラインと積極的な前からの守備を維持できたこと
■できなかったこと
・1対1でしか見れないハイプレスをかわされる
・二刀流を相手にしたときのビルドアップ
・人を見ないで場所を守る相手への攻撃方法
・ディフェンスラインの上げ下げのタイミング
思いついたものをざっくりとですが、まだまだあると思います。
ひたすら楽しかったこの試合。相手はプレシーズン。こちらはリーグ戦真っ最中と、コンディションに差があるとはいえ、思っていた以上によくできた試合だったと思います。中々相手は主力を下げなかったですし、ロドリ、ラポルト、ストーンズ、ブラボに関してはフル出場させることができました。ここで得たものを活用するためにも、次の清水戦に勝って4連勝することによって証明としたいですね。