音楽好きデザイナーが気になったアメリカとUKの現代ジャズ感想文(音楽月報 - 2017年3月号)
3月はネタがありません。そして、3月はとっくに終わってしまいましたが、なんとか書きます!
超簡略的アメリカ現代ジャズ入門
ここ数年「現代ジャズ」という新しいジャズに注目しています。現代ジャズという言葉の中には、R&B、ヒップホップ、エレクトロニックなどを中心に様々な音楽要素があり、ジャズという言葉だけでは括れない複雑さがあります。元々はネオ・ソウルというムーブメント、そしてロバート・グラスパーやその周辺のミュージシャン達が大きく関わっているようですが、その辺を詳しく知りたい方はJazz The New Chapterを読んでみてくださいね。
乱暴にまとめると、アメリカの現代ジャズは、
ブラックミュージック(R&Bやヒップホップ) + ジャズ
と言えます。(ジャズも黒人発祥の音楽ですが、わかりやすくイメージしてもらうために、ブラックミュージックとジャズを分けています。)
という事で、具体的に聴いてみましょう。ここでセレクトさせてもらった曲は、コモンの「Black America Again」。今の現代ジャズを象徴する曲の一つなのではないかと思います。コモンのラップに、ロバート・グラスパーのピアノ、スティービー・ワンダーもコーラスで参加していて、アメリカ黒人の差別の歴史を振り返りながらも、新たな決意と姿勢を表現した曲です。
ちなみに、この曲のピアノは、グラスパーがスタジオから帰ろうとしている時、コモンに「何か思いついたら今、弾いてくれ」と言われ、グラスパーはタクシーを外に待たせながら、急いで即興で弾いたらしいです。半端ないですよね。
もっと掘りたい方は、柳樂光隆先生の記事を読んでみてください。
ジャズミュージシャンが奏でる新たなヒップホップ - コモン<Black America Again>とロバート・グラスパーのピアニズム
さらに、コモンとグラスパーのクルー達は、なんとホワイトハウスでミニライブも行っています。こちらもめちゃくちゃ良いので、是非観てみてください。
最後に、現代音楽における黒人音楽の功績は本当に素晴らしいと感じています。黒人達は困難に合う度に、音楽という手法を駆使して世界を変えてきました。これからも音楽の分野で世界をリードしていくのでしょうね。
*
アコースティック・エレクトロニカ - UK現代ジャズの一例
一方、海を挟んだイギリスではブラックミュージック(ネオ・ソウル)再解釈派とは異なった形の現代ジャズがあります。
今回、紹介したいのが、GoGo Penguin。
GoGo Penguinは、マンチェスター出身のピアノ、ベース、ドラムとオーソドックスな編成のUKジャズトリオです。彼らは、クラシックやジャズをバックグラウンドに持ちながらも、エレクトロニックミュージックに多大な影響を受けているようで、美しいピアノの旋律の中に、どこかテクノやハウス的要素を感じさせます。また「アコースティック・エレクトロニカ」と称されており、生演奏でエレクトロニカを表現するのが特徴です。
これまでもジャズとエレクトロニカはたくさんのクロスオーヴァーを重ねて、トラックメイカーがジャズの音源をサンプリングしたりしてきたわけだけど、僕たちはそれを〈逆に〉やりたいんだ。つまり、エレクトロニカやポップスのサウンドを(ジャズ演奏に)サンプリングしていきたい。それが音楽の自然な関係性じゃないかな。
ゴーゴー・ペンギンが挑む、ジャズと即興の新しい関係―エンジニアも奏者と捉える挑戦的なバンド観を明かす
インタビューで語っていた、発言が非常に面白く思いました。リスナーとしては、言われないと気づかない視点かもしれませんが、新しい音楽というのは、こういう「考え方と方法論」の部分から生まれると思っています。そして彼らの場合、その「考え方と方法論」を圧倒的な演奏力で具現化できてしまう、そんな所が非常に稀有なトリオだと感じました。「アコースティック・エレクトロニカ」って言うは易く行うは難しの典型だと思います(似たようなバンドはわりとあるが、カッコイイバンドは少ない)。
そして、クラブで踊るのも大好きですが、なんだかんだ生演奏でしかもインプロヴィゼーションが入ってくる演奏が一番胸にきますよね。GoGo Penguin、とても良いバンドなので是非聴いてみてください。ジャケもクール!
GoGo Penguin - Man Made Object
あと、GoGo Penguinが気に入った方は、先月紹介したMammal Handsもオススメします!同じくピアノが特徴的なジャズトリオですが、異国の雰囲気が胸に来ます。
編集後記
最後になりますが、アメリカの現代ジャズとUKの現代ジャズでは、ビート感が全然違いますよね。アメリカは黒人的グルーヴというか、よれたリズムが特徴的ですが、イギリスの白人的なリズムはどこかタイトで緻密な感じがするかと思います。コードの使い方やメロディ感覚も違って、アメリカの黒いコード進行に対してUKは、どこかクラシカルで情緒的なメロディ。
同じ現代ジャズの中でも、全く異なった音楽的枝葉が別れています。そんな箇所を意識して、音源を聴くと面白い気づきがあるかと思います。
「現代ジャズ」という未だラベルを定義されていない音楽が、どのようなジャンル名へとラベリングされていくのか。今から非常に楽しみです。
4月はサンダーキャットを観に行くので、次回はライブレポートと共にお届けします。お楽しみに!
ここまで読んでくれて本当にありがとうございます!