ターンブル&アッサー社長のインタビュー

私が初めて外国を意識したのは、おそらく13歳の時に聴いたビートルズだろう。もちろんビートルズなので、英国ということになる。人によっては米国の場合もあるだろうし、フランスやイタリアの場合もあるだろう。
それはきっと、料理や絵画や音楽といった芸術というきっかけが多いのではないだろうか。それらがなんらかの関わりで日本に入ってきて、我々と出会うのである。

私はその後も音楽や文学の縁で米国と出会ったが、服飾文化で再び英国と出会うことになった。それは自分の趣味や日常生活ではなく、仕事である。仕事で英国サヴィル・ロウのテーラーと縁が出来た。不思議なことに、サヴィル・ロウにはビートルズのオフィスがあった通りだ。ビートルズ最後のライブパフォーマンスは、そのオフィスの屋上で行われたのは有名な話だ。

英国とつながりが出来て、自然といろいろな服飾業界のことを学ぶことになった。その中のひとつ、1885年から営業しているシャツ店がある。そこはターンブル&アッサーといって、かなり名の知れた店である。

英国の服飾関連商品ばかりを輸入して取りそろえているセレクトショップとして、ヴァルカナイズという店はおそらく日本唯一なのではないだろうか。その大阪店がリニューアルオープンするに際して、立派なパンフレットが届いた。
ページをめくると、美しい写真が多く掲載され、良くできたレイアウトのグラフィックに、しばし英国への小旅行という気分になる。

パンフレットには数多くのブランド、商品が掲載されているが、最後の方にターンブル&アッサーの現社長、スティーブン・ミラー氏のインタビューが掲載されていた。こういったパンフレットは、あたりまえだが、商品をよく見せるための宣伝文章に覆い尽くされていて、もちろん私はそういう広告の仕事もしているので、参考にしつつも、やはりどう書いても広告文としてしか読めないもどかしさを感じることが多い。
そんな中、ミラー氏のインタビューは、広告をすこしだけ逸脱したおもしろさがあった。

ターンブル&アッサーは、プロモーションをしていないという。広告宣伝をしていない、ということだが、それは必要ではないとのことだ。

『新しいお客さまは、評判や誰かに紹介されてやってきてくれます。我々にとってはそれが一番の宣伝なのです』

私が長らく仕事をしているサヴィル・ロウのテーラーも、同じ事を言っていた。

さらに続く。質問者がこう聞く。
オーダーするにあたって必要なものは?
『自分が心地よくいられるものを知っている必要があります。そしてこれは往々にして年齢がものを言うのです。ある年齢に達しないと、人間は自分が求めているものがはっきりしないものです』

この問答は、もやはターンブル&アッサーの広告やミラー氏の思想を超えて、人と物との本質的関係性を語っている。こんなインタビューをよく取れたなと、私はインタビュアーの幸運を思う。

最後に、一般的にいわれるドレスコードというものについてどう思うか、という質問に対して、次のような返答でインタビューは幕を閉じる。

『それはファッションではなくスタイルです。招待状に“ブラックタイ”とあれば“ブラックタイ”なのです。ファッションとは関係なく、人と交流するためのスタイルとして、イベント、時間帯に合ったスタイルで行くことはとても大切です。~中略~(私たちは)これからもファッションではなく、その本物のスタイルを人々に伝えていきたいと思います。』

このコメントも、サヴィル・ロウのテーラーから私は何度も聞かされてきたことである。

結果として、この良質なインタビューは優れた広告たり得ている。

共感するところの多いインタビューだった。

Nori
2012.09.17
www.hiratagraphics.com