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ベンチャー企業におけるCBを活用した資金調達の有用性

初めて書いたnote (https://note.com/hirn1024/n/n72fe66a12120?fbclid=IwAR3h9YPxBmMSu3T4D6iv1mj_HZ_Kg20PN7Vop-XhXvPSBCDyXdvUHC-LdBw) が、結構反響があったこともあり、とてもありがたく感じると同時に、やはり資金調達やValuationにおける、有用な情報はまだまだ少ないのだなと感じます。今回は、同じく情報が少ない割に、特にミドルステージ、レイターステージのベンチャー企業にとって有用性が高いと考える、CB (Convertible Bond)を活用した資金調達について、書いてみたいと思います。

CBとは何か

Convertible Bond = 「転換社債型新株予約権付社債」
日本語では一般的に「転換社債」と呼ばれている

Convertible Bond、あるいはConvertible Noteといっても良いですが、「転換社債型新株予約権付社債」、日本語では一般的に「転換社債」と呼ばれているものです。株式に転換する権利(転換権)を持つ社債であり、予め決められた価格で一定期間内に株式に転換する権利を持った債券となります。後述するように、設計次第で様々な性質のものに変えられるのですが、債券と株式の良いところを組み合わせ、自社の状況にとって最も適切な形に設計し得るところが、最大の特徴です。

CBとCEの違い

なお、混同しがちなので、補足をすると、

CB = Convertible Bond:転換権が付いた債券
CE = Convertible Equity:転換権が付いた株式

であり、両者は全く異なるものです。Convertible Equityの代表例は、J-KISSであり、シードラウンドにおいて良く使われているものですが、J-KISSを、ミドルラウンド、レイターラウンドの調達にそのまま適用しようとすると、過去の投資契約との兼ね合いなどから、なかなかシンプルに適用できず、かといって様々な付帯条件を付けてアレンジしようとすると、それはもはやJ-KISS (Keep It Simple Security)ではない、となることが多いように感じます。その為、ミドル、レイターステージにおけるCEの活用例は日本ではまだあまり多くないように感じています。

CBを活用するメリット

株式調達でも、銀行融資による調達でもなく、敢えてCBを活用するメリットは何か。主なメリットは、

① バリュエーションを先送りできる
② 株式に転換するまでは社債である為、株主間交渉が少なく、検討開始から実行までの期間が短縮できやすい
③ 投資家にとっては、(設計次第ではあるが)、万が一事業が上手くいかなかった場合は社債を償還する形で投資資金を返済してもらい、上手く次回調達が為された場合は株式に転換されるということで、純粋な株式投資よりも安全性が高い為、出資がしやすい

などが挙げられます。①を補足すると、後述の設計・議論ポイントにも関連しますが、当該CBの転換条件として、「時価総額〇〇億円以上のValuationで、〇〇億円以上を調達した場合、〇〇円でCBが株式に転換される(できる)」という適格資金調達条件(Qualified Finance条件)が付される場合が多い為、次回シリーズが行われるまで、バリュエーションを一旦決めなくて良い、というメリットがあります。急速に事業が立ち上がる中で投資家と成長性の評価が分かれる、今後、マクロ環境の変化によって業績が大きくブレ得るが、どこかで一定伸びることは投資家と意見が一致している、ただ、現時点で一定の資金調達がしたい、などの時に、一旦バリュエーションを先送りできるというのは、大きなメリットです。

日本のベンチャー企業におけるCBの活用事例

まだまだ他にもたくさん事例はあると思いますが、日本のベンチャー企業において、CBが活用された事例を、幾つか集めてみました。

・SmartHRの事例
・KAKEHASHIの事例

SmartHRは、代表の宮田さんがブログでも書かれていますが、2019年7月に61.5億円の資金調達をするに当たり、約6.5億円のCB調達を事前に行っています。宮田さんのブログの引用ですが、CBを実施した理由は”つなぎ”であり、”6月頃に各KPIや事業進捗が最高の状態になることがわかっていたので、そのタイミングまで待ちたかったのですが、キャッシュが心もとなく、デットでの調達も時間がかかりそうだったので、CFOの玉木の発案でCBを検討しました” と書かれています。

KAKEHASHIは、2019年11月に、あおぞら企業投資からCB調達を行っています。(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000033983.html) なお、あおぞら企業投資が運営する「あおぞらHYBRID1号投資事業有限責任組合」は、ベンチャー企業向けデットファンドであり、こうしたCB投資を専門に行うファンドであるため、CBを検討することによって、このような新しい投資家へのリーチも期待できます。

CBを実施するに当たっての、主な設計・議論ポイント

・転換できる”権利”か、転換しなければいけない”義務”か
・適格資金調達条件(Qualified Finance条件)

もちろん詳細なポイントはもっとたくさんあるのですが、CBを実施、検討するに当たって、大きな議論ポイントは、上記2点であると考えています。
まず、一つ目のポイントですが、CBの設計上、適格資金調達を行った時に、投資家はCBを株式に転換”できる”、という建付けにも、CBを株式に転換”しなければならない”という建付けにもできます。言わずもがなですが、前者は権利なので投資家有利、後者は義務なので発行会社側に有利です。適格資金調達の条件とセットで、良く議論されるポイントだと思います。

次に、適格資金調達条件ですが、先ほどのとおり、ラフに言えば、「時価総額〇〇億円以上のValuationで、〇〇億円以上を調達した場合、〇〇円でCBが株式に転換される(できる)」という条件です。時価総額を幾ら以上に設定するか、幾ら以上の調達の時とするか、転換される場合の条件はどうするか(〇%ディスカウントとディスカウントを付ける、〇円以下とキャップを付ける、その組み合わせなど色々なオプションがあります)などが主な議論ポイントとなります。

最後に

ベンチャーにおける資金調達として、株式調達(第三者割当増資など)と融資調達(銀行借入など)が活用される場面が多く、それに比べると、CBを活用した調達はまだまだ事例が少ないと思います。一方で、CBの選択肢を加えることで、特にミドルステージ、レイターステージの企業にとっては資金調達の選択肢が増え、結果として、より自らの状況に適した資金調達や、企業価値向上が期待できると考える為、是非、選択肢の一つとして頭の中に入れておいて頂ければと思います。
なお、回し者でもなんでもないのですが、このnoteで書かれた内容を更に詳しく調べたい方などは、この本もお勧めなので、読んでみてください。スタートアップ投資ガイドブック

最後に、前回と変わらずで恐縮ですが、twitterも頑張って続けようとしていますので、宜しければ是非フォローをお願いします! (https://twitter.com/turio10241)


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