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泣いたことがないのなら、瞳は美しくなれない 1

この作品は、以前綴った「言葉にできないことは、花で言え」と

対になる作品です。

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終業のチャイムが鳴ると、麻美は視線を窓外に逸らし校門の方を眺める。正門はチャペルの尖塔の陰に隠れて半分しか見えない、それでも下校時間が近いので門扉は半分開いたままだ。夏休みが近い教室はどこか浮足立つような雰囲気に包まれていて女の子たちは、静寂を破るチャイムがまるで号砲であったかの如く、おしゃべりがはじまる。気になる男の子の話、洋服のはなし、インスタに上げた写真の話、尽きることない泉の様に彼女たちの会話は渦の様に教室を流れていく、麻美はそんな渦に逆らうように、静かに教科書やノートを鞄にしまう。

 丁寧にしまわれたノートや教科書その間にそれはあった。、昨夜作った粘土のキーホルダーだ、少々不細工になってしまったけれど今回も虎をモチーフに作り上げた、「なんか猫みたいだな」そういう弟をしり目に、真剣にラッカーで虎の縞模様を塗り上げた。もう何個目になるのか、自分で会心の作というものはまだ作れてはいないが、それでも、確実に上達してるのがわかる、初めのころに比べれば自信が持てた。ふと前の席からの視線を感じて、徐に顔を上げると、ユミがあきれたような視線を向けている。眼がすでに言いたい事を語ってる様に見える。
 
 多分彼女はこう言いたいのだろう、いったいいつまでそんな事を続けるのか?初めは麻美の決意に少女らしい賛同を示していたのだが、時がたつにつれ、どうやら彼女はそれに熱が冷めていくような、呆れるような視線を送るようになった。もっと他に楽しいこともあり、向き合わなければいけないことある、興味さえあればどんどんと、世界が広がるような高揚した年代の真っただ中いる彼女たちにとっては、麻美のこの行動などもうとるに足らないようなものになってしまってるのかもしれない。「もうそんな、約束、あの子だって覚えてないよ、もう。」


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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。

冒頭に書きましたように、この物語は、拙作「言葉にできないことは、花で

言え」のアンサー小説になっています。

併せてお読みいただければ幸いです。


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