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にゃんとも素敵な物語〜秋谷りんこ著『ナースの卯月に視えるもの』感想


2023年の創作大賞「別冊文藝春秋賞」受賞作

『ナースの卯月に視えるもの』


著書の秋谷りんこさんは元看護師さんです。本作の看護の描き方は現場を踏んできた人ならではの説得力に満ちています。こんなに忙しく命を削りながら、患者と家族に対峙してくださっていたのかと感謝の念を新たにしました。

タイトルの不思議な「視える」という言葉に心を傾けながら各話を読み進めていくと、幽霊ではないものが視えるのだということがわかります。それが一体なんなのか、各話の終盤にならないとわからないミステリー作品でもありました。謎を解くことで救いを得られる、稀な物語です。


私自身は患者の家族として、ホスピスの看護師さんに大変お世話になっていて、看取ったあと数ヶ月後に手書きのお便りをいただいたことがあります。その経験から、ひょっとして絵空事のように思ってしまうのではないかと不安も少しありましたが、杞憂に終わりました。この作品に登場する病院で働く人々、患者や家族、そして「思い残し」までもが、現実にいるように感じられました。

この作品は、舞台こそ病院ではありますが全ての人に寄り添ってくれる物語です。

今の日本で声をあげられずにいる人々に、主人公の卯月が少々おせっかいを焼きながら同僚や友人の助けも得て、「思い残し」や、自由に動けない患者さんの困難に向かい合います。

他人のために奔走する卯月自身が、長く押し込めていた思いに向き合うことは簡単なことではなく…。読者の私も顔が腫れるような感覚を味わいました。

人物描写とは対照的に、折々に登場する桜や風の表現は清々しく、心が落ち着くのもこの作品の魅力のひとつ。詩歌が好きな私は、短文で表現される秋谷構文の心地良さを堪能し、読了して数日後にはもう一度読み返したほどです。

思い残し…と聞けば身内や友人のことしか浮かばない私には、この作品の卯月の視野の広さや行動力が羨ましくもあり危なっかしくもあり。ハラハラして読む場面もありました。

本作は続編が既に決定しているということで、どうか卯月が事件や事故に巻き込まれませんように!と願わずにはいられません。

もう思い残すことはない、生を全うしたと最期の瞬間に思うような死に方ができる人は、どれくらいいるのでしょうか。

秋谷さんの願いが、まるで読者に宛てた手書きのお便りのようで読後感が素晴らしい作品でした。



映画館の近くにベンチがあり、そこへ座って最後のエピソードを読みました☺️涙もろい人は外で読まないほうがいいかも。帯に偽りなしでした!!


トップ画像は、クリエイター三毛猫かずらさんのイラストです。猫をこよなく愛しているかずらさんは、ご自身のお仕事のこと、過去の体験をイラストと物語で表現されております。猫好きなかた、お仕事でお悩みのかたには特に共感の嵐なので、良かったらぜひアカウントへ飛んでみてください♩

みんフォトに、他にもイラストを登録してくださっているそうです。「mikenekokazura」で検索してくださいね✨🐈✨

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